横浜Fマリノスサポーターも… なぜサッカーには人種差別がつきものなのか

スポーツ

更新日:2016/3/14

  2014年8月に開催されたJリーグの試合で、横浜F・マリノスのサポーターの1人がバナナを振って、対戦相手の外国人選手を挑発するという事件が起こった。有色人種(主に黒人)を「猿」と貶める、愚かな人種差別行為だ。

 その年の3月には、「JAPANESE ONLY」の横断幕がスタジアムに掲げられた差別問題で、浦和レッズに無観客試合という重い処分が下ったばかり。観客のいないスタジアムに立つ選手たちの悲壮な表情、レッズの主将・阿部勇樹選手が読み上げた差別撲滅宣言を、Jリーグのサポーターは重く受け止めたはずだ。それなのに、なぜ、愚行が繰り返されるのか?

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 『サッカーと人種差別』(文藝春秋)の著者・陣野俊史氏は「サッカーはスタジアムだけで完結していない。その社会の持つ空気を正確に映し出す」と、差別の原因を見る。

 サッカーの世界には古くから、人種差別、女性蔑視、外国人嫌悪などの様々な差別が存在する。階級闘争や民族闘争を背景に発足したクラブチームが多いことも差別を生みやすい環境といえる。

 長い差別の歴史に大きな変化をもたらしたのは1995年の「ボスマン判決」。契約満了後のサッカー選手の移籍の自由を認めると同時に、EU圏内のクラブは、EU加盟国国籍の選手を外国籍扱いにできないとした判決だ。

 その結果、これまでの外国人枠が空き、南米やアフリカ、アジアから選手が流入し、欧州サッカーは国際化が進んだ。それは同時に、人種差別問題の拡大にもつながった。

 世界的に有名な選手たちも、人種差別に晒された。

 元ブラジル代表ロベルト・カルロス、カメルーン代表サミュエル・エトー、イタリア代表バロテッリ…外国人嫌悪(ゼノフォビア)や差別主義者(レイシスト)のウルトラス(フーリガン集団)から、バナナを投げられ、差別的野次を飛ばされた。

 選手間で、相手を侮蔑するジェスチャーや、汚い差別的な罵声を浴びせる場面も、度々発生している。

 もちろん、FIFAやUEFA、各国サッカー協会やクラブは、差別に対し厳しい処罰を与え、その都度、人々は差別撲滅を思う。だが、差別はなくならない。

 2013年1月3日。フレンドリーマッチを戦っていたイタリア・ACミラン所属のケヴィン・プリンス・ボアテングは、突然ボールを“手”で拾い上げると、スタンドの観客に向かって鋭いボールを蹴り込んだ。ガーナ出身の黒人選手に対し、差別ソングを歌い続けた観客たちへの抗議だった。ボアテングが背番号10を脱ぎ、ピッチを去ると、仲間の選手たちも後に続いた。ミラニスタからは拍手が起こった。

 ボアテングの悲痛な思いは、イタリアのサッカー連盟を動かした。

 「試合中に人種差別的行為があれば、審判と保安責任者の相談の下、試合を中断できる」という規定が作られたのだ。

 残念なことに、同年5月、ボアテングに向けた差別的挑発があり、ACミラン対ASローマの試合が、審判によって中断されてしまった。

 そして2014年4月─スペインの試合FCバルセロナのDFダニエウ・アウベスが「バナナ」を食べた。コーナーキックを蹴る直前、差別主義サポーターが投げたバナナを拾って、試合中に食べたのだ。

 差別にユーモアで返したアウベスに共感した世界的なサッカー選手たちが、バナナを食べる姿を次々とSNSに投稿し、「We Are Monkeys」という世界的ムーブメントが起こった。

 「笑いにすべき問題ではない」との反論もあったし、FIFAは人種差別に対し今まで以上に厳しい処置を取り始めているが、アウベスの行為は、差別へのひとつの戦い方だった。

 それでも、バナナは相変わらず投げ込まれ続けている。

 元イングランド代表でジャマイカ生まれの黒人選手ジョン・バーンズ。酷い人種差別で心を傷つけられた彼は言う。

 スタジアムで人種差別が禁止されても、人種差別主義者は90分間黙っているだけで、人種差別主義者のまま。人種差別が撲滅されたわけじゃない。

「サッカーやスポーツで人種差別問題が取り組まれるようになる以前に、それは社会の問題として扱われるべきなのだ」と。

 そう人種差別の問題は、スタジアムではなく、社会を構成する我々個人の中にあるのだ。

 サッカーを見るときに、少しだけ目を閉じて考えてみて欲しい。

 あなたがサッカーを楽しいと思う心に、人種はありますか?

文=水陶マコト