オーロラだけじゃない! アラスカ「裏」ガイドブック登場!

暮らし

2014/10/21

 僕の小学校からの友人にカヤックでユーコン川を旅したことがある男がいる。カナダ側のユーコン準州から下りはじめ、国境を越えアラスカに入り、キャンプを繰り返しながらベーリング海に出る少し前で旅を終えた。「水がとても透き通っていてカヤックが宙に浮いているようだった」「まる1日漕いでも何日も風景は変わらない」などとその友人はユーコンの旅のことを語った。その旅の話を聞いたとき、あいつは俺の想像を超える風景の中に身をおいてきたのだ!と嫉妬心が芽生えたことを覚えている。

 その後、偶然にも僕自身もカヤックを始め、アウトドア雑誌や、カヤック関係の本を読み漁るうちに『宇宙船とカヌー』(ケネス・ブラウワー/著 芹沢高志/訳 山と渓谷社)という本に出会った。スペースコロニー計画にも参加した物理学者のフリーマン・ダイソンと、その父フリーマンに反発し、ツリーハウスに暮らすというエコロジストの息子ジョージ・ダイソンの話だ。そのジョージが復元しようとしていたのが、アラスカからベーリング海に伸びるアリューシャン列島に住むアリュート族が使っていたバイダルカという3人乗りの大型カヤック。「気持ちよく、すばらしい速さで長い距離を旅することもできる」という美しいカヤックだ。

  • アラスカへ行きたい
    写真=石塚元太良

 今回紹介する、『アラスカへ行きたい』(新潮社)は写真家の石塚元太良と、編集者の井出幸亮の2人が実際にアラスカを歩いて作りあげたガイドブックだ。オーロラや氷河、ホエールウォッチングといった多くの日本人が抱くであろうアラスカ観光のイメージをとりあえず横に置いておいて(もちろんきちんと紹介されているが)、カヤック、トレイルなど、よりコアなアラスカを紹介する「裏メニュー」的なガイドブックになっている。同書ではアラスカを「東南アラスカ」「中南部とアラスカ湾岸地域」「極北アラスカ」の3つの地域に分けて案内する。

 初めに紹介される「東南アラスカ」は多くの島が浮かぶグレイシャー・ベイ国立公園を含む地域。この章の冒頭でジョージ・ダイソンとバイダルカが紹介されている。バイダルカをはじめカヤックはそもそものんびりと海を旅するものではなく、狩猟のために発達した船なので重要とされるのは推進力と航行性能だ。波と風に負けることなく前進できるように細く進化した形はほんとうに美しい。現代まで進化を続け、さらに高い航行性能を持つことになったカヤックは、アラスカの自然に触れるのに最もふさわしい乗り物と言えるかもしれない。

  • アラスカへ行きたい
    写真=石塚元太良

 グレイシャー・ベイ国立公園は世界中の多くのカヤッカー憧れの場所として紹介される。理由は、湾が「長野県がまるごと入ってしまうほどの広さ」を持ち、その中に「大小16個の海岸氷河が点在して」いて、その迫力のある風景を間近に見ることができるからだろう。湾の中は、「外洋のうねりが島々でブロックされているために、カヤックを漕ぐものにとっては天国のような場所」だというのだ。さらに「夏の間、餌を求めてグレイシャー・ベイまでやってくるザトウクジラのために、国立公園はエンジン付きの船舶の出入りを厳しく規制して」いるというから、波と騒音が少ない湾の中はカヤックにとっては理想的ともいえる環境となる。

 続く「中南部とアラスカ湾岸地域」では、同地域で際立った存在感をみせる北アメリカ最高峰、冒険家・植村直己が消息を絶ったデナリ(マッキンリー)は軽く紹介する程度にとどめ、反対にしっかりと紹介されるのはトレイルだ。19世紀後半から20世紀初頭にかけて起こったゴールドラッシュの時代にアラスカの奥地に入って行くためにできた踏み跡が今のトレイルのルートとなっているといい、アラスカの街もその多くがゴールドラッシュ時代にやってきた人々に由来するという。

 もちろん簡単な装備ではトレイルに入っていくことはできないが、同書では、アラスカ最大の都市アンカレジからほど近い場所にあるトレイルコースや、1デイハイキングなども提案されている。アラスカの自然を身近に感じられるトレイルは、経験が浅い人でも準備を整え挑む価値はあるだろう。

  • アラスカへ行きたい
    写真=石塚元太良

 最後に紹介される「極北アラスカ」エリアには、写真家・星野道夫が初めて訪れて暮らしたシシュマレフ村がある。ベーリング海峡に面したサリチェフ島という小さな島にある隔絶された村だ。星野道夫は動物写真でよく知られているが、文章にもすばらしいものが多く、アラスカの自然やそこに住む人たちを数多く紹介している。星野はその作品だけでなく写真を撮る姿勢や現地での暮らし方を通じて日本にアラスカを伝えた。

 星野道夫の他にも「アラスカを旅した人たち」として植村直己や、『野生の呼び声』などで知られる小説家のジャック・ロンドン、作家のジョン・クラカワーが『荒野へ』でその生涯を描いたクリストファー・マッカンドレスなども紹介されている。アラスカの多くのことはこういった「アラスカを旅した人たち」によって世界に紹介されてきた。実際にアラスカを訪れることができる人は幸運だが、アラスカに行けなくても、代わりに見て感じて紹介してくれる人たちが多く存在している。彼らの声に耳を傾け、小さい町まで丁寧に紹介されているこのガイドブックを開けばアラスカへ旅したと同じ気分にわずかだがなれる。しかし強く感じるのは「アラスカへ行ってみたい!」「あの風景を俺も見たい!」という思いだ。

 

『アラスカへ行きたい』の著者である石塚元太良さんの展覧会が2014年10月27日(月)~10月31日(金)まで東京・原宿のHasselblad Japan Galleryで開催される。ぜひ足を運んでみてほしい。

●展覧会概要
2014年東川写真新人作家賞 収蔵作品展
PIPELINE ICELAND/ALASKA」石塚元太良
会期:2014年10月27日(月)〜 10月31日(金)
会場:Hasselblad Japan Gallery 東京都渋谷区神宮前1-10-32
電話: 03-6434-9568
開館時間:12:00 – 18:00
石塚元太良 公式サイト

文=村上トモキ