「宇宙人ジョーンズ」「こども店長」…あの有名CMを生み出したクリエイターはネクラだった?

仕事術

2014/8/29

 BOSS「宇宙人ジョーンズ」、TOYOTA「こども店長」、富士フイルム「フジカラーのお店」ENEOS「エネゴリくん」――日頃、テレビを見ている人であれば、これらいずれかのCMを目にしたことがあるだろう。 華々しい広告業界で、これだけ注目を集めるCMを手がけた広告マンであれば、さぞかしアイデアがポンポン飛び出てきて、プレゼンも明快、プライベートでも人付き合いが上手で、堂々とした人物なのでは? と思うことだろう。

 しかし、それらを生み出したCMプランナー・福里真一氏は「地味で暗くコミュ障で気弱」「自分には才能がない」「電信柱の陰からじっと見ているタイプ」であると自分のことを表現する。クリエイティブなタイプではなく、内気であり、堂々とした上手なプレゼンもできず困っている――そんな困っている著者が、同じく困っている人に向けて書いた“ビジネス書”が『CMプランナー福里真一が書きました 困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)だ。

 コミュニケーション下手のため、人とあまり話さずに済む「研究職」につきたかった彼が、新卒でたまたま受かった(と本人は言う)大手広告代理店の電通。入社後に、たまたま配属されたクリエイティブ部門でたまたまCMプランナーになってしまう。小さい頃から人の輪に入れず、公園の藤棚の下から、あるいは締め出されて教室のベランダから(!?)クラスメイトを眺めていたという彼が、クライアントと折衝しなければならないような部署で企画を出し、プレゼンを行い、形にしていかなければならない――人前で話すことはおろか、ひとりの人と話をするのすらおどおどしてしまうような人であれば、考えただけで冷や汗が出てしまうような環境といっていいだろう。

 では、どのようにそれを乗り切ったのだろうか。それは「ありのままの自分を受け入れることによって」と福里氏は語る。誰もがうなるような企画が自分の頭から出てこない、スティーブ・ジョブズのような人を魅了するプレゼンができない、そういう自分をありのままに受け入れたのだ。 「でも、あれだけ人の心に残るCMをいくつも生み出して、しかも数々の賞を受賞してるんでしょ?」と思うかもしれない。もちろん、だからこそこのような書籍の依頼があったのだろう。そのように認められる仕事を残しており、今なお生み出し続けているにもかかわらず、自信なさげで、電信柱の陰からじっと見ているだけのような彼が仕事術を伝授する、というところに本書の意義はあるのだ。

 彼の仕事術とは、実に肩の力を抜いたものである。「大した企画が出せるわけじゃないから、思いついたものを次々書き溜めていこう」「上手にプレゼンできないから、最初に断りを入れておこう」「驚かせられるような企画ではないから、なぜこのように思い至ったのか、一緒に脳内トレースをしてもらおう」など、誰にでもできそうなものばかり。 もちろん、同じように仕事ができなくて困っている人であっても、彼のやり方が合わない人もいる。それは、プライドが高く、完璧主義を目指している人だ。

 なぜか。福里氏は、「隙なく完璧に」仕上げたものを出すことを勧めていない。むしろ、自分ひとりで作り上げたり、うまくこなしたりするのは無理、と認めて「これこれここまで作ってみたけど、この後どうしたら良くなると思う?」と周囲からのアドバイスを求めながら、協力して作り上げていくよう勧めている。そしてクライアントからダメ出しが出てもそれを自分への批判と受け止めず、「良くしようとしてくれているんだな」と前向きに捉え、1つ1つ問題をクリアしていく。これはある意味、自尊心をくじくものであろう。それゆえ、プライドの高い人には合わない、もしくは「できない」方法である。

 履き違えてはならないのは、「手を抜くことを勧めているわけではない」ということだ。自分のありのままを認め、それでも精一杯良いものを作り上げていこう、という思いが大切なのだ。最終章で述べているとおり、「自分にできることがあるんだから、それをする。できることがあることをうれしく思う」という気持ちで仕事と向き合うのだ。そのように多くの人の助けを得ながら、彼は多くの人に受け入れられ心に残るフレーズや映像を伴ったテレビCMを生み出しているという。社会に出て働いている人で「オレは才能に溢れているぜ、ウェーイ!」という人は少ないだろう。むしろ、「本当にこれでいいんだろうか? 自分はこの仕事に向いているんだろうか?」と日々暗澹たる思いで過ごす人の方が多いように感じる。わたしも例外ではない。 そのように自信がなく悩みを抱えている全ての社会人にとって、必読の1冊ではないだろうか? そう思えて仕方がない。

 本書では「さて、この本は、ある春めいたおだやかな日に(うそです。本当は天気まで覚えてないです…)」「一応、私、名前が“真一”といいまして、山本有三の名作『真実一路』からとったともいわれているぐらいですから、真実とか嘘とかに敏感なのです。半分冗談ですが」「ここだけの話。ここだけの話というわりには、本に書いてしまっているわけですが」といった具合に、福里氏の心の声そのままに書き綴られている。読み始めればきっと、ぐいぐい彼の世界に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまうだろう。目を見て話すことができないほど内気な編集者との出会いや、本書の内容が増えていく過程、そして出版するまでのエピソードも必見。

文=渡辺まりか