ポスト『よつばと!』の本命はこれ!? 「青森×魔女」ふたつの非日常で切り開く日常系の新境地『ふらいんぐうぃっち』

マンガ

公開日:2014/8/6

ふらいんぐうぃっち』(石塚千尋/講談社)

「ツラい現実を忘れて、あの作品の世界に飛び込みたい――」

 『よつばと!』や『けいおん』など、いわゆる“日常系”と呼ばれるジャンルがマンガやアニメに定着して久しい。大きな物語を描くのではなく、少女達のユルめな日常が淡々と描かれるこのジャンル。その中で次のブレイク候補作品として注目を浴びているのが石塚千尋『ふらいんぐうぃっち』(講談社)だ。

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 『ふらいんぐうぃっち』の主人公は、横浜から青森の弘前にある親戚の家にやってきた魔女の真琴。『別冊少年マガジン』で連載されており、真琴を中心に、従兄妹やその友人、同じく魔女で天才の姉らとのユルい日々が描かれていく。

 一般に日常系では「+α」の要素が重要と言われる。ライトなオタク要素しかり、子供視点しかり、百合しかり。この『ふらいんぐうぃっち』におけるその「+α」は“弘前”と“魔女”だ。このような一風変わった作品がどのようにできあがったのか、作者の石塚千尋さんにメールで話を伺った。

 
――『ふらいんぐうぃっち』にキャッチコピーを付けるなら?

石塚:「青森で魔女はじめました」ですね。
 
――その発想はどのように生まれたのでしょうか?

石塚:新人賞をもらった時の魔女マンガを連載にしようと思い、そこにもうひとつ設定をつけるために舞台を青森にしました。それから日常系のマンガにしようと思い、そのイロハを担当さんと一緒に学んでいきました。
 
――青森の弘前が舞台である理由は?

石塚:ずばり、地元だからです。説得力のある場面を描きたかったので、自分がよく知る場所にしました。弘前は緑が多くて静かなところです。魔女ともマッチしますよ。
 
――取材はどのようにしていますか?

石塚:自分でカメラを持って歩いています。近所のおじいちゃんに「漫画描いてるんだって?がんばってらな~(津軽弁)」と話しかけられたこともありますよ。
 
――“田舎あるある”ネタも多いですが、その発想はどこから?

石塚:家族から聞いた話や体験談などを織り交ぜています。それをどうファンタジーに落とし込むか、いつも考えています。
 

 最新巻である2巻の表紙は満開の桜で彩られる。例年5月に開催され、遅咲きの桜で有名な「弘前さくらまつり」の1シーンを切り取ったかのようだ。その一方で、例えば第1話冒頭に登場する何気ないバス停に代表されるような“どこにでもある”感のある描写もたっぷり。作者の綿密な取材によって、ご当地感と読者にとっての親しみやすさが違和感なく両立しているのが『ふらいんぐうぃっち』の魅力だ。

 その一方で、作中では“非日常”である魔女の要素が、限りなく日常に溶け込んでいる。登場する魔法も泣き上戸/笑い上戸になったりと他愛のないものが多く、あくまで野菜作りや山菜取りなどのエピソードと同じ程度の扱い。“ふらいんぐうぃっち”というタイトルだが、定番の箒に乗って飛ぶスタイルは「長い時間飛ぶとおしりと股が痛いです」(真琴)ということで、飛んでいる描写も数えるほどだ。

 
――『ふらいんぐうぃっち』は魔女という非日常なものを扱いながら、いわゆる日常系の作品に通じる部分が多いです。

石塚:日常系だと、実は『よつばと!』くらいしか読んでいませんでした。影響を受けたという意味では、リアリティーのある世界を描くという面で『電脳コイル』、あとは昔やっていた『ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー』という魔女っ子アニメ辺りでしょうか。
 
――そもそも魔女を扱った理由は?

石塚:現実世界にちょっとした不思議感を出したかったためです。
 
――物語が進むにつれ、魔女の設定やほかの魔女が少しずつ登場しています。今後は?

石塚:続々と出てくると思います。楽しみにしていてください!
 
――主人公の真琴だけでも黒髪ロング、ドジっ子、巨乳、魔女と反則級の萌え属性てんこ盛りです。その理由は?

石塚:自分の好みです(笑)
 
――真琴の周囲にも魅力的なキャラクターが多いです。お気に入りは?

石塚:(真琴の従妹の)千夏です。子供は常識がなくて自由に描けるので好きですが、その自由なところがまさに彼女の魅力だと思います。
 

 最後に『ふらいんぐうぃっち』の編集者を紹介しておきたい。なんと本作品を手がけるのは、近年最大のブレイク作である『進撃の巨人』担当の川窪慎太郎さんだ。人類が存亡をかけて巨人と戦うストーリーマンガと青森×魔女の日常系、ジャンルとしては両極端。

――川窪さんの印象は?

石塚:根回しや誘導が上手い人です。打ち合わせから帰ってから、ふと川窪さんの意図に気付いてハッとすることがありますね(笑)
 
――どういったやり取りを?

石塚:掲載誌が少年マンガ誌なのでどうしても起伏を入れたくなります。でもそれがはたして『ふらいんぐうぃっち』らしいかどうか。そういったことをよく話し合っています。
 

 作中では現実と同じく穏やかに時間が流れており、発売中の1、2巻で春が過ぎていった。現在の連載では初夏が描かれ、イベント目白押しの夏へ――。“非日常が当たり前にある日常”を描いた『ふらいんぐうぃっち』の世界に飛び込み、素敵なキャラクター達と同じ時を過ごし始めるのは、まだまだ遅くない。

文=はるのおと