市川由衣、池松壮亮、この2人以外では実現できなかった─映画『海を感じる時』は役者を見よ

映画

公開日:2014/9/7

 36年前に発表された小説『海を感じる時』が、初めて映画化された。今よりも「不純異性交遊」への視線がずっと厳しかった時代に、相手の心をつなぎ止めるために体を差し出した、ひとりの女の子の物語だ。本作で群像新人文学賞を受賞したとき、著者の中沢けいは18歳。文壇で大きなセンセーションを巻き起こし、60万部のヒットとなった。

 監督は、魚喃キリコのマンガを原作にした『blue』(2003年)でも、震える心とたぎる体の関係性をクールに、鮮やかに画面に定着させた安藤尋。脚本を手掛けたのは、巨匠・荒井晴彦だ。実は、本作の映画化プロジェクトは、30年以上前から動いていたものだった。脚本も完成していたが、原作者の意向で中止となった。原作の結論はそのまま、後半部をアレンジした脚本に違和感を覚えたからではない。その証拠に、今回の映画は30年前の脚本がそのまま使われている。原作者にとって最大の違和感は、自分の生み出した登場人物を演じられる女優・俳優が、存在するとは思えなかったことだった。

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 『映画芸術』2014年夏号で、中沢けいがエッセイを寄稿している。今このタイミングで映画化されたことは、運命であり必然だったんだ、と。「主演の市川由衣さん、池松壮亮さんが生まれてくるまで待っていただいたんだ」。原作者が映画化に際して紡いだ、これ以上の讃辞を他に知らない。

文=吉田大助/ダ・ヴィンチ10月号「出版ニュースクリップ」