【大ヒットガチャガチャ「コップのフチ子」の誕生秘話】きっかけはOLのつまらないFacebook投稿?

エンタメ

2014/9/12

 20万個売れればヒットといわれるガチャガチャ業界に、小さな妖精が舞い降りた。コップのフチに飾れる小型フィギュア「コップのフチ子」は、2012年7月に発売されて以来、シリーズ累計約650万個(2014年6月現在)の大ヒットを飛ばしている。老若男女問わず、ここまで多くの人に愛されるガチャガチャが他にあっただろうか。ガチャガチャ以外にも関連グッズやタイアップが現在進行形で次々と生まれ、その人気は留まることを知らない。一体「フチ子」はどのような環境で、どのように誕生したのだろうか。

 「コップのフチ子」を生み出した奇譚クラブ主宰の古屋大貴氏著『コップのフチ子のつくり方』(パルコ)には、奇譚クラブの社風や「フチ子」誕生秘話について記されている。奇譚クラブは、ガチャガチャを企画・製造している会社であるのだが、人気商品は「コップのフチ子」だけに留まらない。「ここは俺がくいとめる!お前は先に行くニャー!」や「キノコストラップ」は約300万個、「土下座ストラップ」は約280万個、という大ヒット商品を立て続けに打ち出しているヒットメーカーであるのだ。しかし、古屋氏は「どうすれば、売れるものが作れるか」ということはあまり考えていないという。常に考えていることは「面白いものをどんどん作る」ということ。特に、ガチャガチャは、ケースに包まれ、何が出てくるか分からないという特殊な商品であるため、「言葉で説明せずとも、見ただけで面白さが伝わる」必要がある。ガチャガチャマシンの正面に入っているPOP1枚でお客さんの心を掴める「出オチ」の面白さこそが人の心を掴むと古屋氏は語る。

 面白いアイデアを生み出すためには、マーケティングばかりしていては意味がない。奇譚クラブでは社内だけでなく、外部のクリエーターと組んでガチャガチャ企画を立ち上げることがあり、「コップのフチ子」は漫画家のタナカカツキ氏との企画によって誕生した。だが、最初の打ち合わせは8割がた雑談だったというから驚きだ。雑談は仕事の場では軽視されがちだが、雰囲気をとき解し、思わぬアイデアを生み出す可能性も高い。古屋氏もタナカ氏も雑談を大切にしながら、企画を考え出していったという。

 古屋氏はさほど意識していなかったが、タナカ氏は企画段階から、SNSを強く意識していたらしい。タナカ氏は常日頃、友人達の投稿を見ながら、「OLのFacebookがつまらない」という不満を抱いていたという。OLはよく食事のとき、必ずといって良い程、写真を撮り、Facebookで食事の報告をしているが、それはありきたりなものばかりだ。撮影している本人にとっては、特別な食事の記憶なのだろうが、見る者には何の楽しさも提供していない。「このつまらないFacebookの写真をなんとかして面白くできないか」。このモチベーションがフチ子誕生のきっかけをつくった。

 タナカ氏は、「写真を撮ってアップしたくなるものを作ろう」というイメージをもっていた。そして、「OLの手元にあるもの」に飾れるようにと、オフィスにもカフェにも居酒屋にもあるコップのフチに目を付け、「より親近感を持ってもらいやすいように」とOLとキャラクター設定した「コップのフチ子」がデザインされた。

 飲み会の席で、フチ子を取り出してグラスに引っ掛ければ、周りの人と話が盛り上がり、その様子を思わず写真に撮りたくなってしまう。そうやって遊んでいるうちに、普通のポージングでは飽き足らず、大喜利のようにふざけたポーズを競い合って、またそれが拡散されていく。古屋氏とタナカ氏が「誰にでもウケる面白いものを」と突き詰めていった結果、フチ子はネットを介したコミュニケーションツールとしてだけでなく、リアルの現場でのコミュニケーションツールとしても機能する商品となったのだ。

 SNSがヒットに重大な影響を与えたとはいえ、古屋氏とタナカ氏が突き詰めて考えたことはとてもシンプルだ。「どうすれば売れるか」よりも「どうすれば面白がってもらえるか」を考えること。言葉でも伝えなくても見ただけで伝わる企画を生み出すこと。マーケティングにガチガチに固められ、身動きが取れなくなっている会社員こそ、奇譚クラブの企画術は学ぶべきもの、といえるのかもしれない。

文=アサトーミナミ