官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第54回】三津留ゆう『【お試し読み】純潔ポルノグラフィティ~甘くて淫ら~』
公開日:2014/8/19
三津留ゆう『【お試し読み】純潔ポルノグラフィティ~甘くて淫ら~』
心を動かす写真が撮れないのは、処女のせい? 悩むカメラマンの私・瞳子に、モデル撮影の仕事が舞い込む。被写体はなんと、瞳子がカメラマンを目指したきっかけのスーパーアイドル・環だった。でも、実際の環はオフィシャルイメージと全然違う超俺様キャラ! しかも、なぜか会う度にエッチな行為を迫られて……!? 自信を持てずにいる意地っぱり女子とモテまくり強引男子、喧嘩ばかりの二人がかかる甘い恋の魔法♪
素直に自分を見せられたなら、仕事も恋も空回りせず、今よりうまくいくのかもしれない。
ありのままの自分を一度でも愛されて、処女を捨てることができたなら、少しは自信が持てるのだろうか。世界ががらりと、違ったファインダー越しに見えるのだろうか。
でも……。
二十八歳にもなって処女だなんて、恥ずかしくて誰にも言えない。
バーでの一件だってそうだった。
本当は真剣に恋がしたいと思って、葛西さんの誘いに乗った。
なのに、男の人と少しでもいい雰囲気になると、どうしていいかわからなくなる。意識しすぎて、うまくいかなくなってしまうのだ。
今日なんて、朝、身支度をするときから、意識しすぎて失敗している。
被写体が誰であろうと――そう、たとえ大好きな吉沢環でも、撮影が仕事であることに変わりはない。環はもちろん、葛西さんや篠崎さん、仕事の相手に浮ついたところは見せられないから、念入りに、ふだんどおりの格好をしたつもりだった。
けれど、冷静になってみれば、相手はあの吉沢環だ。こんな平凡な私なんかが、気にしてもらえるわけがない。環と自分がどうにかなるかもしれないなんて、誰も考えるはずがないのだ。
だったら……せめて。
今さら、自分の格好が気になりはじめる。
着古したシャツにジーンズなんかじゃ、ふだんよりよっぽどみすぼらしい。無造作にまとめた髪も、簡単にメイクしただけの顔も、今になって後悔している。
せめてほんの少しでも、きれいな服を着てくればよかった。
ちょっとだけでもがんばって、きちんとお化粧してくればよかった。
そうすれば、ほんの、ほんのちょっとでも、環がこちらを向いてくれたとき、もしかして。
バカみたいな話だけど、考えないというほうが嘘だろう。
万が一、環が私のことを見てくれたなら。
環も、私のことを気に入ってくれたなら。
もしかして、本当に万が一、ううん、億が一、恋が始まってしまったら――。
「……ない! ないから!」
広がり始めた妄想を打ち消すように、私はぶんぶんとかぶりを振った。
準備を終えたスタジオにいるのは私ひとりだ。こんなときばかりはひとりでよかったと、壁に掛かった時計を見た。
環の入り予定時刻から、十五分が過ぎていた。もともと少ない撮影時間だ、これ以上遅れるようなら、撮影プランを変更したほうがいいだろう。
篠崎さんに様子をうかがいに行こうと、スタジオの入口に目をやった、そのときだった。
キィ、と音がして、扉が開く。
薄暗いスタジオに、さっと光の帯が走った。
……来た……!
私は、光のほうを向いた。
入口に立っているのは、“彼”――吉沢環、その人だ。
シンプルな白いシャツは、隣の部屋から洩れ来る光を透かしている。しなやかに引き締まった体のラインが、シャツをスクリーンにして浮かび上がる。その姿に、十年前に見た写真の“彼”が重なった。
ぴりっとした緊張感が環と自分のあいだに走り、私は小さく身ぶるいした。
ふ、とスタジオの空気が動いて、環が一歩、足を踏み出す。
環はそのまま、ゆっくりと歩み寄り、おもむろに私のあごに指を添えた。くっと私の斜め上、自分の顔のほうを向かせる。
「……っ……」
反射的に、身がすくんでしまう。顔が、近い――環は額にかかる黒髪の隙間から、値踏みするように私を見た。
「お前が撮るの?」
気だるく艶を帯びた声。その振動すら伝わる距離に、息もできない。
間近で見る吉沢環は、想像以上の迫力だった。環の鋭い眼光が、ぎらりと私の目を射抜く。
2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊
一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。