マンガの海賊版撲滅を目指す ―Jコミから「絶版マンガ図書館」へ

マンガ

更新日:2014/7/11

 絶版マンガを全巻無料配信しているJコミが7月11日、「絶版マンガ図書館」として生まれ変わる。それに先立ち10日、発表記者会見が開かれた。

 絶版マンガ図書館は、出版社が取り扱わなくなった全ての絶版マンガを収集し、全巻公開することで「日本のマンガ文化の100%保存」すること、またそれにより絶版マンガの海賊版の横行を防ぐことを目指している。

 これまでJコミでは、絶版となったマンガの作者から掲載希望のあったものを中心に公開していたが、絶版マンガ図書館では読者から掲載して欲しい作品を募集する。読者がサイトにアップロードした、掲載希望作品の“資料”は、「絶版判定アルゴリズム」により自動的に、また人間の目により手動で絶版であるかどうか振り分け、絶版と判断された場合は、ランダムに選択した作品中の5ページを、電子透かしを入れ掲載。作者が公開を許可すれば、全ページを無料公開する仕組みだ。

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 作品公開ページには広告を入れるため、読者は無料で閲覧でき、作家も広告収入が見込める。そのほかにも作家が望めばKindleストアに同時登録することや電子透かし入りPDFを作家が自ら販売することもできる(絶版マンガ図書館は5%の手数料を予定)。Jコミで提供していた高精細オンデマンド印刷にも対応する。

 なお、作家が公開を望まない・あるいは作家との連絡がつかない場合は、作品の公開は行わないが、今後構築するマンガ専門Wikiとデータベースに登録し、作品情報そのものは検索できるようにするという。

 Jコミの代表取締役社長・赤松健氏によれば、「これまで絶版になってしまったマンガを読みたいと思う場合、海賊版に頼る人もいた。しかし、絶版マンガ図書館ができれば、海賊版頒布者ではなく、作家が収入を得られるようになり、読者も金銭的負担を負わずに作品を楽しめるようになる。いわば電子書籍版『YouTube』を目指す」と、同サイトの誕生理由と抱負を説明した。

 さらにマンガ作品のフキダシを自動的に検知・テキスト化するという共同研究を東大の相沢研究室と実施。マンガ作品内のセリフをテキスト化すれば、読者が特定のセリフでウェブ検索した際、海賊版ではなく絶版マンガ図書館サイトを検索結果として表示されるようになる。会場では、フォルダに入った作品のJPEG画像をそのソフトにかけて、次々とフキダシ部分のテキストが検知・テキスト化されていく様子が実演された。

 ほかにもセリフをテキスト化することで、ユーザーが読んでいるセリフと自動的に連動した広告を表示させること、セリフ内の単語から特定の商品をレコメンドできるようになるというメリットがあり、やはり作家の収入に結びつけることが可能になる。

 これまで使用していたJコミという名称を使わなかった理由としては、「J」という文字のため、(少年誌の)『ジャンプ』関連のマンガしか掲載していないのか、と勘違いされることが多かったことを赤松氏は理由として挙げた。「マンガ家としては『絶版』というあまりよろしくないワードが入っているが、より分かりやすい名称になったはず」と強調する。

 今後、著作権法改正で新設された「第2号出版権(電子出版権)」では、出版契約を結んだ作品は、原稿引き渡しから6カ月以内に電子書籍でも出版しなければならなくなる。「売れない」と出版社側で判断された作品は日の目を見ないというわけだ。これらの作品も一律に収録することを目指す絶版マンガ図書館はまさに「図書館」としての役割を担うことになる。

 記者会見の最終部分では、ソフトバンクグループのSBイノベンチャーと提携し、300冊以上のコミックを無料で楽しめる電子コミックアプリ「ハートコミックス」ベータ版を今秋から提供すると発表。これはJコミ初の他社との連携アプリとなる。

 会見が終わってから行われた質疑応答では、「電子書籍版YouTubeを目指すとのことだが、全ページ公開前にユーザーが作品を資料としてアップロードするとのこと。この場合、著作権法上、懸念される問題点はないのか」との問いに「著作権法第30条の3にある『検討過程(利用についての検討の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において,当該著作物を利用することができる。)』に当たると考えられる。そのため、権利者から許諾を得る前であっても、ユーザーがアップロードした作品の資料は公開可能であると考えている」と回答。また「絶版マンガ100%網羅を目指すとのことだが、作者が既に亡くなっており権利者不明の場合などにはどう対応するのか」という問いに対しては「その場合は権利者を探すことになるし、著作隣接権に関する文科省の裁定制度が変更され、利用できるようになると思われる。しかしそれ以前に読者から掲載希望作品が大量に寄せられると見込んでいるので、まずはそちらに対応していき、4日で3作品を公開する、というこれまでのペースを崩さないようにしたい」と述べた。

文=渡辺まりか