人類が唯一根絶に至った伝染病「天然痘」とは?

健康

公開日:2014/9/27

 ここ最近、伝染病や感染症の話題が尽きない。記憶に新しいデング熱の感染者は全国へと拡大しており、各自治体が次々と対策に乗り出している。また、アフリカで発生したエボラ出血熱による被害も拡がりをみせており、世界各国への感染拡大が懸念されている。

 人類はこれまでに幾多の感染症や伝染病と戦ってきた歴史がある。ごく微細な細菌やウイルスにより文明が脅かされる危険にもさらされたときもあったが、それらの記録を綴ったのが『図解 知られざる世界の裏面史 歴史をつくった7大伝染病』(岡田晴恵/PHP研究所)である。マラリアや結核、ペストなどの背景や歴史をていねいに記録した1冊だが、数少ない事例として、人類が初めて根絶にいたった「天然痘」について取り上げていきたい。

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 天然痘は、天然痘ウイルスがもたらす感染症のひとつだ。映画「リング」シリーズで取り上げられていたことで、耳なじみがある人もひょっとするといるかもしれない。

 天然痘ウイルスの潜伏期間は、7日~17日とされている。体内に入り込んでから口や鼻の粘膜、リンパ節からやがては血液を辿り全身へと広まっていく。初期症状では、39度~41度の高熱を伴い、頭痛や腹痛、嘔吐などを繰り返す。そして、全身に水疱や膿疱が広がっていくという。死亡率は20%で、一命を取り留めたとしても顔や全身に膿疱の痕が残ってしまう場合もあった。

 また、天然痘の恐ろしさは感染力の高さにもあった。感染者の全身を蝕む水疱内にはウイルスを多量に含んだ液体で満たされており、発疹のかさぶた一つでも周囲にウイルスをばら撒くほどの力を持っていたという。同書によれば、20世紀だけでも世界中で3億人が犠牲になったと記録されている。

 じつは、人類と天然痘の戦いは記録にある限りでも紀元前12世紀までさかのぼる。その当時のものだとされているエジプトのミイラには、皮膚の組織から膿疱の痕が発見されている。また、日本国内をさかのぼると、古くは552年には天然痘が伝来していたという記録が『日本書紀』の中で綴られている。そして同書では、聖武天皇が奈良の大仏ほか日本各地に国分寺などを建立したのも、天然痘を怨霊の仕業として封じ込めようとしたという理由があったと語られている。

 さて、日本でも古くから恐れられていた天然痘だが、1980年にWHOが「根絶宣言」を発表した。それまでの経緯をさかのぼると、1796年にイギリス人医師・ジェンナーが天然痘の予防接種である「種痘」を開発したことがきっかけだったという。牛の搾乳を生業とする女性たちが天然痘にかからないことへ目を付けたジェンナーは、症状は軽いものの、天然痘と似た「牛痘」と呼ばれる病気に一度かかっていたことを突き止めた。つまり、一度罹患してしまえば、二度とかからなくなるという特徴があった。

 そこで、8歳のジェームス・フィリップに牛痘ウイルスを接種し罹患させ、その後、天然痘ウイルスを接種して経過を見たという。危険な実験ではあったものの結果は成功を収め、1801年の「種痘の起源」を境にして、アメリカやヨーロッパの各国でワクチンの接種がはじまった。それから1世紀超、1966年にWHOが採択した「天然痘根絶計画」を経て、根絶に至ったのである。

 同書には新型インフルエンザなどについてもふれられているが、おそらく今後も、人類と感染症や伝染病の戦いは続いていくのだろう。しかし、その先にわずかでも根絶までの希望が残されているというのもやはり、信じ続けていきたい。

文=カネコシュウヘイ