「絵の力が大きかった」 担当編集者が語る『進撃の巨人』誕生秘話

マンガ

公開日:2014/9/21

 「絵の力が大きいと思うんですが、作家の魂が訴えかけてくるみたいで、すごいインパクトでしたね」

『進撃の巨人』の担当編集者・川窪慎太郎が、初めて諫山創の持ち込み原稿を読んだときの感想だ。当時、川窪は週刊少年マガジン編集部に配属されて1カ月目という新人だったが、一読して原稿の熱量が他とは違うことを感じとった。

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「連載用のネームを二人で相談しているタイミングで、『別冊少年マガジン』の新創刊が決まったんです。ダークファンタジー系のコミック誌を標榜していたので、諫山さんにぴったりだと思って、さっそく何本か設定案を出してもらうことにした。だけど、どれもあまり引っかかるものがなかったんですね。僕はずっと『進撃の巨人』を連載にしたら面白いんじゃないかと考えていたので、そこで諫山さんに『進撃の巨人』が読み切りで完結しているストーリーなのか、まだ続きの設定があるのかを訊ねたんです」

 すると、実はこういう設定を考えていて……という話になり、川窪は「やりましょう」と即断。こうして新人マンガ家×新人編集者による連載がスタートした。どんな打ち合わせを経て『進撃の巨人』は創作されているのだろう?

「僕はかなり省エネ編集者なんです。アイデアを出したり、プロットを考える編集者もいますが、僕にそうした才能はないと思っているので、作家の案を引き出せるだけ引き出すのが基本方針です。諫山さんがプロットやネームを書いてくると、じっくり読み込んだうえでシーンやキャラの行動の意味をひたすら質問する。わかっていても自分がバカになったつもりで、思いつく限りの質問をします」

 打ち合わせ中、川窪が「なんで?」を連発しているため、周りからは怒っているように見られるらしい。が、まったくそんなことはない。伏線が張りめぐらされた『進撃の巨人』ならではの打ち合わせ方法なのだ。

「連載開始当初は、読者人気のベスト5に入るか入らないかくらいの順位だったんです。それが、エレンが巨人に喰われてしまう4話目あたりから、急激に人気が上がり始めた。1巻が出る頃には、一部のマンガファンがブログで話題にしてくれたり、書店員の方が手作りのポップでプッシュしてくれたり、少しずつ口コミで話題が広がっていったんです。1巻の初版は4万部でしたが、その翌日に販売部から連絡があって重版が決まり、その数日後にさらに重版がかかるという勢いでした」

 そこから約4年の時を経て累計4000万部の大ヒット。途方もない数字だが、その理由を担当編集者はどう分析している?

「設定がキャッチーだったと思うんです。人類が巨人に支配されていて食べられちゃうとか、1巻で主人公が死んじゃうような場面があるとか、知ってる?と話題にしやすいですよね。ブログやtwitterの口コミで拡散する時代にマッチしたんだと思います」

『進撃の巨人』が話題になり始めた頃、川窪は会う人ごとに、「すごい好きです」「めちゃくちゃ面白い」と言われた。しかし、その後に続くのが、「でも、絵が」だったり、「最近ダレてきてません?」といった余計なひと言……。

「なぜそんなことをわざわざ言ってくるのか、最初は意味がわからなかった。『好き』でいいじゃんって(笑)。でも、アイドルは完成度のほつれが大事であると諫山さんも言っていますが、どこか未完成のものに対して、私が応援してあげなくちゃ、と補完しようとするファン心理が働くものだと思うんです。諫山さんを作家としてみんなで成長させてあげたくなるというか」

 関連グッズの発売、リアル脱出ゲームや西武鉄道とのコラボなど、異業種を交えた盛り上がりも『進撃の巨人』ならではの現象だ。

「あえて模範解答をするなら、『進撃の巨人』はみんなで育てていった感覚なんです。描き手部門が諫山創、編集部門が僕で、印刷部門や宣伝部門がいて、読者と書店員の方もいる。4000万部という数字に実感はないのですが、関わってくれた人みんながチームで、どんどんメンバーが増えていったような感覚があります。スピンオフ作品を手がけてくれる人も、商品化で関わってくれる人もチームだと思ってます。『進撃の巨人』を面白いと思ってくれることだけが条件のチームなんですよね」

 こちらのインタビューを掲載している『ダ・ヴィンチ』10月号では、大躍進がとまらない『進撃の巨人』を徹底特集。著者みずから作品の謎に迫るロングインタビューや、超豪華マンガ家たちによる描き下ろしイラスト、キャラクター人気投票など見逃せない企画が詰まっている。

取材・文=大寺 明/ダ・ヴィンチ10月号「進撃の巨人特集」