薄味の若ゲイが急増? 女子校育ち=お局ゲイ? 中村うさぎの「ゲイ論」が新しい!

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更新日:2014/10/28

 カミングアウトは突然だった。4年間のアメリカ留学から帰国した友人のため仲間数人で再会した時のことだった。男性陣の動揺を隠せぬ顔は今でも覚えている。彼は、週末2丁目の顔になる。ある日「ゴールドの服が買えるお店知ってる?」と電話が鳴ったこともあった。現在は男性と同棲をしている本物だ。女性陣はゲイ歓迎(ゲイの人たちにとってはメリットがないので迷惑)なのに対し、襲われるかもしれない恐怖がある男性陣にとって、受け入れることは困難な話なのかもしれない。

 いまや芸能界では、マツコ・デラックスをテレビで見ない日はないというくらい、「オカマちゃん」枠のタレントたちが大活躍。海外では、アンジェリーナ・ジョリーがバイセクシャルであることを公表していたり、映画『SATC』の監督も衣装を手がけたスタイリストも同性愛者だというのは有名な話。国内ではグラビアアイドルやタレントがカミングアウトしたり、昨年にはディズニーシーでレズビアンによる初の結婚式が挙げられ話題となった。一昔前と比べれば市民権を得ている彼・彼女ら。ありのままに生きるその姿は羨ましくもうつる。

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 今回紹介する『新宿二丁目の女王』(キニナルブックス)は、買い物依存症、ホスト狂い、美容整形など欲望の体現者として知られる中村うさぎ氏による新しい「ゲイ」考察本。2012年~14年の間に掲載されたゲイ雑誌『Badi』での連載をまとめたものだ。ゲイの夫を持ち、ゲイを知り尽くした著者だからこそ言える、彼らに対する鋭い考察は読んでいて痛快そのもの。性同一障害の人が言う「心は女なんです」という「女自意識」と世間一般の女たちの「女自意識」にはかなり乖離があって、「女って、そんなに簡単になれる生き物じゃないわよ」と一喝。生物学的なラインをひいて意見できるのは彼女だからなのだろう。

 女性にとって本書はまた、ゲイを反面教師に、自身の女としてのたしなみを振り返り、足りないものを補って、“生きやすさ”を提案してくれる。もちろんうさぎ的えげつなさは健在だ。

 それでは、ここから本書の内容を少しだけ紹介したいと思う。

■薄味の若ゲイが急増中!?
 著者はいう、会話において「自虐」と「毒吐き」のバランスは大事だと。女は自虐に偏りすぎると軽蔑されるし、毒舌に偏りすぎると怖がられる。自分を落として他人も落とす、その匙加減を教えてくれたのがゲイの友人だったと。だが悲しいことにここ最近、その貴重なゲイの話芸が失われつつあるという。彼らの自虐と毒舌を芸術の域に高めた背景には、ゲイ差別による苦しい怒りや苦しみがあったからこそ。社会がゲイに対する理解を深めたことと引き換えに毒牙を抜かれてしまった薄味の若ゲイ増加は大問題!
 かつて誰にも負けないゲイ独自の素晴らしいコミュニケーション術を編み出した先人たちの武器を受け継ぎ、自分を笑い世界を笑うことで、息苦しい世の中を突破すべきなのだ。

■人間は同類だけで暮らすとブスになる
 思春期の大切な時期を女だらけの環境で過ごすと“ジェンダーアイデンティティ”は極めて歪なものになるそうだ。「女であること」が男の視点から見てどうかより、同性の中でどう表現するかに走った結果、ファッションによる自己表現が「女アイデンティティ」の核になる者と自分の趣味の世界に走る「オタク」が生まれる。
 かく言う著者も女子校育ち。あわせ持ってしまった著者は、ゴスロリという典型的なブスっ娘に。ゲイの世界でもその傾向は見られ、早くから新宿2丁目でデビューし、大勢のゲイ仲間に揉まれて育ったタイプは、外部(ノンケ社会)からどう見られているかに鈍感。まさに女子校出身の女たちと同じなのだ。一方で、地方出身のウブなゲイはあっという間に2丁目に染まり、毒々しいオネエになっていくそう。
 同じ世界でのみ適用する価値観で競い合う、あるいはその価値観に背を向けて自分の趣味に突っ走るって恐ろしいことなのかも。

 この他にも、ゲイに溢れる“母性本能”やゲイのコスプレ人生、2丁目のデブが総じて態度がデカい話など、毒あり、笑いあり、ホロリと切ないエピソードありの本書。ぜひ存分に味わって「ゲイ」社会を通して見えてくる人間関係から、清く生きる術を磨いてほしい。ときに俯瞰から自分を見つめることの重要さにも改めて気づかされるはずだ。