アドラー心理学の第一人者による、自分をはげまし、大切な誰かをはげます「勇気づけ」とは

人間関係

2014/7/7

 悩めるビジネスマンの琴線を震わせ、30万部のベストセラーとなった『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎、古賀史健/ダイヤモンド社)が、先日、Amazonの2014年上半期ランキングの総合1位に輝いた。

 しかし、日本におけるアドラー心理学研究には、いくつか流派があることをご存知だろうか。

 前述の『嫌われる勇気』の著者、岸見一郎氏は日本アドラー心理学会の顧問であり、学究肌で知られている。

 もうひとつ、アドラー心理学にもとづいたカウンセリングや個人セミナー、企業研修などを行う、ヒューマン・ギルドという団体がある。その代表が岩井俊憲氏だ。

 自身もカウンセラーである岩井氏による著書、『カウンセラーが教える「自分を勇気づける技術」』(岩井俊憲/同文舘出版)では、アドラーの教えにもとづく「自分や人への勇気づけ」のテクニックが紹介されており、より実践的な構成になっている。アドラーが重視していた「勇気づけ」と「共同体感覚」という価値観を中心に展開されているのだが、そもそもなぜ、「勇気づけ」が大切なのだろうか。

 本書を開くと、アドラーの定義する「勇気づけ」には、人としてそなえておくと、より生きやすくなるスタンスがたくさん含まれていることが伝わってくる。

 まず「勇気のある人」とは、自分の欠点や弱さを客観的に認めて、ありのままの自分自身を受け入れている人である。

 そのため、自分を必要以上に過大評価や過小評価することがなく、自分のもち味を上手に活用することができ、自分とうまくつきあう方法を知っている。自分で自分の味方になる(勇気づける)ことができることから、困難な状況でもそれを克服する力を発揮しやすいのだそうだ。

 次に「勇気づけ」とは、相手を尊重して共感する態度を指している。話すときはひとりよがりな自分の主観に寄らず、相手の目で見て、耳で聴いて、心で感じとろうとするぐらいに、深く寄り添おうとする感覚が基本になる。

 ゆえに、ただやみくもに「死ぬ気でがんばれ!」「お前ならできる!」「大丈夫!」と、安易で無責任な声がけをしてしまうのは、勇気づけではない。無意識のうちに上から目線でほめることも、相手を評価してしまうことになるので、同様だ。

 たとえば「すごくがんばっていたのに、今回は本当に残念だったね。でも少し、学べたこともあるかもしれないよ。何かできることがあったら、いつでも声をかけて」というような、上下関係ではなく、同じ目線で寄り添える横の人間関係を重視する。実際、勇気づけの手法は、組織の活性化や教育現場、子育ての分野などでも注目され、取り入れられているそうだ。

 さらに「勇気づけで誰かを支援する」貢献感が、自分の所属する場所や、仲間の役に立ちたいという「共同体感覚」につながり、自分への信頼感や幸福感が生まれてくるのだという。

 人を勇気づけるには、まずは自分自身の心が強く穏やかな状態でなければ難しい。そこで今回は、自分を勇気づける技術の導入部分をご紹介する。小手先のテクニックとして覚えるのではなく、日常のふるまいや態度から染み込ませていくことが大切だそうだ。

■勇気づけ名人になるための3ステップ

1)自分自身を勇気づける
 たとえば「自己犠牲のすぎるいい人」は、実は人から嫌われるのを恐れている可能性が高い。それがいきすぎると、自分は受け入れられているのかどうかが気になり、不安に陥りやすい傾向にはまってしまう。
 思いきって「嫌われる勇気」をもち、外面を気にしたり、相手の顔色を読んだり、状況に過敏に配慮して行動するのをきっぱりやめて、自分に素直に生きることから始めてみよう。

2)勇気くじきをやめる
 アドバイスのつもりで言った言葉が、相手を怒らせてしまったり、必要以上に落ち込ませてしまった経験はないだろうか。その場合、実は相手の望まない助言や対応をしてしまった可能性があり、それが「勇気くじき」につながる。
 話を聞くときはあくまで相手主体で、しっかりと真摯に聴く。相手が話している間は決して口をはさまず、傾聴中心のカウンセリングマインドで受け止めることを実践してみよう。

3)勇気づけを始める
 自分を勇気づけるメソッドを始めてみる。
 <1日が明るく変化していく、朝の3つのメソッド>
 1、朝起きたら、大きく伸びをし「爽快だ!」と声に出してみる
 2、洗面所で自分にニッコリほほ笑みかけて、副交感神経を優位に導く
 3、人に対する「おはよう」「ありがとう」の言葉をおろそかにしない

<終わりよければすべてよし、夜の3つのメソッド>
 1、帰宅したらスイッチを切り替えて、安らげる時間をつくる
 2、風呂は心の疲れも洗い流す場所。その日あったイヤなことも泡と一緒に洗い流す
 3、眠りにつく前、今日感謝したい事柄や人を思い浮かべて「ありがとう」を言う

 アドラーは、大切なのは「ここ一番」のピンチのときに、楽観主義でいられるかどうかだと言っている。危機管理能力の薄さで常に“きっと大丈夫”と、脇を甘くするのではなく、ギリギリのところまで追いつめられたときこそ、「こんな状態からでも自分なら逆転できる!」という強い信念をもてることが、ピンチを跳ね返す可能性を残すというのだ。

 また、彼の名言集には「性格は今この瞬間に変えられる」という言葉も載っている。信念を変えることで、行動や感情は大きく変わっていく。人生という舞台の脚本を書くのは自分自身であると捉えて、一歩を踏み出す勇気をもってみよう。

文=タニハタマユミ