アドラー心理学が教えてくれる劣等感との向き合い方

暮らし

更新日:2014/10/12

『アドラー心理学で人生が劇的に変わる! 「ブレない自分」のつくり方』(造事務所:著、深沢孝之:監修/PHP研究所)

アドラー心理学で人生が劇的に変わる! 「ブレない自分」のつくり方』(造事務所:著、深沢孝之:監修/PHP研究所)

 先日、好評のうちに終わった月9ドラマ『HERO』の最終回で、木村拓哉演ずる主人公・久利生が検事を志した理由を問われ、答えた。

「どんなことがあってもブレずにいられるから」

advertisement

 検事なのにラフな格好で仕事をし、圧力をかけられようと一片でも疑問があれば確認し、事件の真相を明らかにする、久利生検事は輝いて見えた。

 確固たる自分を持ち、他者の言動や環境に左右されず、まっすぐに生き、仕事でも結果を出す。誰もが憧れる生き方だが、どうしたら「ブレない自分」になれるのだろうか?

アドラー心理学で人生が劇的に変わる!「ブレない自分」のつくり方』(造事務所:著、深沢孝之:監修/PHP研究所)に、その手がかりを求めた。

 昨年末に発売された『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健/ダイヤモンド社)のヒットによって、今年になって注目を集めているアドラー心理学だが、そもそもどんな学説なのだろうか?

 心理学の第一人者フロイトとも仕事を一緒にしていたアルフレッド・アドラーアドラー心理学を創始したのは、今から100年以上も前のことだ。

 フロイトの「精神分析論」は、意識と無意識の対立や葛藤に焦点を当て、過去の何が原因なのかという「原因論」を科学主義で紐解いた。

 それに対しアドラーは、個人の主体性について焦点を当てた「個人心理学」を提唱し、「どこに向かおうとしているのか」という「目的論」と「共同体感覚」の重要性を説いた。

 例えば、何かミスをしたとする。その際、「なぜこんな失敗をしたのか(WHY)」を考えるのがフロイトで、「どうすれば失敗しないのか(HOW)」を考えるのがアドラーだ。

 さらに、その「HOW」に不可欠な要素が3つある。「ありのままの自分を受け入れること=自己受容」と「何かを判断するときにより大きな集団の利益を優先する=共同体感覚」、「自分と違う他人を信用すること=他者信頼」だ。

 具体的な例をあげて説明しよう。

 会社のプロジェクトで、同期がリーダーに選ばれ、自分が部下として配置された。

 自分には同期のリーダーよりも実力があるはずなのに、誰も認めてくれないような気がする。自分のやり方が間違っていたのかと不安になる。プロジェクトでがんばっても、成果はリーダーの手柄だ。やる気が起きない…。

 こんな場合、アドラー心理学では、こう考える。

 まず【自己受容】…自分がリーダーに選ばれなかったのは、実力がないからではなく、今回のプロジェクトが求める適正が異なる分野だったからだ。自分にできることを全力でやればいい。

 次に【共同体感覚】…プロジェクトの成功=自分を含む会社の成功。プロジェクトが実現することで社会への貢献ができる。その社会で自分も幸せを享受できる。

 そして【他者信頼】…自分と異なる価値観を認められれば、その違いすらも長所に思える。仲間で、同期のリーダーを全力で手伝うことに何のためらいがあるだろう?

 上記から分かるように、「問われているのは“劣等感の扱い方”」なのだ。

 以前、筆者はとある有名作家Aさんの担当編集者から、小説を書いてみないかとオファーされたことがある。
「Aさんみたいなのは書けませんけど、いいんですか?」と訊くと、「Aさんみたいなのが必要ならAさんに頼みますよ」と笑われた。その時、「ああ、他人との比較ではなく、自分の価値が何なのかが大切なんだ」と、フッと楽になった覚えがある。まさに、アドラー心理学でいう「自己受容」の瞬間だった。

 アドラー心理学とは、極論してしまえば、「自分を認め、自分を好きになること」なのかもしれない。

 本書では、自分の劣等感との向き合い方、家族や恋人などの人間関係をより良くするための考え方、仕事への取り組み方など、具体的な事例をあげ、分かりやすい図解とチェック欄を使って、読者自身が「何ができていて、何がわかっていないか」を把握できる構成になっている。

 もし今、あなたが家庭や学校や職場、日々の生活で何らかの壁にぶつかり、劣等感を抱いてしまっているのなら、本書をめくり、自分に当てはまる項目を読んでみてほしい。

 背負い込んでいた業のようなものが削げ落ち、素の自分が見えたなら、それが「ブレない」ために一番大切な、あなたの「軸」だ。そして、その「軸」すらも、しがみつくことなく、人生の局面局面で得た経験をもとに、変化していくことを恐れてはいけない。それは「ブレ」ではなく「成長」なのだ。

 アドラーは言う。何歳になろうが、どんな人生を経験してこようが、「当人の意志によって性格は変えられる」と。 

 肩肘張っていた自分に気づき、ふと体も心も軽くなったなのら、あなたは今、変化の第一歩を踏み出している。

文=水陶マコト