酒を飲んで記憶をなくしても、家にたどり着ける理由とは? 飲みながら考えてみた「酒」と「脳」のアブナイ関係

科学

更新日:2014/8/20

 お酒はすこぶる楽しい。あれは言っちゃいけない、こうしたらマズイなんて余計なしがらみから解き放たれ、自由な気持ちになれる。これなら、普段の固いアタマからでは出てこないアイデアがぽんぽん出てきて、仕事もスイスイ進むに違いない! なんて幻想を抱いたことはないだろうか。そこで、筆者は冷蔵庫からビールを引っ張り出し、お酒と脳の関係について飲みながら論じてみることにした。では、失礼して……カンパイ。

 さて、問題はお酒を飲むと記憶がとんでしまうこと。しかし、気が付けば自分の布団の上に寝転がっているということが多い。私たちは記憶をなくしてどうやって家に帰っているのだろう? これに答えてくれているのが、その名も『記憶がなくなるまで飲んでも、なぜ家にたどり着けるのか?』(ダイヤモンド社)。

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 本書の著者で、脳の機能を研究する川島隆太氏、泰羅雅登氏によると、人間の脳には「脳ナビ」と呼ばれる優れた機能があるらしい。酔っぱらって記憶を作ることができなくても、このナビから帰宅経路を読み出して、酔った自分を家まで連れ帰ってくれるのだ。神経細胞「ナビゲーションニューロン」なるものが、通いなれた道の風景、視覚情報に対応して「この信号を右へ」といった指示を出す。あ~、そういえば、仕事でミスを犯してボーっとしながら帰っても、右に曲がるべき交差点を左に曲がることなんてない。上司への言い訳で頭をいっぱいにしながらも、家にいつの間にか到着してる。これと同じ?

 じゃあ、引っ越したばかりというとき、「脳ナビ」はちゃんと家に導いてくれるの? 川島サン、泰羅サンの答えは“NO”。日常的に使っているルートじゃなきゃ、ナビはうまく働いてくれないらしい。この場合は引っ越し前の家に帰ってしまう可能性があるとか。それに、団地とか似たような建物がたくさんあると、視覚情報から勘違いして、別の棟の同じ階の部屋へ行ってしまうことも。もしアパートやマンションで、上や下の部屋の住人が夜中にあなたの部屋のドアをこじ開けようとしたら、それは「脳ナビ」がうまく機能しなかった酔っ払いかも。

 …ということで、記憶がなくなったら困るという話だが、お酒が脳を満たしても、「脳ナビ」みたいに働いている機能があるわけで。

 でも、もちろん麻痺してしまう部分もある。例えば、ヒトの理性を司る前頭前野。このおかげで、私たちはまっとうな人間らしく、社会的生活を送ることができる。そんな中、お酒が入るといつもより口が回るという人も多いんじゃ? いつもなら「これを言っちゃあいけない」なんて考えてしまうことを、「ま、いっか!」なんて気持ちになってしまう。これは前頭前野が麻痺しているから。理性や道徳心、羞恥心などが抑えられて、より本能的な自分をさらけ出してしまうわけ。このために、酒好きの筆者は「調子にのるな」と先輩に罵倒され、酔いがさめた後何度恥ずかしい思いをしたことか…。

 …そもそも、私たちは普段必要以上に考えすぎということはないだろうか? きっとそう。毎日人に気遣い、編集部の顔色を伺い、ユーザーの反応を伺い、あれこれ考えて疲れるわ~…(涙)。あ、そうだ。うまいお酒の力を借りて、セイント星矢、いや、前頭前野という厄介な監視役の過剰な働きを抑えて肩の力をす~っと抜けば、実はバランスよく脳が働くようになるんじゃない? 川島っち、泰羅ちゃん、どうなの?

 お2人の実験によると、ほろ酔い状態のとき、脳が最も活性化するんだって。それは、お酒を飲んだ成人に2つの図形を連続して見せて、その形が同じか、同じ場所に出てきたかどうかを判断させて…とか、何やらムツかしそうな実験の成果。正答率は飲酒前90%、飲酒後88%と、ほとんど変わりないらしいよ。でも、判断するスピードは、飲酒後の方が早かったわけ。つまり、お酒を飲むことで、より早く正解にたどり着けたってこと。飲酒後の脳を計測したところ、脳の活動領域が飲酒前より広がっていたみたい。すばらし~、まーべらす。

 うん、やっぱりお酒を飲んだ方がよりよく仕事を進めることができるかも~。…zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz。

…スイマセン。調子に乗って飲み過ぎて寝てしまい、原稿の締め切りを過ぎてしまいました。いや、お酒を飲むことを全面的に否定されたわけじゃないし、きっと仕事にいい影響を与える適切な飲み方があるでしょ。ということで、お酒と脳のよりよい関係を導き出すための筆者なりの研究はまだまだ続く…。

文=佐藤来未(Office Ti+)