犬の名前でおなじみの「ポチ」に意外な起源!

社会

更新日:2019/5/30

 8月16日に発売された『pen』(9/1号)の特集は“犬と猫”。パラパラとめくると、かわいいワンニャンのオンパレード! 「おおポチよ、タマよ!」とテンションも上がろうというものだが…ん? 「ポチ」って何でポチでしたっけ? 「タマ」っていつからタマでしたっけー?

 『犬たちの明治維新 ポチの誕生』(仁科邦男/草思社)によれば、犬はポチ、猫はタマと相場が決まったのは明治38年頃ではないかとしている。この時、尋常小学校の唱歌に「ポチとタマ」が採用されたのだ。

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コノコハ ポチ ト マウシマス。チンチン オアヅケ ミナ ジョーズ。
イマニ、オトナニ ナッタナラ、ゴハンノ バンヲ ヨクシマセウ。

 と、猫のタマもこの調子で歌われている。タマは昔から「玉のように美しい」という意味で女猫にはおなじみの名前だったらしい。一方、ポチのほうは……。

「犬は近年西洋の雑種のみになって、日本純粋の種類はきわめて稀になった。その理由か知らぬが、犬の名はみな西洋風か西洋まがいになった。昔は(中略)ジミーとかジャッキーとかポチとかいうのは聞かなかった」(明治35年9月27日・朝日新聞)

 これは、本書が引用する福沢諭吉センセイの証言だ。ちなみに、明治43年の朝日新聞に掲載されたデータを元にした“犬の名前ランキング”を見てみると…。

1位・ポチ/ 2位・ジョン/ 3位・マル/ 4位・クロ/ 5位・アカ/ 6位・ポーチ/ 7位・ボチ、チイ/ 9位・シロ、ハチ、チン、タマ

 なんと“ポチ”が堂々の1位! 派生したとみられる“ボーチ”や“ボチ”も人気だったようだ。一方、13位には「カメ」という衝撃的な名前がランクイン。これは「日本人が“カム・ヒア”を“カメや”と聞き違え、犬がカメになってしまった」らしい。当時、「洋犬」には「カメ」とルビがふられていたという。

 実は、ポチもこうした聞き違いによって生まれた可能性がある。というのも、ポチの語源にはいくつもの説があるのだ。たとえば、英語の「スポッティ(点々の意)」説、「プーチ(米の俗語で犬の意)」説、フランス語の「プチ(小さいの意)」説など。本書のイチオシは、英語の「パッチ(斑点の意)」説だ。

 「日本人は毛色で犬を呼ぶ習慣だから、“おい、ぶち”と声をかける。聞いた方は“ぶち”とはパッチのことかと思って“イエス、パッチ”または“パッチーズ”と答える。日本人は“そうか、ぶち犬はパッチというんだ”と納得する」

 こうして「ぶち→パッチ→ポチ」の変化が起きた。とくに、日本人と外国人の交流が盛んだった横浜居留地では、グレイハウンドやポインターなどのぶち犬が多かったとか。ポチといえば日本の犬種をイメージしがちだが、元祖は101匹ワンちゃんのようなブチのある洋犬だったらしい。

 時代変わって、「犬の名前ランキング2013」(アニコム損害保険調べ)におけるトップ3は「ココ」「チョコ」「マロン」。「ポチ」の名前はランキングになし……。いつか、犬を代表する名前も「ポチ」じゃなくなってしまうとしたら、少しさみしいですね。

文=矢口あやは