意外にも戦闘的、前戯からはじまる生殖行為…知っているようで知らないゴキブリの生態

科学

公開日:2014/9/12

 「私から離れよ、ああ、いまいましいゴキブリめ、私はクヌム神である」

 紀元前1750年~1304年に栄えた、古代エジプトの第十八王朝の巻物『死者の書』に記された呪文だ。儀礼を執り行う司祭が祭壇を消毒するときに使っていたとされる。

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 古代より人類の脅威とされ、なおかつ忌み嫌われていたのがよくわかる一節だが、その生態には様々な憶測も飛び交い、未知なる部分も多い。そこで、彼らの生態をまるまる1冊かけて綴った書籍『ゴキブリ大全』(デヴィッド・ジョージ ゴードン:著、松浦俊輔:訳/青土社)をもとに、恐る恐るだがその生態をわずかでも明らかにしていきたい。

■ゴキブリは戦闘的。たがいににらみ合い、一騎打ちをしかける
 複数のゴキブリをいっしょに見かける機会はおそらく、そうそうない。しかし、私たちの目に見えない場所では、ゴキブリ同士が一騎打ちをするときがあるようだ。同書によれば、チャバネゴキブリやワモンゴキブリはとりわけ攻撃性が強く、時に、縄張りを守るために相撲のように戦いはじめるという。

 いがみあうゴキブリ同士はまず、触覚を使ってフェンシングさながらに互いを牽制しあう。やがて、戦いは本格的にはじまり、みずからの全身を地面から持ち上げる「高脚歩き」などをして、一方あるいは双方が相手を威嚇しはじめる。このとき、互いが停戦協定に応じる場合もあるというが、そうでない場合には、下アゴでかみついたり、前後の脚で蹴飛ばしたりと肉弾戦へと発展していき、最終的に勝敗が決められるという。

■一匹見かけたら百匹はいる…ゴキブリの生殖行為は前戯から段階を踏む
 ゴキブリの生殖行為は、前戯からはじまるという。そもそもの出会いからたどると、生殖期に達したメスは、みずからの下腹部を曲げつつ前後の羽を上げる「コーリング姿勢」を取り、背面からフェロモンを出してオスをおびき寄せる。

 やがて、出会ったオスとメスはたがいに触覚を突き合わせるという前戯をはじめ、1分から2分後、フェロモンを感じ取ったオスが左右の羽を上げて背中を見せはじめる。じつは、オスの背中には「刺激体(エクサテイター)」と呼ばれる部位があり、この部分からも「誘惑物」と呼ばれるフェロモンに似た物質が発生するそうだ。

 そして、メスを背中に乗せたまま、もしくはメスがオスの体を脚でつかむような形となり、オスの腹部から伸びる交尾器が接続され、1時間かそれ以上、交配に及ぶという。

 尚、ある研究結果によれば、ゴキブリはまれに同性間で交配に及ぼうとする機会もあるようだ。原因は、求愛中のオスに付着したメスのフェロモンではないかと、同書では指摘されている。人類が滅びようとも生き残るといわれるゴキブリだが、忌み嫌われる存在とはいえ、時折ネタにも使われるほど憎めない存在でもある。同書から紹介したい内容はほかにもたくさんあったのだが、食事が楽しめなくなりそうなので、このあたりでひとくぎり付けようと思う。

文=カネコシュウヘイ