「サイコパスな人間の心理」 とは?!ホラー作品のクリエイター 作家・貴志祐介×ゲームクリエイター・三上真司が語る エンタメで描く「恐怖」 【『ダ・ヴィンチ』10月6日発売 対談ロングバージョン】

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2014/10/23

圧倒的な力を持つ正体不明の敵に対峙する恐怖……。発売前から話題沸騰の新作ゲーム『サイコブレイク』。『バイオハザード』を生み出した三上真司がディレクターを務める、サバイバルホラー作品だ。発売を記念し、作家・貴志祐介と三上が対談した。貴志といえば、サイコパスを描き映画化もされた『悪の教典』ほか、数々のホラー小説で人気を博している。ホラー作品のクリエイターふたりは、このゲームで描かれる「恐怖」の世界をどう語るのか。

取材・文=門賀未央子
写真=首藤幹夫

「恐怖×エンタメ」を熱く語った三上真司(右)と貴志祐介(左)。

「恐怖×エンタメ」を熱く語った
三上真司(右)と貴志祐介(左)。

かつて「できなかったこと」をやったのが、
この『サイコブレイク』です
(三上真司)

小説家として、この表現力はうらやましいです(貴志祐介)

貴志:先ほど、『サイコブレイク』をプレイさせてもらいましたが、ゲームというものの進化に驚きました。グラフィックスにしろ、表現にしろ、ここまで来ているのかと思わされましたね。

三上:結構グロテスクな場面も出てくるのですが、映像的に拒絶感を感じたりする場面はありましたか?

貴志:いや、私はなかったです。むしろ、もっと気持ち悪いというか、逃げ出したくなるかなと思っていたら、そのあたりは巧妙に場面転換で調整されている。

『サイコブレイク』より

『サイコブレイク』より

三上:そうなんです。サバイバルホラーって、実は純粋なホラーを追求するものでもないんですよ。普通は、怖かったら逃げたり隠れたりする。でも、ゲームはそればかりだと成り立ちません。どれほど恐ろしい敵でも立ち向かって倒すというアクションが絶対に必要です。だからオドロオドロしい相手でも、こいつならブッ殺せると思わせる余地が必要なんですよね。

貴志:なるほど。時間の関係でプレイできたのはほんのさわりだけでしたが、その気持ちはわかる気がします。
 なにぶんゲームをやった経験がさほどないので、なかなかうまく操作できず、殺されてばかりで(笑)。そうなると、やっぱり若干ストレスが溜まるというか、反撃をしたいなとはすごく思いました。きっと、その気持ちが人をゲームにのめり込ませる原動力になるのでしょうね。

三上:実際にプレイしていく中で、どんどんうまくなっていくのを体感するのもゲームの楽しみのひとつですから。

貴志:そこが他の媒体との最大の差でしょう。小説や映画でホラーを表現する場合、一種マゾヒスティックに怖さを追求するという面があります。だから、アクションとホラーというのは実はさほど親和性が高くない。アクションでスカッとしてしまうと怖くなくなってしまうので、小説でアクション・シーンを入れるとしたら、それは物語の最後です。だから、途中で反撃を織り交ぜながら進行できるというのは、やっぱりゲームの特権というか――。

ホラーとエンタメの融合の苦悩を語る三上氏。

ホラーとエンタメの融合の苦悩を語る三上氏。

三上:いやあ、ゲームでもしんどいですよ。ホラー性を追求するならば、本当は反撃したくないですもの。ですが、スカッとするところがないと、先ほど貴志さんがおっしゃったとおり、プレイヤーには不満が溜まります。ホラー要素の強いゲームとして怖さを保ちつつ、ゲーム本来の快感を追っていくというのはなかなか大変な作業です。

貴志:ホラー作品として完成度を高めたいというのと、プレイヤーの欲求に応えるっていうのは相反するところがありますよね。
ですが、やはり小説家としてはうらやましく感じる部分もありまして……。

三上:例えばどういうところですか?

貴志:何箇所か「このダイナミックさは映像でしか出せないなあ」と思うシーンがあったんですよ。記事では読者の楽しみを奪わないためにぼかした表現にしてほしいんですが、特に、都市全体が●●して×××ていくシーンなんて、あの状況を活字で描写するのはまず不可能です。リアリティのかけらも出ない。ですが、これほど美麗で迫力のあるコンピュータ・グラフィックスでやられると、見ているほうも受け入れざるを得ないですから。いや、大変なものでした。

『サイコブレイク』より

常に違うものにチャレンジしていきたい

三上:僕は基本的に飽きっぽい性格なので、ひとつのジャンルに連続して取り組むのが苦手なんですが、ヒットしたら「続編を」と望むファンの方々が多くなるので、それに一生懸命応えたいと思い、『バイオハザード』だけでも何作も作りましたが、やはり違うものを作りたいという思いが溜まってくるんですよ。

貴志:その気持ちはよくわかります。同じような傾向の作品を続けると飽きてしまい、モチベーションが続かない。私自身、初期作品である『黒い家』以降、2010年に出した『悪の教典』までサイコホラー的なものはしばらく書いていませんでした。

三上:クリエイターには、常に違うものにチャレンジしていきたいっていう直感的な欲求がありますよね。

作品を描くモチベーションを語る貴志氏。

作品を描くモチベーションを語る貴志氏。

貴志:ええ。ただ、間隔が空くと「もっとこんなことができたんじゃないか?」など、いろいろ思うところが出てくる。僕はサイコホラーものを書くことでサイコパスといわれる人を書き尽くしたつもりでいたのだけど、実は違う書き方もできるのではないかとか考えるようになりました。三上さんは、『バイオハザード』の後、この『サイコブレイク』に至るまで、そういうことはありましたか?

