自然災害に備えたい! 土木の専門家が “首都水没” を予見!? 豪雨で水没する都内の危険エリアとは…!?

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更新日:2020/9/1

 みなさんは「平成26年8月豪雨」という呼称をご存知だろうか。

 今年の夏、日本の広範囲で発生した豪雨(7月30日から8月26日)について気象庁が定めた名称だ(8月22日に命名され、9月3日に期間が指定された)。その「平成26年8月豪雨」は京都府福知山市に大規模な洪水被害をもたらし、兵庫県丹波市や広島県広島市に大規模な土砂災害を引き起こした。住民による懸命な復旧作業は現在も続いている。

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 そんな中、土木のエキスパートによる書籍『首都水没』(土屋信行/文藝春秋)が、にわかに注目を集めている。著者は元東京都職員であり、現在は公益財団法人えどがわ環境財団理事長を務める土屋信行氏だ。

 本書を開くと、いきなりショッキングな文面が飛び込んでくる。スイスの再保険会社(保険会社のための保険会社)、スイス・リーが2013年にまとめた「自然災害リスクの高い都市ランキング」で、なんと「東京・横浜地区」が第1位になったというのである。これは世界616都市を対象に洪水や地震、津波などで被災する人の数を推計したランキングで、「東京・横浜地区」が危険度トップである理由として「活発になっている地震地帯に位置していること」「地震や洪水の危険性が特に迫っていること」などがあげられている。実際、雨量に関して言えば、日本は年間に世界の平均雨量の約2倍、約1700ミリもの雨が降るという。

 そもそも、日本は国土の73%が山岳地帯と丘陵地で、残りが台地と低地である。低地とは海抜100メートル以下の地域を指し、この低地に国民の約半数が暮らしているのだ。中でも東京への人口集積や都市開発は際立っており、著者はそのことが大きなゆがみをもたらすことになったと指摘している。

平成24年度 社会資本メンテナンス戦略小委員会現地視察資料 江戸川の概要

 ちなみに、本書でも引用されている国土交通省水管理・国土保全局の図表をみても、東京がいかに低地であるのかは、一目瞭然だ。水害では、東京都東部(下町)の低地(江戸川と隅田川の周辺に位置する葛飾区、足立区、荒川区や北区)の被害は、西側のいわゆる山の手とは比較にならないほど大きいと推測されているのもうなづける。土屋氏によれば、これら東京の低地は、地震被害や上流からの洪水、はたまた海からの高潮、果てはゲリラ豪雨による内水氾濫など、あらゆる災害の危険性があるという。人口や資産、社会経済活動の中枢機能などが集中する東京だが、海抜ゼロメートル地帯が4割を占め、多数の地下鉄が走る極めて水害に弱い構造であり、ひとたび利根川あたりで氾濫が起きれば、浸水区域内の人口は約230万人、死者数は約6300人という膨大な数になることが予想されているのだ。

 さらに、本書では中央防災会議(内閣府)による、地下鉄洪水の被害予測も紹介されている。

 仮に、足立区千住の堤防が決壊すると、わずか1時間で千代田線北千住駅から氾濫水が地下鉄に流れ込み、約3時間で大手町駅、約4時間で東京駅が浸水。最終的には16路線89駅、138キロが水没すると予測されている。特に東京駅は周辺が低地であるため、実は水没と隣り合わせの状況にあるという。加えて、東京だからこそ起こりうる被害についても加味する必要がある、と土屋氏。なぜなら東京都の地下に張りめぐらされた共同溝や電力通信設備のための地下トンネルはすべてつながっており、しかもその中を電力・情報通信網が走っているため、浸水をブロックすることはできないからだ。

 ところが、東京の災害対策は土地利用や立地、地形などそれぞれの地区の特徴によって発生する災害が異なるであろうことが考慮されておらず、東京全体の一律の防災対策でくくられているという。ちなみに同様の問題は大都市に共通している問題であり、実は大阪や名古屋にも同じことが言えるとのこと。

 では、われわれはいざというときに対して、何をどう備えればよいのだろうか。

 土屋氏は、東京の治水の歴史を知り、安全対策がなされている場所と、そうではない脆弱さがある場所を知ることの大切さをあげており、過去の東京の三大水害について紹介している。さらに個人ができることとしては、自宅や職場の見直しがあるという。そのチェックポイントを一部抜粋してみよう。

・そこは東京湾の水面よりも高い位置にあるか
・洪水ハザードマップ(国土交通省)で確認したことがあるか
・ゲリラ豪雨が来たら何メートル水位が上がるか知っているか
・水の中に孤立した場合の、外部への通信手段を確保しているか
・そこに2週間篭城することはできそうか    etc.

 予期せぬ自然災害にみまわれた際、その多くが「想定外」という言葉とともに報道される。しかし、自然災害とは往々にして「想定外のことが起こるもの」なのだと、認識を改める時期にあるのかもしれない。

 まずは本書で、現在都内で危険性が高いとされている地域を把握することから始めてみよう。さらに過去の日本の災害の歴史に学び、先人達の言い伝えが残された地名には留意し、客観的な最新データを調べてみる。実際に自分の目で確認することも必要かもしれない。そのうえで、いざそのときが来たら、いかに素早く避難するのか。必ずしも避難勧告や避難指示が出されるとは限らないし、災害生存者の証言を聞いても、瞬時の判断が明暗を分けることは否めない。これを機に、ふだん自分が立ち寄るエリアの情報収集や避難時のシュミレーションを、ぜひしておこう。

文=タニハタマユミ