『月刊朝礼』編集部に朝礼がなかった!? 現代表の“たったひとりの朝礼”から始まった同編集部の模範的朝礼とは

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更新日:2014/10/8

 先日、当サイトで紹介した『月刊朝礼』という雑誌。“何の変哲もないけれどちょっといい話”が1日1話ずつ掲載されており、「ほんの少しでも働く人のやる気をアップさせる朝礼」のために30年以上発行を続けてきた月刊誌だ。実際に、1000社以上の企業で『月刊朝礼』を使った朝礼が行われているという。

 では、そもそも『月刊朝礼』編集部で行われている朝礼は、一体どんなものなのだろうか。きっと、お手本になるような素晴らしい朝礼をやっているに違いない……。

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「もちろん今では毎日朝礼をやっています。全社員が『月刊朝礼』のその日のエピソードを読み、ひとり1分でその感想をスピーチ。そして、それを当日の“朝礼当番”の社員が総括するというもの。おおよそ30分くらいですね」(『月刊朝礼』編集長・井上学さん)

 まさに模範的な朝礼、そして『月刊朝礼』の使い方である。

 ところが、実はかつて『月刊朝礼』を制作していながらも、朝礼がなかった時代があったという。連日締め切りに追われている編集部では、毎朝全員が揃って改めて朝礼をするということは、意外と難しい。毎日の業務に忙殺される中、はじめは行っていた朝礼がいつの間にかなくなっていたのだ。

 そこからどのようにして、今の様な“模範的”な朝礼を復活させるに至ったのか。話は現在の代表・下井 謙政さんが急きょ三代目に就任した時からはじまる――。

 『月刊朝礼』を発行するコミニケ出版の創業者は、現代表の祖父にあたる。その後二代目として創業者の妻が後を継いだ。ところが、二代目が急逝。当時は板前をしていたという現代表が、急きょ三代目としてあとを継ぐことになったのだ。料理人の世界と出版業界はあまりにも違う世界。出版に関する基本的な知識もない三代目は、決して社員から歓迎されたわけではなかったという。

 もちろん、現代表本人も自分が出版素人であることは百も承知。何をすればいいのかわからないまま出社する毎日を過ごした。しかし、そんなある日彼はひとつの問題に気がついたという。

「『月刊朝礼』なのに朝礼がないじゃないか――」

 この状況に疑問を抱いた代表は、毎朝9時30分からひとりで朝礼をはじめた。ほかの社員は誰も参加せず、黙々と自分の仕事をこなしているだけだ。その中で、彼はたったひとりで『月刊朝礼』を朗読してその感想を述べるという朝礼を行った。

「素人が何をやっとんのや――」

 周囲の社員の反応は冷ややかだった。もちろん、参加する人は誰もいない。来る日も来る日も、ひとりだけの朝礼を続けたという。1週間たっても、2週間たっても、参加者はいなかった。社員たちの冷たい視線を浴びながら、それでもめげずに朝礼を続けたのだ。

 すると、ひと月ほどたったある日、見かねた社員が朝礼に参加するようになった。最初はひとり、翌日はまたひとり、気がつけば、社員のほとんどが朝礼に参加し、再び創業当時の様に活気あふれる朝礼が『月刊朝礼』に戻ってきた。そして、そのまま今も、毎朝9時30分からの朝礼は続けられているという。

「代表は、“自分ができることはこれしかないから”と思って続けたと話してくれました。最初は誰も理解してくれなくても、根気よく続ければわかってもらえるし、ひとりだけであっても朝礼をやったことでコミュニケーションが取れる。朝礼とはそういうものだということを、社員全員が改めて理解できたできごとだったのではないでしょうか」(井上さん)

 ちなみに、10月10日は日本記念日協会が認定する「朝礼の日」だとか。自分が働く職場に朝礼がないという人がいるならば、ひとりだけでもはじめてみれば職場の雰囲気がすこしだけ変わるきっかけになる――かもしれない。

文=鼠入昌史(Office Ti+)