三上:「これはやっていなかった」というよりも、「やりたくてもできなかった」ことはありました。
それは、技術的な面、時間的な面など複数の理由があってのことですが、かつて「できなかったこと」をやったのが、この『サイコブレイク』です。

貴志:これで、コントローラーがもっと進歩して、もっと直感的に扱えるものになったら、三上さんの目指した境地をさらに実感することができるのでしょうね。

三上:理想を言えば脳に直接映像をつないでしまえばいいのだけれど、それができるのはまだ先の話になりそうです(笑)。

その媒体でしか体験できない怖さを求めて

『サイコブレイク』より

『サイコブレイク』より

貴志:月並みですけど、一言で「恐怖」といっても形はいろいろあります。怖い小説を読みたいという方でも、それが怪談的な怖さなのか、それともスプラッタ的なショッカーなのかで求めるものは違ってくる。そして、これは媒体についても言えることだと思います。小説、映画、ゲーム、それぞれの特性を活かしてしか表現できないものがある。ジェット・コースター的にノンストップで行く怖さはゲームならではのものです。

三上:そうですね。やっぱりゲームとしての面白さを押さえるには欠かせないツボはあります。しかし、それも作るゲームによって全然違うし、追求すべき快感、快楽も違う。どんなユーザーを対象にするかによっても変わってくる。そこはケース・バイ・ケースですが、最低限のラインとして、「やっぱりゲームじゃないとこういう遊びはないよね」と思ってもらいたい。それがないと、映画や小説、マンガでいいとなってしまいますから。
 じゃあ、どういうところで差別化を図るのかというと、結局は「プレイして面白い」にこだわるしかありません。
ゲームにアドバンテージがあるのはそこだけなので。ゲームにとって、横で見ているだけでも面白い、とか、実況動画だけで楽しめるというのは別に褒め言葉ではないんです。「わざわざプレイしなくてもいい」となったら、映画のプロが作った映像のほうがよっぽどいいし、シナリオだけが面白いんだったら、それこそ貴志さんのようなプロの小説家に敵うはずがない。だけど、自分が実際にその世界に入って、あたかも実体験のように楽しめるというのはゲームだけです。ゲーム作りのプロとして、僕はそこにはこだわりたいし、手に汗握るものを世に送り出したいと思っています。

貴志:そういう意味で、今回一番のオススメはどこですか?

三上:ラウラという四つん這いのクリーチャーが出てくるシーンですかね。やり込みまくった僕でもいまだに手に汗握るので、すごくオススメです。超怖いですよ。

貴志:ああ、この蜘蛛人間のようなクリーチャーですね。映像で怖さを伝える時に、やっぱり一番“くる”のは人間です。人間は、人間の顔形に関してはスタンダードなイメージを強く持っている。だから、そこから逸脱した存在を見ると、ものすごく怖い。こういうふうにデフォルメされて蜘蛛になっているものっていうのは、それだけで生理的な嫌悪感を抱きます。

三上:ぜひ、多くの方にこいつと戦ってもらって、コントローラーを汗で濡らしてほしいなあと思います。

『サイコブレイク』より

サイコな人間の精神に入り込む恐怖

三上:ところで、『サイコブレイク』の異常な世界は、人間の精神に潜む狂気と密接な関係にあります。エンターテインメントの世界においては、昔から常軌を逸した殺人鬼――たとえば『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターのような人間を魅力的に表現した作品はたくさん出ていますよね。貴志さんも『悪の教典』でサイコパスの教師を主人公に据えられたわけですが、尋常ではない人間の精神を描くことの面白さはどこにあると思われますか?

