強盗、万引き、放火…高齢者はなぜキレるのか? 「高齢初犯」の現実

社会

更新日:2014/10/2

 敬老の日、元気なご長寿さんたちのニュースを見た。家族や友人らに囲まれ、笑顔に包まれたおじいさんやおばあさんは、本当に幸せそうに見えた。

 その一方で、最近、高齢者による万引きや殺人などの凶悪犯罪などのニュースも目立つ。高齢者の事件を見聞きするたび、心が痛む。太平洋戦争や戦後の辛い時代を乗り越え、高度成長期を支え、ようやく迎えた「老後」に、どうして万引きをしたり、人を殺したりしなくてはならなかったのか? 穏やかな日々はどうして失われてしまったのか?

advertisement

 『高齢初犯』(NNNドキュメント取材班/ポプラ社)によれば、ここ数年「高齢者犯罪率」と「高齢初犯」の割合が上昇しているという。

 4人に1人が65歳以上という超高齢化時代を迎えた日本で今、高齢者犯罪率(高齢者の中で罪を犯す人の割合)が上昇し、高齢者になって初めて罪を犯す人が増えているというのだ。

 「高齢者犯罪は現代社会にとって重要であるにもかかわらず、意外と見過ごされている」

 慶應義塾大学法学部の太田達也教授の言葉がきっかけで、NNNドキュメントのディレクター・田淵俊彦氏は、高齢者犯罪の取材を始めた。

 スーパーで惣菜を万引きした72歳男性、妻の一周忌に親戚宅に強盗に入った65歳男性、お金を返さない甥っ子に立腹し放火した84歳男性、バブル時代の羽振りの良かった自分が忘れられず、電車の中で財布を盗んでしまった65歳男性…数百円の焼酎を万引きした66歳の女性は、財布の中に数万円も入っていた。執行猶予中だった彼女は、次に罪を犯して捕まれば刑務所に行くのはわかっていた。

 犯行の種類も、状況も様々だ。だが、犯行の瞬間の思いを問われると、皆が同じように答える─「よく覚えていない」「我を忘れた」…魔が差した。そして彼らは「キレた」のだ。

 キレる高齢者が増えたと言われる昨今だが、田淵氏は「高齢者自体がキレやすくなったのではなく、高齢者を取り巻く環境が変わったのではないか」と考える。

 高齢者犯罪が増加し始めたのは1998年から最近に至る、ここ15~16年だが、1998年以降に高齢者となった人たちの犯罪率が突出しているわけではない。元々犯罪を起こしやすい性格の人ではないのだ。「人そのものの性格は変わらないのに、その人の行為を変えてしまうもの」こそが「環境」であり、その大きな原因は「孤立」だと田淵氏は言う。

 親子の同居家庭が減り独居高齢者が増えた。近所づきあいが薄くなり、隣の人の顔すらわからない。行政サービスがあっても、それを積極的に利用しない、手続きが複雑でできない。人との関係を築くのが難しい現代社会で感じる「孤立」は「孤独」とは違う。

 望んで一人になる孤独に対し、置いてけぼりにされる「孤立」が生み出す不安。

「家族がいたらやらなかった」「ひとりだから、もういいやと思った」という高齢犯罪者の言葉がそのことを裏付けているのではないだろうか?

 もし、お店に知り合いがいて声をかけてくれたなら、犯行は思いとどまれたのではないだろうか? 近所の人と話ができるような関わりがあったのなら、怒りに我を忘れ親戚の家に強盗に入らずに澄んだのではないだろうか?

 我々も必ず高齢者になる。ますます「孤立」が進むであろう社会で「高齢初犯」に陥らないために最も大切なことは、「人とのつながりを築いておく」ことだ。仕事や名刺、肩書や金ではなく、人と人として当たり前のように会えば挨拶し、元気がなければ心配し、励まし合える家族や友人の存在。

 以前、仲間のライターが言っていた。
「年を取ったら、知り合いでみんな同じアパートの隣同士で暮らそうよ」と。

 人生の終わりに笑顔でいられるよう、それってアリだな、と割と本気で思う。

文=水陶マコト