【カズキヨネ絶賛】「ラノベでしょ?」と侮ったらヤケドする! 人間の本質に迫る悲しい純愛ストーリー

マンガ

公開日:2014/8/29

モーテ―水葬の少女―』(縹けいか、カズキヨネ/KADOKAWA MF文庫J)

 毎年数々のヒット作が登場し、いまや確固たるジャンルとして広く認識されているライトノベル(以下、ラノベ)。だが、まだまだ剣と魔法のファンタジーや学園物のドタバタラブコメというイメージが強いかもしれない。しかし実際のところ、その内容はさまざまだ。

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 それを感じさせてくれる一冊が、『モーテ―水葬の少女―』(縹けいか/KADOKAWA MF文庫J)である。一言で言えばあまりに悲しい純愛の物語。設定などに一般的にいう“ラノベらしさ”はありつつも、しっかりと人間が描かれ、私たちの生活と地続きの問題として考えさせられるという点が、いい意味で異色であり、魅力的な作品なのだ。

『モーテ―水葬の少女―』を手に取って、まず目を引くのは美しい表紙イラストだろう。副題である「水葬の少女」を思わせる、透明感のあるブルー、はかなげにこちらを見つめる少女――。彼女は、作中に登場するマノンという人物だ。

 イラストを手がけたのは、アニメ『薄桜鬼』などのキャラクターデザインを手がけるカズキヨネ氏。表紙を描く際は、「作品のイメージや『水葬』というワードを実感していただけて、尚且つ美しい色合いに仕上げられるように頑張りました」と話し、「特にマノンの瞳を印象的に見せられるよう四苦八苦した」のだそう。

 この理由は、「『モーテ』独特の空気やキャラの雰囲気をとにかく追いかけて読者の方に伝えたかった」ため。その意気込みは、挿絵を見ても一目瞭然だ。「読み進めていく中で視覚的に読者の方に情景や感情を伝えることができていればうれしい」との言葉通り、氏の挿絵は物語によりいっそうの深みを与えている。

 では、カズキヨネ氏も強く引き付けられたという『モーテ―水葬の少女―』とは、どんな物語なのだろうか?

 舞台は、「ドケオー」と呼ばれる孤児施設。登場人物は、そこで暮らす少年少女と、その相談役「フォスター」がメインだ。彼らの運命を操るのは、タイトルにもなっている「モーテ」という奇病である。

 モーテは、数万人に1人が罹患し、発症者を10代のうちに自殺へと誘う原因不明の病気。読者はまず、少年・サーシャの目を通して、謎が多く不穏な空気に包まれたドケオーの暮らしを目の当たりにする。そして、サーシャの重々しい語りから、モーテとドケオーに何らかの関係があることを知る。

 大人への強い憎しみを抱くサーシャの前に現れるのは、紫の目をした美しい少女・マノンだ。サーシャはマノンの思わせぶりな態度に恋心を募らせ、同時にマノンのフォスターであるドゥドゥに不信感を抱く。見た目からして不気味で「死神」「人殺し」と呼ばれるドゥドゥに、よくない噂は尽きない。最終的に、サーシャが取った行動は――。

 と、3分の1ほど読み進めると、突如、世界観は一転する。語り手が意外な人物に代わり、文体も驚くほど軽快に。舞台はフランスやイタリアときわめて具体的で、登場する2人の人物がブログを通して出会い、パソコンやスマートフォンを使ってメールでやりとりをしたりする様子は、現実にもありそうな気さえしてくる。

 しかし、読み進めるうちに読者は、ヒリヒリとした絶望の世界へ引きずり込まれていく。登場人物の感情の機微がじつに丁寧に描かれており、語り手に深く感情移入し、理不尽さに地団太を踏みたくなるだろう。

 そして、謎が解き明かされるうち、初めて知ることになる。前半部分で巧みに張り巡らされた伏線が持つ意味を。何より、後半の主人公が持つ美しい愛情を。本書に対し、作者の縹けいか氏は「絶望的な純愛ものが描きたかった」と話す。

「ただひたすら非道な現実にぶちあたり、心を折られながらも、ひとりの女の子を想い続ける。やっていることは“想う”という行為だけ。でも実際、“想う”ことが一番難しいような気がします」

 同じ出来事が前半部と後半部で、これほどに違うのか!というくらい見え方が変わるのも、本作の魅力だ。縹氏は「立場の違う人間がいれば、見えてくる真実は大きく異なります。そこに多数派や他者の思惑が介入すると、より真実に近い事実の方が抹消されることもあります。単純に、その理不尽さを描きたかったんです」と話すが、読者は自らの思い込みやコミュニケーションについて考えさせられることになるだろう。

 純愛ストーリーとしてぐっとハマれるだけでなく、人間の本質についても考えさせられる『モーテ ―水葬の少女―』。「しょせん、ラノベでしょ?」なんて侮ってしまう人にこそ読んでほしい。最後に、作中から、本作を象徴する一節をご紹介しよう。

「紫という色は、人を惑わすという話がある。それも、あながち嘘ではないのかもしれない」(『モーテ―水葬の少女―』より)

文=有馬ゆえ

【オフィシャルサイト】MF文庫J『モーテ―水葬の少女―』特設ページ