彼女はなぜハマったのか? 人生を変えた「食虫植物」と「昆虫食」の魅力を語る!【前編】

文芸・カルチャー

2014/8/13

人が何かにハマるとき、そこには必ず何かの「きっかけ」がある。そしてハマったものが奇異であればあるほど、そのきっかけを、さらにはその後の人生がどう変わったのかを知りたくなるのではないだろうか? 今回ご紹介するのは、食虫植物の魅力と昆虫食の素晴らしさにハマった一人の女性、木谷美咲さんだ。食虫植物だけでも相当レア・ケースなのに、さらに昆虫食までとは…なぜですか!?

「今から9年前の私は、ちょっと気分が落ち込んでいて元気がなかったんです。そんなときに園芸店で偶然ハエトリソウに出会って…ビックリしたんです! 私は食虫植物という存在をそのときまで知らず、見たこともなかったので、普段は虫に食べられる生態系のピラミッドの下に位置する植物が、上位の虫を食べるという反逆的な感じに物凄い衝撃を受けたんですよ。そんな食虫植物の強烈な“生き様”に天命を受け、“落ち込んでいる場合じゃない! 私もこういうふうに生きないと! そうだよ、下が上を食っちゃえばいいんだよ!”と生きる気満々になって(笑)。私は自分が魅力を感じたものに好奇心を抑えられなくなる性質なんですが、実は私の祖父はサボテンハウスを持つサボテン狂、父は水槽の重みで家の2階がたわむほどの熱帯魚マニア。その血を受け継いでいるのかもしれないですね」

そう言って笑う木谷さんは一気に食虫植物にのめり込んでいくことになるのだが、2005年当時は情報も専門書も不足しており、ひたすらインターネットで情報を収集し、栽培しては失敗して枯らしてしまうという悲しい繰り返しだったという。その検索の中で見つけたのが「日本食虫植物愛好会」という団体で、興味を持った木谷さんはすぐにコンタクトを取って会合に参加! 「参加者の9割が男性でほとんどがおじさん、植物マニアから研究者、お医者さんなど理系の方が多く、皆さん筋金入りの愛好者ばかりでした(笑)。その方々に教わりながら、私も学んでいきました」

その派手な外見と、虫を食べるというので“怖い”と思う人が多い食虫植物だが、木谷さんは「とても繊細な植物なんですよ」と力説。「食虫植物はもともと貧栄養の湿地帯など環境の変なところに生息していて、足りない栄養を補うために食虫をするように進化したものなんです。なので葉などは日に当てないといけないけど、根っこは冷やして水を多くしないと枯れてしまったりなど、見た目とは裏腹に繊細なんですよ。そういう手をかけないといけないところも、愛すべきところなんです!」

栽培に関するてん末や、愛好会の仲間と日本に自生する食虫植物を見つけに行く旅日記、食虫植物を育てる場所の巡礼など、どっぷりと深みにハマっていく9年間をみっちり書き込んだのが、『私、食虫植物の奴隷です。』(木谷美咲/水曜社)だ。その愛はとどまることを知らず、最後には好奇心を抑え切れずに、なんと食虫植物を食べてしまうという暴挙に出てしまう衝撃展開もあったりなど、深い慈愛に満ちた1冊となっている。

ということで本書の中から、木谷さんオススメの食虫植物を教えて頂いた!

■その1「ハエトリソウ」
私が食虫植物にハマるきっかけになったハエトリソウは、中に「感覚毛」というトゲが片側に3つ、両側合わせて6つあるんです。この突起に2度触れると葉が閉じてハエなどを閉じ込めて、消化液で溶かして養分を取るんですよ。虫を取るというので害虫駆除になると思って栽培を始める人がいますけど、そんなに頻繁には食べない(私が見た限りでは月に1回くらいだと思います)ので、その効果は期待しないでください(笑)。あとは食虫植物なのに、意外とアブラムシやナメクジがついて弱ってしまうこともあるので、栽培には細心の注意が必要です!

モウセンゴケ

■その2「モウセンゴケ」
「コケ」という名前ですが、モウセンゴケ科モウセンゴケ属という植物で、苔の仲間ではありません。「捕虫葉」という、葉に生えた細かな「腺毛」からネバネバの消化液を出して、ここに虫がとまると粘り着けて捕え、ゆっくり時間をかけて消化します。私は尾瀬の自生地などへ行って観察しているのですが、日本にも食虫植物が自生しているというと皆さん驚かれるんですよね。日本にはモウセンゴケのほかにミミカキグサ、タヌキモ、ムシトリスミレ、ムジナモなどが自生しています。

モウセンゴケ

■その3「ウツボカズラ飯」
これはマレーシアの山岳民族であるダヤック族が、山に登る時に持つ携帯食です。ウツボカズラが虫を捕まえる捕虫袋の中に、ココナッツミルクで煮た餅米を詰めて蒸すんですが、虫を溶かす消化液のおかげで米が腐りにくいんです。味は消化液の酸味がありますが、なかなか美味しいですよ。時々ウツボカズラの捕虫袋に虫が入ってることもあるんですけど、「それは栄養になるし、風味なんだよ」と現地の子どもたちが言ってました(笑)。私はここから一歩踏み込んで、ウツボカズラの天ぷらを作って食べました!

ウツボカズラ

このように食虫植物の奴隷として忠実にお仕えしていた木谷さんだったが、2010年にまたしても大きな転機が訪れる。知り合いに誘われて参加した会合で虫を食べる美女に出会い、昆虫食の魅力にもハマっていくことになるのだが…それは【後編】で!

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)

 

食虫植物&昆虫料理愛好家 木谷美咲さん
木谷さんがかぶっているのはトレードマークの「ハエトリソウ」を模した革製の帽子で、これは二代目だそうだ。「初代の帽子には感覚毛がなくて、マニアの方に『感覚毛がないハエトリソウなんて、ダメだよ!』と指摘されて、わざわざ作り直したんです(笑)」 そのハエトリソウが主人公の子ども向け絵本『ハエトリくんとふしぎな食虫植物のせかい』(木谷美咲:作、ありたかずみ:絵/VNC/星雲社)も好評発売中。