現代病といわれる「うつ病」、約40年前にはどう伝えられていたのか?

健康

更新日:2014/8/26

 うつ病が現代病であるとは、かねてより言われ続けていることだ。近年では「新型うつ」なる言葉も登場するなど、主に、若い世代を中心とした問題として取り上げられる機会も多い。しかし、最近のうつが話題にのぼる傾向をみていると、ふと疑問が浮かび上がってきた。それは、うつは果たして本当に「現代病なのか」という疑問である。

 現代という区切りをどこに設けるか、その線引きもやはり難しい。しかし、とりわけうつが社会で取り上げられるようになったのは、2000年代に入ってからのように思える。ただ、うつ病自体は精神疾患として古くから認知されているものであり、現代特有のものかどうかというのが、あるときからふと気になりはじめた。

 そこで、今から約40年前にうつがどう伝えられていたのかを探るため、1冊の書籍を手に取ってみた。1977年に刊行された『鬱病 管理社会のゆううつ』(大原健士郎:著、融道男、山本和郎:編/有斐閣)である。複数の大学教授や研究者により記された1冊だが、当時の時代背景と照らし合わせる形で、うつ病の実態や治療方法などをまとめてある。過去にうつ病がいかにして伝えられていたのか、同書の内容を抜粋する形で考察してみたい。

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 同書では、刊行された1977年の時点においても「うつ病は増えている」とはっきりと提示されている。共著者のひとりである精神科医も、1950年代中頃から1960年代にかけて、うつ病やうつとみられる患者が足を運ぶのを多く見かけるようになったと語っている。

 その裏付けのひとつが、同書内にある精神科医へのアンケートである。残念ながら、戦後における患者数の統計などが見当たらなかったため、根拠としては乏しい印象があるものの、取り上げていきたい。

 さて、同アンケートでは、臨床経験豊富な精神科医200名を対象にしている。1970年代半ばに集計されたデータによれば、診療機関を訪れた患者への印象から、うつ病が「増加している」と答えた医師は、全体の73.8%だったという。また、実数こそ不明だが、1960年代半ばからの10年間でも増加していると指摘されている。

 その理由の一つに挙げられていたのが、うつ病にまつわる医療の発達である。そもそものルーツを辿ると、うつ病の一種とされる「躁うつ病」が、ドイツの医学者 E・クレペリンにより疾患として認められたのは1899年。その後、年代は飛んでしまうものの、少なくとも戦後を経た1970年代には既に、うつ病についての知識がより広く周知されるようになり、病院へ足を運ぶ患者が増えたと推測されている。

 また、社会背景をふまえる中でうつが増えた理由にもふれられており、表題にもある「管理社会」にその一因が求められている。当時を指摘する中で語られているのはまず、社会に生きる人びとが何らかの基準で、各々の能力を評価される時代になったことである。競争社会という言葉が使われているが、ちょうど高度経済成長下の日本で学歴信仰が叫ばれ、のちのち語られる「受験戦争」が激化した時代とも重なる。

 加えて、当時の経済成長を背景に、人びとが「情緒的満足」を得られなくなったのも理由とされている。戦後からの復興を経て経済大国となり、社会には物質的な豊かさがもたらされた。しかし、その裏では、社会や人びとが生産性を向上させるための、ある種の道具として機能することが強く求められたことから、会社内や組織内、ひいては家庭内の人間関係において、自身の気持ちを抑圧せざるをえない状況が増えたという。

 うつになる原因は様々であると思われるが、少なくとも、約40年前を区切りとすれば、現代まで日本人はうつに悩まされ続けてきたようだ。ただ、今回取り上げた書籍の時代と比べて、社会環境は大きく変化しているようにみえる。少子化による年功序列制度の崩壊が一部からは叫ばれ、ネットの普及をきっかけとした人間関係の変遷、個性という言葉がしきりに聞かれるようになった社会背景など、時代を切り取るためのキーワードは枚挙にいとまがない。

 今後もおそらく時代ごとの社会背景にあわせて、向き合っていかねばならない問題といえそうだ。

文=カネコシュウヘイ