【画像あり】クラゲなんかに負けねぇ! 本気出して“美しすぎる”イカとタコの実態に迫ってみた

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

水の中をユラユラと泳ぐ姿が魅惑的な生物といえば、真っ先に思い浮かぶのはクラゲだろう。新江ノ島水族館や鶴岡市立加茂水族館など、クラゲの展示に力を入れる水族館もあり、いまや大人気の海洋生物だ。

だが、ここで異を唱えたい。大切なヤツらを忘れてはいないか――。『世界で一番美しいイカとタコの図鑑』(窪寺恒己:監修、峯水亮:解説、その他/エクスナレッジ)を眺めていると、こんなことを言いたくなる。

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本書は、さながら世界中のイカとタコを集めた水族館。「イカとタコなんて、食べるぐらいしか興味ないよ」という、かつての私のような人間からすれば、今まで見たことのない世界から目が離せなくなること間違いなしだ。事実、私自身がすでにイカとタコの虜になりつつあるのだから。

まず驚かされるのは、タイトル通りの「美しさ」だ。海中を泳ぐイカやタコたちは、想像以上にカラフルで巧みにデザインされたかのような姿をしている。

透明なイカのなかには、ネオンカラーが光る幼体もあれば、ホタルイカのようにブルーの光を放つものもある。ホタルイカは黒い膜でおおわれた発光器を3つ持ち、敵に目くらましを食らわせたり、仲間内でコミュニケーションをしたりするために光を放つと考えられているそうだ。

透明なタコは、マダコの幼体のように、白い半透明な体に赤や黄色のインクを落としたような姿が特徴。中には、「スカシダコ」というクラゲによく似たものもおり、この種は生まれてから成体になるまでずっと浮遊生活をしており、「同じように深海に生息するクラゲ達のそばにいることによって、カモフラージュでき」、捕食者に見つからないよう工夫しているのではと考えられているらしい。

また、イカ・タコたちのフォルムや大きさのバリエーションの豊かなこと! 絵に描いたようなイカとタコしか知らなかったことを詫びたくなる。例えば、「ミミイカ」は短い足をらせん状にキュッとしまい込んだように縮めているのがかわいらしい。反対に、マダコ科の一種の幼体は、細く長い長い足を優雅に舞わせて泳ぐのだ。

かと思えば、一方で巨大すぎるイカやタコもいる。”謎の多い巨大イカ”「ダイオウホウズキイカ」は、大きさこそ8mと、かのダイオウイカに及ばないものの、約500kgの体重はイカ界でももっとも重い種。獲物を捕るための2本の足には、牙のような大きなかぎ爪状のフックがあり、しかも360度回転するというのだ。巨大ながら浮遊力を保つために体には塩化アンモニウムが多く含まれ、ぶよぶよとしているという話。

形状のユニークさならば、タコに注目だ。深海に生息する「ジュウモンジダコ」や「メンダコ」は、正八角形を描くように広がった足をつなぐ膜を持ち、おおよそタコらしくないフォルムをしている。それをひらひらと広げたり閉じたりしながら水中を泳ぐのだが、メンダコに至っては、膜を広げているときはヒトデ、閉じているときはオバQのような形になる…不思議! 実際、どこかのゆるキャラみたいだ。

1mの全長に、3mにも及ぶヴェール状の膜をマントのように閃かせて泳ぐのは、「ムラサキダコ」のメスだ。英名は、「ブランケット・オクトパス」。メスの大きさに対して、オスが全長2.5cm(メスの2~3%の大きさ!)と極端に小さいのもおもしろい。これはなんでも、オスとメスの大きさが同じだと、交接時の遊泳スピードが遅くなってしまい、サメなどに襲われるからではないかと考えられているとか。

ほかにも、イカなのに8本脚の「タコイカ」や、危機を避けるあまり擬態技術が進化しすぎてカレイにしか見えない「ミミック・オクトパス」など、イカ・タコ界の珍種も勢揃いである。

スーパーや魚屋に立ち寄るだけではわからない奥深きイカとタコの世界がギュッと閉じ込められた『世界で一番美しいイカとタコの図鑑』。ヤツらが生息地や周囲からの捕食リスクから免れるためにさまざまな進化をしてきたかと思うと、愛しさがこみあげてくる。

特別付録の「世界初のダイオウイカのイカ拓」を広げて、「この大きさで1/6サイズかよ…」とつぶやきながら思う。くだらない。けれど、研究者や図鑑の作り手たちの情熱たるや、いかほどか。写真や解説文など、本書にはヤツラを研究し続けてきた数々の人物たちの英知が込められている。こう考えると、この世界はなんと豊かで美しいのだろうと、しみじみ感動せざるを得ないのだ。

文=有馬ゆえ