なぜ性犯罪を犯すのか? なぜ繰り返すのか? 「性依存症」について考える

社会

2014/8/1

 痴漢、盗撮、覗き、露出、下着泥棒、未成年者との性行為…毎日のように報道される「性犯罪」。しかし性犯罪者たちの供述は、判で押したように「ストレスが溜まってやってしまった」と言うばかり。そして周りの犯人についてのコメントも「まさかあの人が」「普段は真面目な人」とこちらも判で押したようで、原因がよくわからず、なぜ性犯罪を起こすのか、またなぜ繰り返すのかというのは多くの人が疑問に感じていることと思う。

 性依存症に関する諸問題について医学や法律の専門家が執筆した『性依存症の治療―暴走する性・彷徨う愛』(榎本稔編/金剛出版)を見てみると、性犯罪を引き起こす「性依存症」は事件や犯罪の側面から捉えるのではなく、ずっとセックスに関することが頭の中に渦巻き、強迫性、貪欲性、衝動性、反復性によって性衝動や行動を繰り返す「心の病気」「現代病」であると理解することが必要だと述べている。性依存症には痴漢や強姦など、被害者が存在して犯罪化するものと、強迫的な自慰行為やネットを介したセックスへの耽溺、風俗店通いがやめられないなど、被害者はいないが自分の行動をコントロールできず社会生活が破綻してしまうという2つのタイプがあり、性依存症のほとんどは男性で、性依存者の内訳は痴漢が一番多いという。

 性依存症の人が性行動を起こすのは、ストレスなどが原因で性的なことだけしか考えられなくなり、冷静さを失って、あるときにスイッチが入ってしまうときだ。その行動によってスリルと興奮、高揚感、達成感を得られ、最高の快感にまで高められるという。しかもその行動中は軽度の解離性意識のもとにあって、「どうしてこんなことをしたのか自分でも覚えていない」という状態になるそうだ。また性依存症の人は性の対象となる人を「もの」としてしか見ておらず、相手の感情が理解できなくて、冷淡で無関心なのだそうだ。

 そして彼らは日常的に心の奥底に「性嗜好のファンタジー」を抱いており、それは生涯保ち続けて消えることがないという。その性嗜好のファンタジーを満たすような快感を味わうために、チャンスがあれば繰り返し、捕まるのは運が悪いからと考え、贖罪の意識が欠けていて、本人の意志だけではどうにもならない…というのが「再犯してしまう原因」なのだ。また犯罪を犯しても懲役や示談で終わってしまうことも、再犯を防げない原因となっているという。そして性依存症の人は痴漢なら痴漢、覗きなら覗きと同じ行動を繰り返すのが特徴で、こうしたことからも独自の性嗜好のファンタジーに衝き動かされているのがよくわかるだろう。

 本書には学術論文のような少々読みづらい部分もあるが、実際に性犯罪を起こしてしまった人のケースや、SAG(性犯罪再犯防止プログラム)ミーティングに参加した性依存症の人たちの驚くべき発言は一読に値する。そして性依存症の人を見守るクリニックの女性スタッフたちのコメントには驚かされた。彼女たちによると、性依存症の人たちは真面目だがルールを守らない人に対して腹を立てるなど独善的な面があり、学歴や成績などで本人たちに優越感があって、継続的に長期間いじめられた経験があり、自分の問題行動を話すことを嫌がらない、また子どもの問題に介入するような母親(遊んで欲しいと頼んだり、子どものケンカに入ってきたりすること)が何でもやってくれたタイプが多いのではないかと語り、誰かに対して「◯◯してくれない」と愚痴を言う人が多いそうだ。そんな人、あなたの周りにいないだろうか?

 これは本書を読んだ個人的な感想だが、性依存症になる人は対人関係の構築方法になんらかの問題を抱えてしまったことで、対人関係から「性的なこと」を知ることができず、間違った性のイメージを自分の妄想のままに肥大させ、気づいたら自分の中で固まってしまった「間違ったイメージ」でしか興奮できないという、後戻りすることさえできない状態になってしまっているのではないかと感じた。本書で「子どもの性加害と被害」を担当した医師の阿部惠一郎氏は「性に興味を持つことは良いことでも悪いことでもなく、当たり前のことだと伝えていく必要がある」と述べているが、まさにそのひとことに尽きると思う。

 精神疾患や心の問題を抱える人、そして日本で数少ない性依存症の人たちの治療を行う「榎本クリニック」の理事長であり、本書の編著者である榎本稔氏は、本書を「性依存症あるいは性犯罪問題は、懲役という矯正方法だけでは限界があり、再犯を防止することは困難を極めている。今後は、精神医療的なアプローチとの連携が必要となってくると考えている」と締めくくっている。性犯罪や社会生活の破綻を引き起こす性依存症についての正しい理解、性犯罪の加害者・被害者とその家族への支援、性犯罪における裁判やインターネットに関する問題、そして治療としてどんなアプローチが必要なのかなど、「性依存症」は現代の重大な問題となっているのだ。

文=成田全(ナリタタモツ)