原作を読まない派vs.読む派の攻防【甲本雅裕×山崎樹範 池井戸ドラマ対談】

芸能

公開日:2014/7/24

 『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』『花咲舞が黙ってない』など池井戸ドラマの常連である甲本雅裕さん、意外にも「原作に引きずられないよう」に池井戸作品に関わらず出演する作品の原作は読まないという。片や、『七つの会議』に出演し、原作も多数読み込んでいる山崎樹範さん。役者目線で見た池井戸作品の魅力とは? 『ダ・ヴィンチ』8月号の池井戸潤特集では、2人の対談を掲載している。

【甲本】 俺は『空飛ぶタイヤ』と『花咲舞が黙ってない』にも出たけど、全部つらい役柄だったね。『空飛ぶタイヤ』では被害者の遺族。『七つの会議』では倒産寸前のねじ工場の社長。『花咲舞が黙ってない』では上司のイエスマンでなければならない、板挟み状態の会社員。どの役もリアリティがあって、「あ、こういう人、本当にいるだろうな」と思わせるんだ。それが池井戸作品の魅力だよね。会話に、人間同士のリアリティとリアリティのぶつかり合いがあって。「俺は明日どういう答えを出せばいいんだろう」って日々考えているサラリーマンの厳しさが克明に描かれているから、フィクションとは思えないほど真に迫るものがある。

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【山崎】 池井戸作品って系統がはっきり分かれていますよね。『鉄の骨』や『空飛ぶタイヤ』は重厚な印象。一方で『花咲舞が黙ってない』や『半沢直樹』の原作は、キャラクターが立った劇画調で。

【甲本】 え、やっぱりそうなんだ! 『空飛ぶタイヤ』と『花咲舞が黙ってない』ってドラマのテイストが全然違うけど、あれは原作から違っていたんだね。

【山崎】 同じ作家さんが原作を手がけているとは思えませんよね。

【甲本】 俺は『空飛ぶタイヤ』と『七つの会議』に出演してから、『花咲舞が黙ってない』に出たじゃない? 最初は「あれ? 俺がやってきた池井戸さんの作品と違うぞ?」って思ってたの。正直言えば、最初に杏ちゃんと上川隆也君のシーンを見て「池井戸作品をそんなコミカルに演じていいのかな?」って思った(笑)。でも、完成したドラマを見ると、これはこれで面白いんだよ。

――甲本さんも『花咲舞が黙ってない』ではコミカルな演技を見せていますよね。

【甲本】 1話でなにか違うと気づいたので、そこからは過去の池井戸作品を頭から切り離して、児玉直樹役(※)を演じました(※花咲舞と敵対する、真藤本部長の部下。真藤の手先として、彼女に対する妨害工作を仕掛ける)。今の山崎君の話でようやく納得したな。そうか、原作もテイストが違うんだ。いやー、今知った。もう俺の撮影、最終回しか残ってないよ!(笑)。

【山崎】 やっぱり原作を読んでおいたほうがよかったんですよ!(笑)。

【甲本】 あれー!? やっぱそっちのほうがいいのかなぁ……。そうだ、原作を読んでる山崎君に聞いておきたいんだけど、『花咲舞が黙ってない』の真藤本部長(※)ってさ、……悪い人なの?(※生瀬勝久演じる経営企画部本部長。花咲舞によって自派閥の支店長が次々に更迭されたため、彼女を目の敵にしている)

【一同】 (爆笑)

【甲本】 俺、いつも真藤本部長といっしょにいる役だけど、「本当はどんな人なんだろう」って思ってたんだよね。独善的に見えるけど、もしかしたら正しいところもあるのかもしれない。生瀬さんを横で見ながら、「どっちなんだろう」って思ってるんだよ(笑)。

【山崎】 それは自分で原作を読んでくださいよ! でも、池井戸さんみたいな作家って、なかなかいませんよね。例えば山崎豊子さんは、どの作品でも山崎豊子節じゃないですか。ここまで振れ幅が大きいのは、池井戸潤さんだけだと思います。

【甲本】 『花咲舞が黙ってない』もコミカルではあるけど、毎回起きる事件は現実にありそうなんだよね。ドラマなりのデフォルメはされていても、根幹にはリアルなものがある。そこが受けているのかもしれないね。

【山崎】 『花咲舞が黙ってない』と『半沢直樹』は、見ていて気持ちがいいですよね。原作の『不祥事』と『オレたちバブル入行組』もそうですが、『水戸黄門』みたいで読んでいてスカッとする。若い人からお年を召した方まで、幅広い層に受けると思います。それに、どの作品も最終的に苦労が報われるのがいいんですよね。映像化されていない小説も、僕が読んだ限りではイヤな終わり方をする作品はなかった気がします。途中はハラハラしますけど、読後感が気持ちいい。読み終わって「よし終わった! ありがとう!!」って思えるし、だからこそ次から次へと読んじゃうんですよね。

 結局、ドラマのために原作は読むべきか読まざるべきか? 同誌では二人それぞれの目線でドラマと原作双方の魅力に迫っている。

取材・文=野本由起/ダ・ヴィンチ8月号「池井戸潤」特集