小泉孝太郎演ずる杉村三郎が帰ってくる! 宮部みゆき『ペテロの葬列』がドラマ化

テレビ

2014/7/7

 あの杉村三郎が帰ってきた。

 小泉孝太郎主演のドラマ『名もなき毒』の続編、『ペテロの葬列』が7月7日、TBS系列にてスタートする。原作は宮部みゆきの同名小説で、「杉村三郎」シリーズの第3作に当たる作品だ。

 原作も未読、前作のドラマも未見、という方のために、まずは主人公である杉村三郎についてご紹介を。

 杉村三郎は03年刊行の『誰か』、06年の『名もなき毒』という2つの作品の主人公であり、大財閥の今多コンツェルン広報室に勤める人物である。家族は妻の菜穂子と、娘の桃子の3人暮らしだ。一見、どこにでもいる平凡なサラリーマンの家庭に見えるが、実はかなり複雑な事情を抱えている。というのも妻の菜穂子はコンツェルンの会長・今多嘉親が愛人との間に作った娘であり、嘉親と杉村は義理の親子の関係にあるのだ。この微妙な立場によって、杉村は周囲から「今多家という権力に取り入ろうとする人間」と見なされることもある。そうした世間の厳しい目に晒されながら、杉村が偶然出会った事件の裏にある真実を紐解いていく、というのがシリーズの基本的な流れなのである。

 最新作『ペテロの葬列』(集英社)は杉村が取材帰りの途中、バスジャックに出くわすという、シリーズ史上もっとも物騒な場面から始まる。

 バスジャックの犯人は拳銃を持った老人だった。しかしこの老人、身代金などは要求せず、代わりにある人物の名前を3人挙げて、彼らをここへ連れてきて欲しいという。おまけに人質には慰謝料として後で現金を届けるとまで言い出す。実に奇妙なバスジャック犯だ。

 バスジャック自体は3時間ほどであっけなく解決してしまうが、杉村と事件の関わりはそこで終わらなかった。老人の言った通り、人質のもとに多額の慰謝料が送られてきたのだ。老人の目的は一体なんだったのか。杉村はバスジャックの背後に隠れた、真の動機を探り始める。

 「杉村三郎」シリーズを一口で表すならば、悪意の在り処を探る物語、ということになる。杉村が追う事件には常に目には見えづらい悪意が潜んでいる。表面上には決して現れることはないが、その悪意は伝染病のように人から人へとうつり、やがて人々を侵食し、腐らせる。『誰か』と『名もなき毒』は悪意の存在と、それが拡がるおぞましさを描いた小説なのだ。

 この『ペテロの葬列』も悪意の伝搬をテーマにしているが、それは前2作以上に複雑かつ不気味な形相でもって現れる。バスジャック事件の背景にある構図が見渡せたとき、そこに横たわる悪意の途方もないスケールと、際限のなさに読者は寒気を覚えるはずだ。

 その悪意を見つめ続ける役割を担うのが、主人公である杉村三郎なのである。彼は基本的に穏やかな好青年であり、先に述べた家庭の事情を除けば平々凡々とした人間に見えるかもしれない。しかしその誠実さゆえに、人々が抱え込んでしまった負の感情に寄り添うように付き合い、解決するまで我慢強く、じっと見届けるのだ。その心優しき観察者としての杉村に惹かれてシリーズを読む方も多いだろう。

 『ペテロの葬列』が暴く世界の姿は醜く、ほろ苦い。だからこそ本書は悪意に絡め取られないための心構えを身につけさせてくれるのだ。

 杉村三郎とともに、この世の暗い場所を見つめる覚悟が貴方にはあるか。

文=若林踏