今すぐ旅したい! 目と耳で味わう国内旅、片岡愛之助がナビする癒しのサウンドスケープ

暮らし

公開日:2014/10/5

 「あ゛~、仕事を放り出して今すぐどこか旅に行ってしまいたい!」「知らない景色を、見て、歩いて、癒された~い!」

 そう心の声は叫べども、社会人たるもの急に休みはとれないし、行きたい場所もすぐにはパッと浮かんでこない。

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 そんな心身お疲れモードのあなたにおすすめしたいのが、『一生に一度は行きたい「日本の音風景」100 次の旅は、この音と景色に会いに行きます』(環境省/小学館)だ。

 本書は“一生に一度は行きたい100の音風景”として、実際にその地に立つと聞こえてくる音や空気感まで収録した69分のCD付き書籍。ベースとなったのは、かつて阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件という大きな出来事で日本が揺れ動いていたさなか、環境庁(現・環境省)が公募した、“全国各地で人々が地域のシンボルとして大切にし、将来に残したいと願っている音の聞こえる音風景(環境)”の音源だ。それからときが流れて、日本は東日本大震災を経験。“日本の100の音風景”が選定された時期とどこか重なるような気がする今、改めて“100選”を見直し、「音風景」が編纂された。

 CDに収録された音の旅は、「オホーツク海の流氷」から始まる。氷と氷がぶつかり、ギシリギシリときしみあう音、波がザブンと跳ねる水音で、しばしの旅情を味わったあとに続くのは、北海道札幌市の「時計台の鐘」の音。ナレーションでナビゲートする片岡愛之助氏の声に導かれてページをめくれば、そこには「音」の風景を切り取った写真とその解説、「音」がよく聞ける時期とところやアクセスデータ、風景にまつわるちょっとしたうんちくがぎゅっと凝縮された本文が添えられている。「音」の旅は、北は北海道から南は沖縄まで、全部で100箇所を、ゆるやかに移動してゆく。

 青森県八戸市「八戸港・蕪島のウミネコ」の写真には、雲ひとつない真っ青な青い空をバックに、白い羽を広げて飛ぶ無数のウミネコたち。彼らがさみだれて鳴く、その声を耳に写真を見つめていると、ふと鳥が動いたような、そんな錯覚にもおそわれる。福島県南会津郡「大内宿の自然用水」の、江戸時代から続くという用水路ののどかに響くせせらぎの音に、ほっと心癒される。ちなみにこの用水路は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された、大内宿全域で聞くことができるという。

 人の五感と記憶とは、深く結びついており、特に、強い感情と結びついている記憶は、長期記憶になるとされている。心動かされた景色を前に耳にする「音」は、その振動が身も心も揺さぶり、細胞の奥底にまで刻み付けられるのかもしれない。そのため“風景と結びついている音”を耳にした瞬間、人は記憶の中から突如として特定の風景をよみがえらせたりする。海の音、川の音、風の音、木々の音、鳥や虫の声、小気味よい祭り囃子、三味線の音色、人々のざわめき、職人の木彫りの音。人々が残したいと願うのは、心を穏やかに導いてくれる、かつて平和で平穏だった、あの日本の音風景たちなのだろう。

 パラパラとめくりながらCDを聞き流すもよし、目も本も閉じて、ただ音風景にひたるもよし。やがてたどりつく旅の終わりは、沖縄県うるま市の「エイサー」の「音」。沖縄の誇りと信念を込めた伝統芸能の踊り・エイサーには、沖縄の地を生き抜いた先人たちの強い魂が感じられ、もっと聞いていたい、実際にこの目で見て、五感で体感したい気持ちが湧いてくる。

 本書には“100選”以外にもたくさんある“次に行きたい場所” のコラムも添えられており、こうして改めて振り返ってみると、日本の文化や風土は本当に多彩であり、そのことを感じさせる行事や風景に満ちていることに気づかされる。なにより、美しく繊細な四季折々が堪能できるのは、日本ならでは。「日本もまだまだ捨てたもんじゃない。いいな。行ってみたいな」という旅心がそそられる。そんな音のある環境を保全することには、自然環境のみならず、文化や地場産業が形成する生活風景も含めて、未来に向けて護っていくというメッセージも、込められているのではないだろうか。

 「音風景」には、旅好きな人はもちろん、旅はご無沙汰、むしろ好きではないという人の心もゆるめて、くつろがせる何かがある、とみた。

 富山県中新川郡の「称名滝(しょうみょうだき)」。350mという日本一の落差から、毎秒2トンもの水が爆音を轟かせるダイナミックな景観は「日本の滝百選」にも選ばれており、必見の価値あり。

文=タニハタマユミ