『サイコブレイク』より

『サイコブレイク』より

貴志:レクター博士のような人の頭の中に入っていくとどんな恐ろしいイメージがあるのか、と覗き込むのは非常に面白いテーマだと思いますが、『悪の教典』の蓮実聖司に関して言うと、むしろ逆なんです。サイコパスと言われる人たちは、実はさほど豊かな想像力を持っているわけではなく、共感能力が生まれつき引き算された存在にすぎない。ですから、「我々の中にあるネジを一本抜くとどうなるか?」という部分に興味の焦点があたる。
蓮実の場合、彼の世界は非常にモノトーンで、すべてを得か損か、敵か味方かで判断します。そういう意味で、普通の感受性を持った我々が社会生活を営む上で重荷になってくる様々なしがらみから解放されているんですよね。そうであるが故に、「殺しちゃえばいいじゃん!」「バレなきゃかまわないよ」という戦慄すべき価値観で動いている。おぞましい精神構造ですが、しかしそうした在り方に解放感を感じるのも事実だと思います。だから、そこを書く、あるいは読むと、ストレス解消になるのかな。

ゲームの新たな可能性を探求し続ける三上氏。

ゲームの新たな可能性を探求し続ける三上氏。

三上:人間って、基本的には自由に好き勝手したいものじゃないですか。でも、実際は社会のいろんなルールや束縛、利害関係があって、心のままに行動することなんてできない。特に近頃は、規制や禁止されていることが多過ぎます。
2003年に映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』が公開されて大ヒットしたけれど、このご時世にみんなが古き良き時代の海賊に憧れるのは、すごくわかるんです。今でもシンガポールの周辺には海賊がいますが、現代の彼らに魅力は感じない。あの時代――俺のやりたいように生きるし、俺が法律なんだっていうのがまかり通った時代だからこそ、憧れるのだと思うんです。そんなふうに生きたいという欲求が溜まっている人は、今すごく多いと思います。だからこそ、『悪の教典』もたくさんの読者の心を捉えたのではないでしょうか。

貴志:結局のところ、我々が抱えているストレスの原因の9割以上は、他の人間との軋轢です。もちろん、喜びのほとんども他の人間から与えられるものではありますが。

三上:そうですね。

貴志:だから、ストレスの原因を解消する方法として、殺人まで許容すると、ものすごく選択肢の幅が拡がります。家ごと燃やしちゃうとか、怪我をさせて脅すとか。だから、そういうことをなんの葛藤もなくできる人は、ある意味非常に自由な世界に生きているのかもしれません。海賊のように。ただ、その自由は果てしなく怖い。

『サイコブレイク』より

三上:『サイコブレイク』は、簡単に言うと「頭が良すぎる人は怖いなあ」みたいな話ですけど(笑)。蓮実も頭の良い人物ですよね。これはあくまで僕の偏見ですが、頭が良過ぎる人って、悪気がなくてもやっぱりちょっと信頼し切れないというところがある。ゲーム制作の現場においても、切れる人がいい監督になるかというとそうでもなくて、逆にちょっと抜けているぐらいのほうが何かと信頼を得て、周りの力に支えられながらいいゲームを作ったりします。頭が良いというのは普通に考えると大きな美点のはずなのに、社会全体を眺めてみると、一概には言えないぞ、と。

貴志:(笑)。

三上:さっき、恐怖にはいろいろな形があるという話が出ましたが、何を考えているかわからない人間の怖さは、リアリティのある怖さです。サイコパスはそれでなくても何を考えているのかわからないのに、その上頭が良いとなったら何をしでかすかわからない。知能が低かったら、人を害する手段も直接的な暴力などに限られてくるから防ぎようもある気がするけれども、頭が良過ぎて、常識の範疇に収まらない思考の持ち主が何をしでかすか、常人には想像できないだけに、その辺りが一番怖いかなと。

貴志:それを視覚的に表現できるのが、ゲームの強みですね。

三上:ええ。でも、人間の内面にある黒い意思が、いつ何時自分に対してどう危害や損失を与えてくるかわからないという現代ならではのホラーな状況を語るのは、小説のほうが一枚上手かなと僕は思います。だから、『サイコブレイク』では、ゲームでしか味わえない極限状態に置かれる恐怖を存分に疑似体験して楽しんでほしいですね。

【プロフィール】
きし・ゆうすけ●1959年、大阪府生まれ。小説家。96年に『十三番目の人格 ISOLA』でデビュー、97年に『黒い家』で第4回日本ホラー小説大賞、2008年『新世界より』で第29回日本SF大賞、10年『悪の教典』で第1回山田風太郎賞など受賞多数。近刊に『雀蜂』『極悪鳥になる夢を見る 貴志祐介エッセイ集』。

みかみ・しんじ●1965年、山口県生まれ。ゲームデザイナー。大学卒業後、ゲーム会社のカプコンに入社。96年にディレクターとして開発した『バイオハザード』が大ヒットし、シリーズ化。以降、『鬼武者』『デビルメイクライ』『逆転裁判』など数々のヒット作に関わる。

『サイコブレイク』
10月23日発売

ベセスダ・ソフトワークス
PS4/Xbox One版:各7300円(税別)
PS3/Xbox 360版:各5800円(税別) 

“病院で殺人事件発生”の報を受け、現場に急行したセバスチャン刑事は、病院内の防犯モニターで信じられない景色を見た。拳銃を持った警官たちが、いとも簡単に殺されていくのだ。そして、自らも何者かに襲われ昏倒する。目覚めた彼を待っていたのは地獄以上の、血みどろで理不尽な世界だった……。全世界が注目するサバイバルホラーゲーム。

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