離婚の原因にもなってしまう? 「カサンドラ症候群」とは

スポーツ・科学

更新日:2021/1/26

 結婚生活を続ける中、夫婦間で上手くコミュニケーションが取れない――。よくある話だが、その原因が医学的に説明できるとしたら…? 著者の西城サラヨが自らの結婚生活を記した『マンガでわかるアスペルガー症候群&カサンドラ愛情剥奪症候群』(星和書店)は、夫婦の不和を生んだ「アスペルガー症候群」「カサンドラ愛情剥奪症候群」の入門書でもある。

 耳にしたことのある人も多いであろう「アスペルガー症候群」とは、発達障害の1つだ。人によって特徴の違いはあるが、一般的に場の空気を読んで会話をすることが苦手とされ、自分が好きなことやこだわりのあることに集中するのが得意とされる。

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 では、「カサンドラ愛情剥奪症候群(カサンドラ症候群とも呼ばれる)」とは何か? 本書によれば、“結婚相手が「アスペルガー症候群」であることにより起きる、心身の不調”である。

 より理解を深めるために、著者の語るエピソードを見ていこう。

 まず、息子が生まれて父親となった夫が、「ごはん、まだ? えーと、ぐずっている息子を見ていればいいの?」と、とりあえず息子をひざに乗せて、マンガを読んでいるシーン。夫は息子をひざに乗せてはいるものの、文字通り「見ている」だけなので、息子はぐずったまま。妻は「息子を見ていてほしい=息子がぐずらないように相手をしてほしい」と考えているので、当然イラっとなる。ちなみに、夫に悪気はまったくない。

 また、「一緒にテレビを見ていても、見ている番組への感想が共有できない」「カレーを作ってくれるのはいいが、レシピどおりに1つの材料ごとに調理するため、とても時間がかかる」などの例もある。この際、妻は互いの距離を感じて寂しさを抱いたり、空腹で泣き出す子どもの傍で気をもんだりする羽目になるのだ。

 一方で、アスペルガー症候群である夫は、妻のイライラの理由を理解できない。そのため、2人の感情のやり取りは常に互いに一方通行。さらに、夫は“自分が親になる”“妻が子の母になる”という人生の役割変化への対応が難しいため、妻は夫が担うべき子どもへの対応も1人でこなすか、夫へ手取り足取り具体的に説明してお願いするかのどちらかとなり、負担が重くなる。

 こうした日々が続いた結果、筆者は、肉体的な疲労と「夫はわかってくれない」という孤独感にさいなまれ、抑うつ状態に陥ってしまった。この心身に表れた影響を「カサンドラ愛情剥奪症候群」と呼ぶのだが、著者もそれを知ったのは、かなり重いうつ状態になってからのようだ。

 当然、「結婚する前になぜ夫の個性に気づかなかったの?」という疑問を抱く人もいるだろう。しかし、現在の20代以降の人が学童期の頃には、今のように発達障害という診断はなかったし、言葉自体も知られていなかった。ゆえに、アスペルガー症候群の人たちは、その障害を認識されず、「ちょっと変わっているところもあるけどいい人」としか受け止められてこなかった。

 だからこそ、妻である著者自身も、自分が抑うつ状態になっても夫の障害を疑うことはなく、「いつかは自分の気持ちをわかってくれるはず」と思い、我慢し続けてしまった。だが、夫はいつまで待っても妻の気持ちをわからなかった。わかることができなかったのだ。

 一昔前、大家族で生活を営んでいた世の中なら、結婚したパートナーとのコミュニケーションに多少の問題があっても、親世代や兄弟世帯など他の家族と補完し合いながら、なんとか心の健康を保つことができたのかもしれない。だが、核家族化した現代は、結婚に求められる資質のハードルが上がったという見方もできる。

 夫を責めるのでもなく自分を責めるのでもなく、努めて冷静に語ろうとしている著者の文章からは、深い苦しみが伝わってくる。最終的には、夫の特性を理解しつつも離婚という決断に至るのだが、最後に彼女はこう述べている。「(アスペルガー症候群の人が)自分の特性を知り、そしてパートナーにも理解してもらったうえで付き合うことができれば、お互いによりよい関係の築き方を模索できるはずなのです」と。

 もし、周囲に同じような悩みを抱えている女性がいたら、本書をそっとすすめてみて欲しい。筆者と同じ状況でなくとも、自らの結婚生活を客観的に見つめ、とらえ直すヒントになってくれるに違いない。そして万が一、本書を読んで「自分も?」と思い当たったならば、躊躇せずに早めに医師に相談をするのがいいだろう。

文=奥みんす