光るウサギ、ジャガイモ、オタマ…遺伝子組み換えによって発光する生物たち

科学

公開日:2014/9/14

 “光る生物”と聞いて、まず浮かぶのはホタルかもしれない。あるいは深海魚やクラゲなど、海の生き物も恋愛や捕食のためによく光る。ちなみに、ハマグリにも光るタイプがある。

 2000年前に生きた古代ローマの博物学者・プリニウスは緑色に光るハマグリを発見し、食べてみたところ、口が光りだすファンタジックな事態に見舞われた。結果、古代ローマ人の間では、闇夜に催す“光る晩餐会”が1世紀にわたってブームとなったという。

advertisement

 しかし、現代は思いがけないものが光る。たとえば、サル、マウス、ネコ、ウサギ、ブタ、大豆、虫、大腸菌など。「なんで!?」「どうやって!?」という点については、『光る遺伝子 オワンクラゲと緑色蛍光タンパク質GFP』(マーク・ジマー:著、小澤 岳昌、大森 充香:訳/丸善)に詳しい。

 このバイオテクノロジーの分野でよく使われるのは、「オワンクラゲ」というクラゲからとれる“光るタンパク質(GFP)”だ。モデル生物の遺伝子に「GFPを作る遺伝子」をつないで細胞に入れると、細胞内で光るタンパク質が作られて、発光するという。

 現在までに誕生した“光る遺伝子組み換え生物”たちの一部をご紹介しよう。

●光るゼブラフィッシュ
メダカに似た透明な魚。器官形成の研究過程で、臓器だけを光らせようとしたところ全身が光ってしまった。「(台湾では)“夜の真珠”と称されて、一匹およそ15ドルで売られている」という。

●光るジャガイモ
五大作物の一つであり、今後も重要な食糧資源になりうるとして「エジンバラ大学の研究者らは、水やりが必要なときに葉が光り出す遺伝子組み換えGFPジャガイモを開発した」。ジャガイモが、みずから光で水が欲しいタイミングを知らせてくれる。

●光るウサギ「アルバ」
「紫外線光を当てると、アルバはかわいらしいファミリーペットから、人の心を当惑させるような未来像ともいえるSFペットに変貌する」。遺伝子工学に対する関心を高めるトランスジェニックアーティスト、エドゥアルド・カッツ氏の手によって、足やひげなど、あらゆる細胞から緑色の光を放つ “作品”として誕生した。

●光るオタマジャクシ
「カドミウムと亜鉛(環境汚染物質である重金属)存在下で緑色に光る」。近い将来“重金属検知オタマ”として、川や湖の汚染状況を知らせるセンサーの役割を担う可能性があるそうだ。

 本書に記載はないが、現在、“光るカイコ”も大いに注目されている。今年2月、農水省が遺伝子組み換えカイコを試験飼育するプロジェクトを承認。 このカイコが作った糸を使い、紫外線光をあてると闇の中で光るドレスなどが実現している。

 人間の都合による遺伝子の改変には、異を唱える人も多い。しかし、この光によって「科学者は専門の機器を使って、生きた生物の体内で、いつタンパク質がつくられ、それがどのように移動するかを観察することができるようになった」のもひとつの事実。

 これまで目に見えなかったものが、急激に見えるようになり、「今日のがん研究者は、モデル生物内で一個のがん細胞が増殖したり別の部位に転移したりする様子を観察することができる」。サルやマウス、ネコ、ブタなどの光る動物たちはこうした研究に役立っている。

 前述のプリニウスは、発光するクラゲのGFPを杖に塗り、たいまつ代わりに行く手を照らす“光る杖”を考案していた。古代の博物学者を驚かせたGFPは、これからも、科学や医療の道を照らす貴重な光となるのだろう。

文=矢口あやは