【第15回】「くるり」も参加 ―noteがつなぐ クリエイターとファンの新しい関係(前編)

更新日:2014/7/11

 定額購読型電子マガジンcakesを展開しているピースオブケイクが、新しくnoteというサービスをはじめました。クリエイターが、文章・写真・動画などを自由に投稿でき、その内容を気に入ったファンと交流し、コンテンツを気軽に販売することもできるというものです。ありそうでなかったnoteというサービスを、私たちはどんな風に楽しめば良いのでしょうか?代表の加藤さんに詳しく話を聞きました。

電子書籍はファイナルアンサーじゃない

――実はダ・ヴィンチで加藤さんにお話しを伺うのは3回目です。1回目はダイヤモンド社に在籍されていたとき、「もしドラ」などの展開について伺いました。そして2回目は独立起業されてはじめたcakesについて。今回は4月にはじまったnoteについて教えてください。

加藤:元々僕は出版社で雑誌や本を作っていました。でも、インターネットに押されて売上が落ちてきた。そこで、ネットでコンテンツを配信して、ビジネスが出来る場所が必要だということで独立してcakesをはじめました。まずはいろいろなクリエイターのいろんなコンテンツが集まっている「雑誌」をウェブ上に作ろうと。

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 cakesは週150円、月に500円で購読できます。その裏側では参加頂くクリエイターの皆さんに、売上全体の6割のおカネが、記事が読まれた量に応じて分配される仕組みが備わっています。これまで出版社の経理の人が行っていた仕事を、ネット上で自動的に完結するようになっているんです。

 私がかつて居たダイヤモンド社がまさにそうですが、出版社は歴史的にも雑誌からスタートした会社が多いんです。雑誌というメディアにコンテンツがたまり、それを本という形にパッケージングしてビジネスをしてきた。では、ネットにその場を移した場合、電子書籍が最適解なのか?僕は、そうじゃないだろう、必要なのは個人メディアだ、と考えてnoteを作ったんです。

――電子書籍ではなく、noteという個人メディアが必要だったのは何故ですか?

加藤:電子書籍はたしかにネット時代の有力なパッケージであり、販路であることは間違いありません。過去すでに世に出た本を電子化するなら、ベストソリューションではあるんですよ。ただ、これから生まれる新しいコンテンツがあれでいいのかっていうと、それは別問題。電子書籍だけやっていると、出版とか本の未来は狭まっていくなと僕は思っています。

 そもそもデジタルで読むと、本って長いんですよ(笑)。

――たしかに、わたしもこうやってネット向けの記事を書くことが多いですが、編集さんからは短くしてって良く言われます。長いと最後まで読まれないことがあるんですよね(笑)。

加藤:画面の解像度の問題から、どうしても紙の本よりもページ数が多くなりがちで、読み進めるのが辛くなりますしね。スマホなんかだと、LINEの通知が来たりすると切り替えたくなる。だから、短くまとめられたコンテンツの方が助かるわけです。

 あと重要なのは、電子書籍は単価がこれからも確実に下がり続けてしまうという点です。Amazonのようなプラットフォームの中で戦うには、ランキングの中で競り合うしか道が残されていないのがその原因です。

――noteにも参加されている漫画家の鈴木みそ先生のお話もセールの話が中心でしたね。値段を下げて、ランキングの上位に入るほかない。

加藤:競争相手が少ないうちはそれで勝てるし、それをきっかけに量が売れればトータルではプラスになるかも知れない。けれど皆がそれを、やり始めるとどうなるか?値段がどんどんゼロに近づいていくのが未来の姿だと僕は思っています。期間限定セールを仕掛けるということは、売れる期間が短くなるし、もちろん値段は下げないといけない。つまり本一冊の売り上げは下がる一方ですね。これはもう論理的な帰結としてそうなる。

――読者にとってはより安く本が買えるのは、嬉しいかもしれないけれども、作り手からすれば、どうやって食っていけばいいの? となりますね。

加藤:僕もセールの時にたくさん本を買ったりしますけどね(笑)。でも、作り手が食っていけなくなったら、いいものが生まれにくくなっていくので、読者も結局は困ることになってしまう。だからその状況を解決する必要があるなと思っていて。

オープンでいて「閉じた」場が必要だった

 あと、電子書籍は「インタラクティブ」「オープン」といったデジタルの良さも十分備わっていないんです。

――一部ソーシャルリーディングのような機能を備えたりはしていますが、基本的に閉じた世界ですね。

加藤:閉じていないとWebコンテンツと同じに見えてしまって、なかなかおカネを頂きにくいので悩ましいところなんですよね。だから、コンテンツの未来を託すものとして電子書籍だけだと不十分だと考えています。

 本に先行してデジタル化が進んだ音楽の世界では、CDが売れなくなり、ダウンロード販売も減少傾向で、定額制へと移行しつつある。じゃあ、どうやって稼いでいるかというとライブやカラオケなどのリアルな場、ですよね。

 つまり、コンテンツとしての音楽は、ウェブ上にデータとして存在していて、ペイウォール(有料課金による壁)がうまく作られていて、一曲いくら、ではなくその中では自由にアクセスできる。ある意味、おカネを払ったユーザーにはオープンだけど、そうではないユーザーから見れば閉じている状態にあるわけですよね。これを雑誌という形で再現したのがcakesだったわけです。

――オープンだけど閉じている。ハイブリッドだと言えるかも知れませんね。

加藤:そうです。で、それを今度個人メディアに適用するにはどうしたら良いかということをずっと考えていたんですね。クリエイター個人が生み出すコンテンツは、電子雑誌や電子書籍の源であり、またそれ自体でファンとつながり、おカネを頂く可能性を生み出すからです。

 有料メルマガは実はそのつながりとおカネを実現しようというものです。実際、堀江(貴文)さんのように稼いでいる人も居る。でも、いかんせん「メール」であり、表現力に制約があります。文字中心でインタラクティビティもオープンさもない。堀江さんは「読者からの質問に答える」という形をとって、擬似的にインタラクティブさを演出していますが、それも限界がありますよね。

 あと有料メルマガは定期的に発信できるくらい、膨大なコンテンツを持ち合わせた人じゃないとできないんですよ。

――いわゆる「引き出し」がたくさんある人ですね。

加藤:ええ、だからメルマガでお金をちゃんと稼げる人って、日本で数十人くらいしかいないわけです。有名なタレントさんでも、メルマガではうまくいかなかったりする。彼らはコンテンツを自分で持っているというよりも、他の出演者とのコミュニケーションが魅力だったりするからです。メルマガだとそれがうまく表現できない。

 僕たちはそもそも「情報」に対してではなく、それが生み出すコミュニケーションに対しておカネを払っていたんじゃないかと思うんです。閉じた本や電子書籍でさえ、読んで分かった!というのも広く言えば著者とのコミュニケーションですし、友だち・同僚との交流のきっかけにもなり、価値を感じる部分じゃないですか。

――まったく同感です。

加藤:そのための仕組みを整備しよう、つまり、クリエイターとファンがコミュニケーションを取れて、おカネも気持ちよく払ってもらうことができるようにしようと考えて作ったのがnoteなんです。

クリエイターとの「つながり」が価値を生む