「アーカイブ」ってなんの役に立つの? 大事なの?

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公開日:2014/10/17

 本書、『誰が「知」を独占するのか デジタルアーカイブ戦争』(福井健策/集英社)では、日本のデジタルアーカイブの取り組みの遅れや、今後とるべき指針などが紹介されているが、ほとんどの人にとっては、「アーカイブってなんの役に立つの?」「なんで大事なの?」という感覚なのではないだろうか。

 本書によれば、アーカイブの定義は、「過去の文書や映像・音楽などの作品を収集し、保存し、公開する場所のこと。古くからある典型例は図書館や博物館だが、医療データからフェイスブックに集まる写真まで、情報資産の全てがアーカイブ」ということ。筆者の主張によれば、「少資源の日本にとって、“知のインフラ”として社会と経済のゆくえを決定的に左右する存在になる」ということなのだが、なぜ「決定的に左右する」ようになるのか?

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 実際には、すでに左右している、というのが正しいかもしれない。例えば分かりやすい例では、インターネット。「様々な過去の情報が集まり、検索すれば眼前に呼び出せるインターネットという存在自体が、まさに巨大なアーカイブ」と言えるが、このアーカイブの窓口である検索システムをほぼ独占しているGoogleや、書籍の巨大なデータベースを持つAmazonなどは、世界規模でインターネット上の情報資産を事実上専有し、その価値によって、莫大な利益を生み出している。

 膨大な過去のデータの集積=デジタルアーカイブは、利用の仕方によって大きな価値と利益を生みだす。そのままでは顧みられることの少ない過去のデータを整理し、利用しやすいように整備することで、様々な用途に活用できる可能性が生まれ、新たな価値がつくられる。逆に、アーカイブがないということは、過去の情報によって価値を生むための基盤=インフラがないということで、これまでせっかく営々と培ってきた過去の遺産が、情報化社会の中で活躍できずに埋もれてしまう。

 そういった意味での日本のアーカイブに対する意識は高いものとは言えない。欧米のように精力的に予算をかけて文化のアーカイブをしていくことにも消極的だ。ただ、そんな中でも、いくつかの試みは進められている。

・国立国会図書館(http://www.ndl.go.jp/)
日本のアーカイブの中心とも言える国立国会図書館。2009年度にデジタル化のための補正予算127億円を獲得(それまでのデジタル化予算は年間1~2億円程度なので、100年分近い規模)。また同時に著作権法を改正して、日本の図書館の中で国会図書館だけは、所蔵資料を自由にスキャンしていいという例外規定をおかれ、1,000万冊近くの蔵書のアーカイブ化を進めている。

・NDL東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」(http://kn.ndl.go.jp/)
震災のアーカイブ。新聞記事・インタビュー音声・映像・写真など、未曾有の被害の実態、「人々がその時どう行動し、生死を分けたのは何か?」「行政・教育・医療など各現場ではどう対応したか?」「メディアはどう伝えたか?」、などを包括的に残し伝えようという試み。NHKの映像アーカイブや各被災地のアーカイブなども含め、29のデータベースが横断で検索できる。

・連想情報学
連想情報学の第一人者である国立情報学研究所(NII)の高野明彦教授らによって進められる情報の連想のアプローチ。膨大な情報から目的物と似ている情報をざっくりとすくい取り、連想を刺激しながら提示できる検索法の試み。

・新書マップ(http://shinshomap.info/)
新書1万6,000冊を共通するテーマとごとに分類した読書案内だが、キーワードだけでなく文章などを丸ごと検索用語に指定することができる。目次などの構成から似ている新書や共通の関心領域内の新書が提示される。

・想(http://imagine.bookmap.info/)
「全体的に似ている各ジャンルの情報」を横に並べて見せる連想型の検索エンジン。各データベースからの結果が並列的に表示される。

 こういった取り組みもあるものの、日本のアーカイブにかける予算は、世界的に見ても小さい。例えば五輪開催に向けた外環道の大規模工事は、練馬―世田谷間の16キロで事業費は約1兆2800億円と試算されているが、前出の国会図書館デジタル化プロジェクトの予算ですらその80分の1にも及ばず、外環道の工事に換算して180メートル分程度、という規模。世界に誇る日本の文化を残し伝えていくためにも、もう少しお金をかけてもいいのではないか。

文=村田チェーンソー