本当に出ちゃうのか!? 肝まで冷やす怪談巡りのためのガイドブック『ぼくらは怪談巡礼団』(加門七海、東雅夫)

文芸・カルチャー

2014/8/22

暑い。8月も終わりに近づいたとはいえ、気候的にはまだまだ夏真っ盛りといったところだ。

こう暑いと、つい怪談噺でも聞いて涼みたくなるもの。けど、ちょっと待った。いつも怖い話を聞くばかりでは芸がない。今年は怖いものが出そうな場所へ、ちょっと出かけてみませんか?

というわけで、今回は怖い場所へのお出かけに最適なガイドブックをご紹介する。7月に発売された『ぼくらは怪談巡礼団』(加門七海東雅夫/KADOKAWA メディアファクトリー)は怪談専門誌『幽』に連載された、ホラー作家・加門七海と文芸評論家・東雅夫による怪談紀行をまとめた本である。

「怪談紀行って言ったって、どうせ噂の心霊スポットとかをめぐるだけの話でしょ」と思った貴方、断じて違う。これは泉鏡花や柳田国男といった日本の怪談文芸に登場する舞台を紹介しながら、東・加門のコンビと『幽』編集部のメンバーが実際に赴きレポートするという、怪談文芸の名作ガイドを兼ねたトラベルブックなのである。

文芸作品の薀蓄を披露し、訪れるスポットの文学的背景を教えてくれる東のパートと、現地で見舞われた怪異を伝える加門のパートの2部構成で各章は構成され、そこに同伴した編集者の証言やこぼれ話が加わることになる。そう、フィクションではなく、どうやら本当に「出ちゃった」体験談もこの本には収録されているのだ。まあ当然だよね、「怪談巡礼」だし。

たとえば「鏡花の怪」の章。鏡花の戯曲にも登場する、龍神伝説が残る福井の夜叉ケ池を訪れた一行は、宿で奇妙な現象に遭遇する。夜中、急に目が覚めたアシスタントのUさん(仮名)は、凄まじい絶叫を発した。その時は何も話さないUさんだったが、翌朝ほかのスタッフや東が尋ねたところ「いきなり耳元で男の声がした」という…。ちなみに、加門は夜の散歩の最中から見知らぬ男の気配を感じており、夜中に男が現われたので「あっちに行け!」といって、追い払ったとのこと。いやいや、みんなに早く教えてあげるべきだったのでは、加門さん…。

また、怪談実話のふるさとというべき遠野に向かった「遠野の章」では、加門は何と「ざしきわらし」を目撃している。「怪談巡礼団」一行が泊った民宿は、「ざしきわらし」が出没すると評判の宿であり、しかもこの宿のざしきわらしは男女一対になっているというのだ。(ちなみに名前もあり、男は「遠野近行」、女は「遠野ゆかり」というらしい。)

おかっぱ頭の少女というイメージが一般的な「ざしきわらし」だが、まさか男女ペアがいるとは。しかし加門が見た「ざしきわらし」はおかっぱ少女でも、男女のペアでもなかった。何と、もの凄い強い光を発する発行体だったのだ!…ってそれ本当に「ざしきわらし」なの? そんなSFに出てくる知的生命体のような姿をしているの?

とまあ、こんな具合に「怪談巡礼団」は各地の怪談文芸の舞台を巡っていくわけである。東の博識ぶりと、加門の怪異に見舞われながらもユーモラスな姿勢を崩さない語り口が良く、知的で怖くて、それでいて愉快な気分にさせてくれる紀行文だ。ぜひ本書を手に取って怪談スポット巡りに出かけて欲しい。…本当に「出ちゃっ」ても、責任は取りませんけどね。

文=若林踏