「巨人はヒゲを剃ってほしかった」 『進撃の巨人』×ヒゲ剃りコラボの裏側大公開

ビジネス

公開日:2014/9/23

 一連の企業と『進撃の巨人』のコラボの中でも、「公式が病気」という評価を特に多く受けたのがシック・ジャパンではないだろうか。声優陣8名が音声を録り下ろしたオリジナルムービーは、アルミンの衝撃的な語りから始まる――。「2014年、人類にある転機が訪れた。巨人たちはただヒゲを剃ってほしかっただけであるということが判明したのだ」

 マーケティング本部の内田真衣氏によると、コラボの狙いはブランドの長期的なファンづくり。

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「シェービング用品はブランドに対するこだわりを持たれづらいため、ファン層の広い『進撃の巨人』と組むことで、多くの人にシックを好きになってもらいたいと思ったんです。何よりこの作品の魅力は、非日常の中に描かれる“日常”のリアルさ。シェービングもユーザーの日常的な行為なので、その親和性が決め手の一つとなりました」

 ブランドテーマである“爽快さ”とダークファンタジーとのギャップも面白い。同氏は「キャンペーンでしか見られない、明るく爽やかな『進撃』を楽しんでほしかった」と狙いを明かす。確かに、命のやりとりを常とする本編に対し、ムービー内で「私はあそこの巨人どものヒゲを爽快にすることができる」「できなければ剃り残すだけ。でも、剃れば爽快、剃れなければモジャモジャだ!」と啖呵を切るミカサにはちょっと和む。

 ムービー4本の合計再生回数は、公開1カ月ほどで300万回を突破。清涼剤的に楽しんでいるファンも多いだろう。

 一方で、世界観の根幹は崩さないというルールもあった。「討伐をヒゲ剃りに変えただけで、『人類が生き延びるための行為』であることは変わりません。だから“お笑い”にはならなかったし、収録も真剣そのものでした」。企画当初はファンの反応を気にしていた内田氏も、声優陣の気迫を目の当たりにして、一切の不安が消えたという。

 その本気度は販売店をも巻き込んだ。多くの店頭でキャンペーン商品が大々的に展開され、用意した『進撃』キャラの販促ツールも大活躍したのだ。通常、POPなどのツールを使ってもらえるか否かは店次第で、今回ほど大規模に展開してもらえるのは珍しい。売り場担当者のモチベーションアップを狙い、納品用の箱まで『進撃』仕様にするこだわりも奏功した。

 ネットと店頭の盛り上がりにより、キャンペーン商品は発売1カ月でほぼ完売(出荷ベース)。計画を上回る売り上げとなった。

 実は諫山先生も、この企画を面白がっていたらしい。ムービー内、フィギュア付きホルダースタンドセット(ミカサ版・リヴァイ版のみ)について「エレンがいない」と無神経につっこむハンジと、「うるせぇメガネだな」と毒づくエレンのシーンがある。このシーンは一度カットされそうになったが、諫山先生の希望で残されたのだ。

 原作者側も真剣に面白がると“無難”なコラボは生まれない。「公式が病気」は、企業というカタいと思われがちな存在に人間味を認めた場合にのみ発せられる、最高の褒め言葉と言えるだろう。

 『ダ・ヴィンチ』10月号では、ほっかほっか亭の「進撃の巨弁」キャンペーンほか、同作が企業を虜にし続ける理由を徹底追及。そのほか、ファンから大量投票が舞い込んだキャラクター人気投票や、結末に向けて著者が語る秘蔵ロングインタビューなど、ファンならずとも必見の『進撃の巨人』特集となっている。

取材・文=服部千紗/ダ・ヴィンチ10月号「進撃の巨人特集」