『東京ラブストーリー』柴門ふみが初の怪談マンガを発表! 自らのルーツと怪談への愛を語る

2014/7/5

柴門ふみ

 

10周年記念号となる怪談専門誌『幽』21号がついに刊行された。なんと今号に、柴門ふみさんが初めての怪談漫画「奉納人形」を発表した。恋愛漫画の神様が、なぜ怪談に挑戦したのか? 柴門さんのルーツと隠れた怪談愛に迫るスペシャル・インタビューを、「ダ・ヴィンチニュース」だけのロングバージョンでお届けする。

~怪談は人間の根源的なものを描けるジャンル~

『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』などの恋愛漫画で幅広い世代に人気の漫画家・柴門ふみさんが、初めての怪談漫画「奉納人形」を発表した。実は以前から怪談に興味を持っていたという柴門さん。同作の発表を皮切りに、今後は怪談専門誌『幽』誌上に、怪談漫画を連載してゆくつもりだという。

「怖い漫画はもちろん、色んなジャンルの作品を描きたいんですよ。でも、『東京ラブストーリー』以降、ラブストーリーの依頼を受けることがほとんどで。読切短篇を描ける場が、ここ最近はなかったんですね」

――怪談関連ですと、子供の頃はどのような作品に触れていらしたのでしょうか。

「小泉八雲の怪談本は大好きでした。何度読んでも、不思議と怖いんですよね。ああいう伝統的な怪談には、いつまでも古びない根源的な怖さがある気がします。わたしの子ども時代は、テレビをつけると日本の古い怪談映画をやっていたし、楳図かずお先生の恐怖漫画も大ブームでした。そういうものも印象に残っています。基本的に怖がりなくせに、怖いもの好きなので、あとから後悔するんです(笑)」

――御出身は四国の徳島ですよね。坂東眞砂子さんの『死国』を見ても分かるように、四国は霊的なものや土俗の怪異伝承が豊かな土地柄です。御実家の周辺などで、不思議な話を耳にされたことも多いのではないですか?

「徳島には大きなお屋敷や古い建物がたくさんあり、あちこちに闇がわだかまっていました。実家の廊下の隅なんかは一日中薄暗くて、怪談を読んだ後は、トイレまで歩いて行くのが怖かったです。奥座敷があって、風邪を引いたらそこに寝かされるんですが、祖父の古い写真が飾ってあるから怖くて怖くて(笑)。わたしの地元はとにかく祖先を大事にするんです。眉山(びざん)という山のふもとに大きな墓地があって、そこではよくみんな『人魂を見た』なんて言ってました」

――都会的な恋愛物語の書き手としての印象が強烈な柴門さんですけれど、そのルーツには、日本の伝統的な暮らしや価値観が脈々と流れていらっしゃるわけですね。今回、『幽』21号に掲載された新作短篇「奉納人形」でも、そうした土俗の闇が実に効果的に描かれています。

「普通の人に狂気が宿った瞬間が、一番怖いなと思うんです。今回だと真面目そうな旦那が、ぶつぶつと呟きながら人形を作っているシーン。これまでよく知っていた人が、一瞬別人になる。ああいうのが怖いなと思うんですよね」

  • 柴門ふみ

~土俗的なものへの距離感~

「奉納人形」のあらすじは、こうだ。
主人公のレイカは、4年前に結婚した真面目なサラリーマンの夫・義彦と何不自由のない(でもちょっぴり退屈な)毎日を送っていた。ある日、フェイスブック上での交流をきっかけに昔の恋人・拓也と再会。いまだに売れない役者をやっている拓也の甘い言葉に誘われ、つい体を重ねてしまう。
帰宅したレイカを待っていたのは、会社に出かけていたはずの義彦だった。にこやかに笑う義彦は、実家の四国から届いたという段ボール箱を開け、中からあるものを取り出してみせた……。

――物語の大きなポイントになるのが、四国の田舎に伝わる〈奉納人形〉という風習ですね。一家の長男が藁や和紙で手作りし、神様に奉納するというもので、その裏側にはぞっとするような意味が込められている。主人公の夫・義彦は徳島出身という設定です。本当にこんな風習が?

「ないと思いますよ(笑)。イメージのもとになったのは<菊人形>なんです。首だけ和紙で作ってあって、体にびっしり菊の花が咲いている。あの姿が昔から妙に怖くて。あまりに怖いから、詳しく調べてみたことがあるんです。何でも気になると調べてみたくなる性格なんですよ」

――安定した夫との生活と、生活力のない昔の恋人との関係。その間で揺れ動く現代女性の心理をリアルに描いた前半から、土俗的な恐怖が迫りくる後半のクライマックスへ。そのコントラストが、怪談漫画としての大きな魅力になっていますね。

「そこは狙いでしたね。現代的な物語の中で、伝統的な恐怖を描きたかったんです。東京には地方から出てきた人がたくさんいる。案外、都会と土俗的なものの距離って遠くないと思うんですね。私も東京にきて40年経ちますけど、徳島に帰るとすぐに意識が戻りますから。自分は徳島県民だったんだなって、あらためて気づかされます」

――そうした地元の風習や伝承には、以前から御関心が?

「雑誌の連載で各地の神社仏閣やお祭りを訪ね歩き、その成果を『ぶつぞう入門』『にっぽん入門』という本にもまとめているんです。そもそもは『ぶつぞう入門』のためにお寺巡りをしたのがきっかけなんですけど、日本の民間伝承って、古いのになぜか納得できるんですよ。残酷だったり、突拍子もなかったりする話でも、皮膚感覚で納得ができてしまう。ずっと昔のことが『分かる』自分って面白いな、と思ってますます興味を持ったんです」

――怖いのに、懐かしい。今回の「奉納人形」も、まさにそうした作品ですね。恐怖に見舞われたレイカの姿を通じて、夫婦間のモラルや愛情をめぐる深い問題も描かれている。

「昔から伝えられてきた怪談には、人間の根源的な部分というか、大切にしたい感情が描かれていると思います。この連載でもそんな人間の深いところを描いていけたらいいなと思っています」

――ちなみに、柴門さんはこれまで幽霊を見たことはありますか?

「以前、家族で八ヶ岳の貸別荘に泊まりにいったんです。別荘の真ん中に共同浴場があって、入りに行こうとしたら、中から桶を使う音とか、笑い声が聞えてきたんですよ。ところが、戸を開けてみると誰もいない。空耳かなと思って、一人で髪を洗っていたら、今度はすぐ後ろで物音や笑い声がして……。そのまま顔をあげずにタオルを巻いて逃げました。その晩、わたしと娘は二階で寝ていたんですが、主人は一階で仕事をしていた。翌朝になって娘が『パパが夜通しばたばたとうるさかった』というんですが、主人は逆に『二階からずっと物音がしていた』っていうんです。一体何だったんでしょうね」

――おお! いつか『幽』でその別荘を取材させてください(笑)。次号以降の御作品も、本当に愉しみです。

現代人の中にひそむ普遍的な感情を、恐怖とともに描きだす柴門さんの新境地。『幽』創刊10周年を飾る大型連載のスタートを、是非ともお見逃しなく!

 

さいもん・ふみ●1957年、徳島県生まれ。83年『P.S.元気です、俊平』で第7回講談社漫画賞、92年『家族の食卓』『あすなろ白書』で第37回小学館漫画賞を受賞。他の作品に『同・級・生』『東京ラブストーリー』など。『最後の恋愛論』『ぶつぞう入門』などエッセイも多数。

聞き手=東 雅夫 構成・文=朝宮運河 写真=下林彩子

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