人の性器は乱交で進化した? 驚きの「性の進化論」とは

社会

公開日:2014/8/7

 パンダの発情期は年にわずか3日~1週間、他の動物も同様その期間は限られているというのに、一年中いつだって性交渉が行える人間は、あまりにも好色な生き物のような気がする。類人猿の子孫であるなどと言われるが、我々こそが類人猿そのものなのだ。我々の先祖は、過剰な性欲を抱えた性的に活発な種族に違いない。一体、我々の祖先はどのようにセックスを行ってきたのだろうか。そして、それはどのように変化してきたのだろうか。

 心理学者のクリストファー・ライアン氏、精神科医のカシルダ・ジェダ氏著の『性の進化論 女性のオルガスムは、なぜ霊長類にだけ発達したか?』(山本規雄:訳/作品社)では、人類のセックスのあらゆる謎について解き明かしている。我々の祖先はゴリラのように、戦いに勝った男が女のハーレムを形成する仕組みで種をつないできたと以前は考えられていた。だが、クリストファー氏は、先史時代、我々の祖先は「乱交」「乱婚」が中心となる社会を築いていたと主張する。彼らは、男、女、子どもが混ざったグループで移動し、狩猟・採集で得た食料を仲間同士で仲良く分け合うように、「女」も部族内で分け合っていた。彼らは、集団内で複数の性的関係を継続的に結び、親密な血縁集団を形成することで、部族内全メンバーが食欲も性欲も満たされるようにしていたのだ。これは、農耕と私有財産により、誰がどのものを所有するかが明確化する時代まで続いていたという。

advertisement

 このような「性欲」さえも分かち合う集団行動は、熱帯雨林に棲息する類人猿のボノボに見られるという。直立二足歩行が得意のボノボは、人間と同じように季節を問わず、常に性交渉を行うことができる。そして、まるで人間のように多くの性交体位を楽しんでいるのだという。オスは背後からの挿入を好むが、メスは動物には珍しい正常位を好んでいる様子が観察できるというのだ。そして、彼らは、交尾中に互いの目を見つめ、舌を奥まで絡めるキスまでする。これらの特徴はゴリラやチンパンジーなどには見られないもので、ボノボが人間の祖先である可能性は高いとクリストファー氏らは論を強める。

 動物学者のデズモンド・モリス氏はプロ・サッカーチームを数週間観察し、チームの誰かがセックスした女性をチームメイトとシェアし、嫉妬するどころか大いに喜んでいるさまを報告している。クリストファー氏らはこの報告を引き合いに出しながら、交差し合う性的関係が集団の団結を強める方法だということは、狩猟採集社会時代から何も変わっていないとしている。古代ローマではバッカスの信徒が少なくとも月に5回は「乱交祭」を開催していたし、今日でもパプアニューギニアのトロブリアンド諸島のヤムイモ収穫祭では若い女性の一団が島をめぐって自分と同じ村出身ではない男たちを「強姦」する。「精液が人間の成長に欠かせない」と信じているメラネシアのマリンド・アニム族は、男は通過儀礼でアナル・セックスをさせられる上、女は、結婚の夜、花婿の父方の親戚10人ほどを相手にセックスをしなくてはならない。セックスは単なる肉体の満足をはるかに超えるほど重要な社会的機能を果たしている可能性があるとクリストファー氏らはいう。

 また、人間の子宮勁管の複雑さは、複数の男性の精子を濾過するように進化してきたに違いないとクリストファー氏らはいう。女による選り好みは、意識的であるにせよそうでないにせよ、交尾前の求愛行動において行われるのではなく、性交の最中もしくは性交後に起こると彼は大胆な説を唱えている。女性の身体は、自身も気付いていないような基準に合致するひとりの男性の精子を助けるという非常に複雑なメカニズムを進化させたのだ。一方でゴリラより大きい男の陰嚢は子宮内での他の人の精子との競争に勝てるような精子を育てるために性器を冷やし長生きさせる働きを持つし、他の類人猿よりも圧倒的に太くて長いペニスは精子が子宮へと送り出しやすい形へと進化した。クリストファー氏によれば、人類の性器は乱交によって進化したといっても過言ではないのである。

 まさか人類のセックスの原点が乱交にあるとは…と思うと何だか複雑な感情が湧いてくる。だが、優れた種を残すために、時を経るごとに進化してきたと考えると、感慨深い。では、これからはどう変わっていくのだろうか。未来のセックスは? 未来の性器は? 普段考えないそんなふざけた想像もたまには悪くない。

文=アサトーミナミ