非日常の官能に耽ってデトックス! 知的な女性に贈る「日活ロマンポルノ」のススメ(前編)

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更新日:2014/9/29

 1971年から1988年までに製作・公開された「日活ロマンポルノ」。70年代初頭のカラーテレビの普及の影響などで、映画界が斜陽化する中、日本最古の映画会社「日活」が制作し、今も熱狂的なファンを擁する成人映画です。
 わずか17年の間に公開された作品は、約1100本。2週間に1本のペースで制作され、予算は普通の映画の1/4。ただし、「10分に一度絡みのシーンを入れる」など一定のルールさえ守れば、比較的自由に映画を作ることができたため、多くの映画人を輩出。崔洋一、相米慎二、滝田洋二郎、根岸吉太郎、森田芳光、金子修介、黒沢清などの映画監督も、ロマンポルノ出身です。
 そもそも、日活ロマンポルノ作品は男性向けに作られたもの。しかし、これを「知的な女性にこそオススメしたい!」と話すのは、KADOKAWAの女性向け官能小説レーベル「fleur」編集部の面々。今回は、6作品を鑑賞した編集担当のプロと女女官好きの営業Mが日活ロマンポルノの魅力について語る座談会を開催しました!

参加者

AVとはまったく違う! “日活ロマンポルノ”の映像美&ストーリー

【編集H】今回は、全員で「日活ロマンポルノ」から普通の日活ロマンポルノを2本、SM作品を4本鑑賞したけど、どうでした?

【営業M】私は初めて観たんですが、とてもびっくりしました。“ポルノ”という響きのせいか、すべて同じように性行為を描いた作品だろうと思っていたら、固定観念を崩されて…! 正直、AVとどう違うかさえ分からなかったんですよ。でも、まったくの別物でした。

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【H】確かに! “性”の要素は強いけど、日活ロマンポルノのイメージとはまったく違う、一般的な映画として受け入れられる作品だよね。「日活ロマンポルノ」の成り立ちに起因するように、映画人たちの技術と情熱が注がれていることがよくわかる。前提として、すごく良質な映画作品なんだよね。

【M】セットがしっかりしていたり、照明技術によって陰影が美しかったり、構図の妙があったりと、映像の美しさは特筆すべきものがありますよね。

【編集G】男性用AVとも女性用AVともまったく違う。日活ロマンポルノ自体は男性用に作られたというけど、女性も十分に楽しめるものだと思う。

【H】もちろん作品によって差はあるけど、きちんとしたストーリーのあるものが多いからだと思う。性行為そのものをテーマにしている一般的な男性向けのAVとは、一線を画している。

【G】それが一番、顕著なのが『ダブルベッド』です。テレビディレクターをしている男の妻が、男の仲間の作詞家と浮気をするという話。

(C)1983日活株式会社

【H】日活ロマンポルノのイメージとはまったく違う、一般的な映画として受け入れられる作品だよね。

【G】ストーリーがリアルで…。私は既婚者だけど、午前中、会社に来る前に旦那を送り出してから観ていたら、「あの人は本当に仕事に向かったかしら…」みたいな気持ちにすらなってしまって(苦笑)。「人と人の関係とは?」とか「恋愛とは?」…と、概念レベルでも考えさせられる作品だったので、これは絶対にAVではありえない。

【H】人間をちゃんと描いているのは、さすがだよね。共感するか否かは別として、一つの性の形をすごくリアリティをもって描いていると思う。いつの時代も奔放な女性はいるけど、そんな女性のサガをきちんと丁寧に描いているから、女性の嫌悪感を煽らない。

【G】普段、「fleur」では、純粋な愛=純愛が行きつく先に愛の交換としての性行為がある…という考えで作家さんとお話を考えていますが、『ダブルベッド』では不倫をしている二人も何らかの吸引力があって、魅力を感じ合うから性行為に至っている。「何がいけないの? 浮気じゃないわ、本気よ」みたいなセリフに対しても、ぐるぐる考えてしまうぐらい印象が強かった。

【M】ダブルベッド』を含め、一番いい裏切りだったのが、女性が凛と立っている印象のラストが多かったこと。もっと女性が泣き崩れたりするのかなと想像していたんですが、女性が自立しているところも、日活ロマンポルノに現代の女性が共感しやすいポイントかも。

【H】キャストにも驚かされた!

【G】柄本明さんに岸部一徳さん、高橋ひとみさん…。「柄本明さんって、かっこよかったんだ!」って思っちゃった。

(C)1976日活株式会社

【M】ベテランになってからの活躍しか拝見していない俳優さんに対して、初めて男性の色っぽさを感じて刺激的でした。『花芯の刺青 熟れた壺』に出演している蟹江敬三さんの野性味あふれる色っぽさには、本気でドキッとしちゃいました!

