ポジティブ思考だけでは良いことなんて起こらない!【脳科学は性格を変えられるのか】

科学

2014/10/14

 書店に行くと「ポジティブ・シンキングがあなたを変える!」など、“前向きになって、人生バラ色になっちゃいましょう!”という自己啓発本が山積みになっている。しかしそんなことをいくら言われたところで、自己啓発本を何冊も読んだところで、後ろ向きな性格はなかなか前向きにはならない。「生まれつきだからどうしようもない」「遺伝子で決まってるんだなと諦めた」「いいことがあると思ってみたけど、そんなこと一切なかった」…そんな「後ろ向きな人」に、ぜひお勧めしたい本がある。「なぜ逆境にも強く前向きな人と、後ろ向きで打たれ弱い人がいるのか」という疑問を中心に、感情の科学について幅広く研究するオックスフォード大学感情神経科学センター教授であるエレーヌ・フォックス博士の『脳科学は人格を変えられるか?』(エレーヌ・フォックス:著 森内薫:訳/文藝春秋)だ。

フォックス博士は「逆境にも強く前向きな人」のポジティブな脳を「サニーブレイン」(晴天脳)、「後ろ向きで打たれ弱い人」のネガティブな脳を「レイニーブレイン」(雨天脳)と呼び、なぜ同じことが起こってもプラスとマイナスの反応をしてしまうのかを、心理学、分子遺伝学、神経科学の各分野を横断しながら、人格がどのように形成されていくのかということを数々の科学的な根拠をもとに明らかにしていく。つまりこの本は誰かの成功体験などをベースにした自己啓発本ではない。確固たる研究の成果をもとに書かれているのだ。とはいっても学術書ではないので、難しいところはない。「へー!」「ほー!」「そうなのか!」と膝を何度も打ちながら読み進められる。

「サニーブレインの中心は神経構造の中でとくに、報酬や気持ちの良いことに反応する快楽の領域にあり、レイニーブレインの中心は脳の古い構造部の中、とくに危険や脅威を警戒する恐怖の領域に存在している」そうで、これは人間が生き延びていくために必要な能力だ。蛇を見たら驚いて飛び上がる、というのはレイニーブレインが働くおかげなのだが、敵に襲われることや飢餓に見舞われることの少ない現代においても、危険が人の注意を惹きつける力は強烈で、たやすく克服されるものではないという。しかし「生まれつきだから」と思いがちな性格だが、サニーブレインとレイニーブレインの回路は、脳の中でも一番可塑性の高い場所であり、それは環境などで変化していくというのだ。フォックス博士は脳内の活動や大脳、海馬、側坐核、扁桃体といった部位がどのように連携しているのか、さらには最新の遺伝子研究などから、なぜ脳内の回路が変わっていくのかを明快に説明していく。

 またフォックス博士は「ポジティブに思考するだけで良い出来事が起こる」ということに対しては「問題解決とは似て非なるもの」と否定している。物事を前向きに捉えるだけではなく、自分に何ができるのかを考え、行動に移すことができないと「良い出来事」は起こらない…つまりポジティブな人は自ら「行動」を起こしているのだ。そしてただ単に物事の明るい面だけを見ることが「オプティミズム」(楽観主義)なのではなく、「世界を善悪こみであるがまま受け入れ、なおかつ、そこに潜むネガティブなものに屈しないこと」だと言っている。

 「個人を個人たらしめている記憶や信念、価値観や感情、そして習慣や性格の特徴などの要素はどれもみな、脳の中でニューロンがどんなふうにネットワークをつくりどのように連結するかに関連」しているので「このパターンを変化させられれば、自分を変えることもきっとできる」と、抑うつなどを科学で癒やせる可能性はあるとフォックス博士は語っている。確かに「人が状況にどう反応するかは、先天的な資質と後天的な環境に左右される」のだが、「どんな遺伝子の構造をもっていても、どんな出来事に見舞われても、それで人生の道筋が決まるわけではない」ので、「人生の舵は自分が握っている」という感覚を持つことが非常に重要だという。数々の科学的根拠に裏打ちされた本書は「そうか、ネガティブに考えてしまうのは、こうなっていたからなのか」と納得した上で、後ろ向きな自分を変えるきっかけになる読書体験になるはずだ。

文=成田全(ナリタタモツ)