外国人板前はなぜ少ない? その元凶は役人による「岩盤規制」にあり!

社会

公開日:2014/8/15

 よくレストランの紹介記事などで「フランスの三つ星レストラン◯◯で△年修行した日本人シェフ」「イタリアの人気店□□でピッツァを×年焼き続けた日本出身の職人」といった記述を見かけることがあるだろう。言語も環境も違う異国の地で修行した人の料理は、本場の味でとても旨い。しかしその逆、「日本の名料亭□□で△年修行した●●人板前」「銀座の高級寿司店▽▽で×年修行した●●人寿司職人」(●●にはアメリカやフランスなどの外国名が入る)というのを見たことがあるだろうか? もしあったとしても、非常にレアなケースではないだろうか? 実はこれ、意外に思うかもしれないが、日本の役人による「規制」が元凶なのだという。

 元通商産業省のキャリア官僚で、元規制改革担当大臣補佐官を務めた経験のある原英史氏による『日本人を縛りつける役人の掟:「岩盤規制」を打ち破れ!』(原英史/小学館)によると、外国人が日本に在留するための資格は法務省が規制運用を行っていて、「出入国管理及び難民認定法 第七条第一項第二号の基準を定める省令」に「料理の調理又は食品の製造に係る技能で外国において考案され我が国において特殊なものを要する業務に従事する者」とあるんだそうだ。これは外国で考えられた料理を作るのはいいけど、日本のものはダメですよということ。つまりフランス料理の外国人シェフは在留OKだが、和食の外国人板前はダメということなのだ。

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 そんなアホな、と思うだろうが、こうやってしっかりと省令によって規制されているのだ。しかし2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことで、2014年から農林水産省の「日本料理海外普及人材育成事業」という外国人の和食修業プログラムが始まったのだが、これはあくまでも特例で、こちらにもしっかりと「修得期間2年以内」「1事業所2人以内」などの「別の規制」がかかっている。しかし2年だけしかいられず、しかもひとつの店で外国人は2人までしかダメというのは、修行としてはかなり無理があるような気がするし、そうやって本場でちゃんと修行できないとなると、そりゃトマトやキュウリを天ぷらにしようとするよな……。

 著者の原氏はこうした「必要以上に厳しい規制がなされる」「かつては合理的だった理由が時代遅れになったのに、規制だけは残る」といった規制を「おバカ規制」と呼んでいて、本書では様々な「おバカ規制」が説明されている。タクシーの料金に安売りがないカラクリ、薬がネット販売できない理由と、その裏に隠された6兆円という巨大な利権の正体、路上で立ち止まって弁当を売ってはいけないけれど、ひとりで、しかも人力で移動しながらなら売ってもOKになるという妙な理由、保育園に入りたいけど入れない「待機児童が減らない」のは天下り社会福祉法人が原因であること、携帯電話の「プラチナバンド」を割り当てることで利権を肥やす方法、役人たちが自分たちに都合よく規制を「骨抜き」にしてしまう裏ワザなどを、素人には読みにくい条文から懇切丁寧に解説している。

 普通に考えたら変な規制がなぜまかり通るのか? それは規制によって利益を享受する特定の既得権益者がいること、そしてその既得権益者が行政(関係省庁)や政治(族議員)と結びついて「鉄のトライアングル」を構築して、容易に破れない「岩盤規制」として守っているからなのだ。原氏はそんな規制があることで損をするのは一般市民なのだが、案外それに気づいていない人が多いと指摘している。安倍晋三首相は2014年1月のダボス会議で「国家戦略特区などを活用して、今後2年間で岩盤規制をすべて打ち破る」と宣言しており、岩盤規制を打ち破ることは日本が本当に豊かになることにつながると言う原氏は、これが実現されれば「本書は完全に賞味期限切れになる」が「是非そうなってもらいたい」と語っている。果たして2016年、日本は豊かな国へと変わっているだろうか?

文=成田全(ナリタタモツ)