【H】ダブルベッド』と『縄と肌』は、結末が読者にゆだねられる感じがあって、それもよかった。

 

勧善懲悪、純粋なラブストーリー。”SMモノ”の固定観念を崩す多彩な作品群

【H】SM作品の中では『縄と肌』が、物語が一番はっきりしていて面白かったな。

(C)1979日活株式会社

【G】引退した賭博師の女性が、彼女に恨みを持つ一家に乗り込んでいく勧善懲悪もの。

【H】最後にちゃんと悪が滅びるから、時代劇のようなカタルシスを感じられた。そして、多くのあらくれものどもに、半裸で立ち向かえる女性のカッコよさ! すごかった。日活ロマンポルノじゃないと見られないよね、ああいうシーンは。

【M】初めて観ました。女性が半裸で立ち向かうシーンなんて。今、女性がヒロインのアクションものって、映画でもたくさんありますよね。でも、なぜか半裸で立ち向かっている方が現実的な感じがして。キックをするわけでもないのに、立ち回りがリアルに感じました。

【H】胸を見せるための半裸の立ち回りじゃなくて、半裸でいることが本当に強い姿だという立ち回りじゃない? 本当にカッコよかった。

【G】助けてくださった親分の娘さんが借金のカタになっているとき、前に自分が生業としていた賭場の仕事でお金を得てくるじゃない? そのとき、「仕事ができる女の人ってカッコイイ~!」って思って。ある意味、キャリアウーマン的な強さもありますよね。気持ちの部分でもあったかくて強い姐さんなんだけど、金銭面でも自分で何とかできちゃう。

【H】彼女はお父さんが賭博師だったから、この世界でしか生きられなかったという背景がありながらも、その中できちんと地に足をつけてまっすぐ成長してきた人だよね。だからこそ生きる力もあるし、お金を稼ぐ力もあるし、周囲を助ける力もあるし。現代に通ずる女性のカッコよさだと思う。

【M】SMモノの4作品は、それぞれに色があって、こんなにも作風が違うんだなと驚きました。”SMモノはSMモノ”っていう固定観念が完全に崩されました。

【G】実は、私が一番好きなのは『美女縄地獄』なんだ。良家のお嬢様に惚れ込んだ男が彼女を軟禁するという内容なので、女として歓迎できるものではないんだけど…。一緒に時間を過ごすなかで、2人が心の交換を重ねて想いが通じ合って、最終的に和姦に至る。二人がセックスをするのって、心が通じ合ってからなんだよね。「よかったね」と拍手すら送りたいぐらいの、普通の恋愛ストーリーじゃない?

【M】SMモノと言いつつ、ほとんどSMシーンもないし、かなり観やすい作品ですよね。

 

高倉美貴の美しさ、谷ナオミの妖艶さ。女優たちに見るリアルな”美”

(C)1983日活株式会社

【H】美女縄地獄』の主演の高倉美貴さんは、きれいだよね~。美しすぎて、ため息が出ちゃう…。現在も通用する美しさ! 気になってネットで検索してしまったんだけど、「きれいすぎて脇役にはできない」って、それは、そうだよね…

【M】私は、谷ナオミさんの体の美しさ、なまめかしさに圧倒されました。

【G】女性誌のセックス特集なんかで女優さんやモデルさんがヌードを披露していたりするけど、そのキラキラしたきれいさとは違う。日活ロマンポルノで目にするヌードは、妖艶で色っぽくて、もっとグッと引っ張られる感じがして…。こういうヌードを目にすることはないから、ドキドキするよね。

【H】谷さんは、凛とした大人の女性の美しさがすごく印象的。今の日本の男性向けのエンターテインメントって、若くてかわいらしい女の子が魅力的なものとして描かれることが多いけれど、日活ロマンポルノでは大人の女性が魅力的に描かれていて、とてもすてきだった。大人の女性の見本としても参考になるよね。

【G】そう、男性を意識しないときでも、仕草の一つひとつが本当に上品であでやかで、女性の振る舞い術としても勉強になる。食い入るように見ちゃった。

【M】若い女性には若い女性のよさ、大人の女性には大人の女性のよさがある、という描き方をしていますよね。

【H】映画ってきれいな人を見る楽しみもあると思うけど、高倉さんと谷さんは特に、それに応えてくれる女優さん。

【M】素人ながら、女性の体もきれいに見える写し方をしているのかなとも感じました。カメラアングルや照明のせいもあるのかな?

【G】男性の体もきれいに見えますよね。個人的には、『美女縄地獄』の俳優さんがイケメンで好みでした(笑)。

【H】あと、女性の体が、すごくリアルだよね。今、グラビアアイドルの方を見ていると、胸が大きくてウエストがきゅっと締まってて、手足が長くて…別世界の存在って気がするけれど、日活ロマンポルノの女優さんたちは、肉付きに自然さがある。もちろんきれいなんですが、胸が大きい分、少しだけおなかも出ていたり。

【G】それでいて、すごくすてきに見える。

【M】だからこそ、性の描写もリアルなんですよね。

【H】映画的手法で、そんな魅力的な女優さんを主体に性を描く日活ロマンポルノは、映画としても官能コンテンツとしても女性を満足させてくれるものなんじゃないかな。