驚くほどホクホクの肉じゃがをつくる方法とは? 2013年いちばん売れた料理本から学ぶ、一生使える料理テク

食・料理

公開日:2014/7/23

 人生80年と考えると、人が生涯の間に食事をする回数は、約8万7600回になるそうだ。

 そのうち自分のため、あるいは誰かのために料理をつくる回数は、あと何回くらいあるのだろうか。誰だってできればおいしい料理を食べたいし、ご飯がまずいと悲しい気持ちになってくる。

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 そこで、2013年にいちばん売れた料理本(トーハン/日販調べ)、『はじめてでも、とびきりおいしい 料理のきほん練習帳』(小田真規子/高橋書店)から、いつもの料理をカンタンに「おいしくするコツ」を学んでみたい。

 著者である料理研究家&フードディレクターの小田真規子先生は、女性誌を始め、企業のメニュー開発などでも活躍する、レシピの達人。初心者から料理をつくり慣れた人まで、いつもの料理に革命が起きるその秘密とは、意外かもしれないけれど、まずは「レシピどおりにつくる」ことだという。本書ならではのレシピの秘密は、次の3つのポイントにある。

1)成功のカンどころから基本技術まで押さえた、わかりやすいレシピ構成
2)「一口大」「少々」「しんなりする」など、レシピ特有の「レシピ語」も解説
3)本書でスタンダードな「おいしさの基準」をもつことで、好みの味つけが明確になる

 そもそもレシピは、おいしい料理をつくるための「近道が書かれた地図」のようなもの。それを無視して自己流にアレンジしたり、めんどうだからと材料や時間を計らないから、おいしさにたどりつけないのだ。このあたり、ふだん“自分の感覚”で料理をして、イマイチだと感じている人間には耳が痛い。さらに、本書によるいつもの料理がおいしくなるひと手間がまた、カンタンそうで魅力的だ。

ex.
●いつものカレーにコクを出す→「薄切り」と「くし切り」、2種類の切り方の玉ねぎを入れるとコクが出る!
●うま味がひきたつしょうが焼き→調理の後半、フライパンの中で「あとふり小麦粉」することで、驚くほど肉がやわらかに!
●ジュワッと肉汁したたるハンバーグ→表と裏を「4:10の法則」で焼く!

どれも今すぐ試したくなるけれど、今回は数あるレシピの中から筆者がつくり慣れている「肉じゃが」がどこまでおいしくなるのかトライしてみた。ふだん料理をするときはダブレットでレシピサイトを開き、それを見たり見なかったり、なりゆきでつくる。しかし今回はシンクに開いた料理本を置き、切り方から忠実に再現してみた。

■「最後の10分」で味が芯までほっくりしみこむ「肉じゃが」のつくり方

〈材料〉(2人分)(鍋の直径20cm)
じゃがいも3個(正味450g)
にんじん1/3本(50g)
玉ねぎ1/2個(100g)
牛こま切れ肉(150g)
調味料A:しょうゆ、砂糖…各大さじ1
調味料B:しょうゆ、みりん…各大さじ2、サラダ油大さじ1

POINT ▶ちなみに本書のレシピの材料と分量はすべて、著者の小田先生が何度も試作した末につかんだ「おいしくつくる最小限の材料と分量」とのこと。また実は味に大きな影響を与える「調理器のサイズ」も、もれなく明記されている。レシピどおりに5分焼いても鍋やフライパンのサイズが違えば、熱の伝わり方も変わるからだ

(1)いつもは野菜を切るところから始めるが、今日はレシピどおりに「牛こま」の下ごしらえから。肉はざっくり半分に切り、ボールに入れて調味料Aをからめておく。
POINT ▶下味をからめておくことで、肉がやわらかく仕上がる

(2)次に野菜を、じゃがいも→皮をむいて3~4等分、にんじん→皮をむかずに厚さ1㎝で輪切り、玉ねぎ→皮をむいて6等分のくし形切りと、指定どおりに正しく切る。
POINT ▶素材を適切な大きさに切ることで、火の通りが早くなって水分が出すぎたり、味がしみすぎて濃くなったり、煮くずれすることを防ぐ

(3)次に中火で熱した鍋にサラダ油をひき、じゃがいも→にんじん→玉ねぎの順に入れて2分炒め、全体に油がまわったら牛肉を加えてさらに炒める。肉の色が8割くらい変わったら水3/4カップを注ぎ、煮立ったらアクをとる。ストップウォッチを片手にまじめに計測。
POINT ▶肉の色が完全に変わるまで炒めると、かたくなるので要注意!

(4)アクが出なくなったら調味料Bを加え、再び煮立ったら弱火にする。軽くぬらしたペーパータオルをかぶせ、さらにフタをして20分煮る。20分たったら火からおろしてそのまま10分蒸らす。
POINT ▶じゃがいもは余熱で蒸らすことで、中までほっくり。甘みも増す

 この最後の10分間が大切で、煮込む間は素材から水分が出るため調味料がしみ込まないが、火を止めて振動が止まると、味が素材にすっと入っていく。このひと手間で、おいしさが育まれるというわけだ。

 レシピどおりにつくった肉じゃがは、果たしていつもよりも「プロっぽい上品な味」がした。“最初に牛肉に味をつけちゃって、濃くなりすぎないのか”“野菜の切り方が少し大きすぎなのでは!?”などと、つくりながら浮かんだ不安は、すべて杞憂だった。口の中でのじゃがいものほっくりかげんも、これまた絶妙。そして何より大きな成果は「この味、次も再現できる!」という確かな自信がうまれたこと(たぶん)。

 料理はやっぱり「科学」なのかもしれない。おいしくつくるための決まりごとやコツを覚えられたら、その知識は一生使えるのではないかと思う。本書には100の「おいしいコツ」が紹介されているので、みなさんもぜひいつもの自己流のつくり方を見直して、食べる人に「おいしい!」と言わせるべく、トライしてみてはどうだろうか。

文=タニハタマユミ