モノに溢れた親の家、どう片付ける?(前編)――生前整理の心構えは“物の整理の前に、まずは心の整理”

生活

更新日:2014/11/1

 親の家をどう片づけるか――少子高齢化社会が進む中、親の家の片付けに頭を悩ませている人は増え続けている。たとえば、実家に帰省するたびに親がため込んだモノを目にしてため息をつく。自分たちとの同居を決めたはずなのに、「どれも必要。オレのモノに触るな」と親は言い張り、一向に片付かない。広い一軒家から介護施設の一室に入るのに、持っていくものをどれひとつ選べないという。ただ時間ばかりが過ぎていき、手間と金銭ばかりがかかる “親の家”問題に、次第に子どもはイライラを募らせる。一方で親側も、自分のリズムや感情を無視し、自分のテリトリーに無神経に入ってくる子どもを次第に厄介に思うようになり、心理的対立がエスカレートする――。

 そんな状況に対し、『親の家をどう片づける 本当に残すべきものと後悔しない整理法』(実業之日本社)の著者である生前整理アドバイザー・上東丙唆祥さんは、「高齢者の家の片付けには“人生の整理”という側面がともないます」と代弁。

advertisement

「父親、母親のことを私は何も知らない」と、亡くなったあとに悔やまないために、生前整理のコツについて聞いた。

後編>>親が亡くなったあとの遺品整理は、ワイワイと複数人で!

エゴをなくして、より小さな幸せに気づけるようになる生前整理

 生前整理アドバイザーになって、今年で15年ほど経ちます。僕の仕事を一言で表現するなら、生きているひとのエゴをなくすことです。味方によっては、モノへの執着は、エゴの象徴とも言えます。「もっと、もっと」という気持ちや、一度所有したモノやカネをいつか失うかもしれないという不安や恐怖心を持ち続けている以上、ストレスから解放されることはありません。けれど、自分のエゴに気づき、モノへの執着をなくすことさえできれば、より小さな幸せを感じられるようになります。「物」と「心」の両面から生前整理を行い、いい思い出といい記憶をひとつでも多く残せるようにお手伝いするのが僕らの仕事です。

遺品整理の第一歩は、心の整理

 生前整理の際に「いらないものはありますか」とお年寄りに聞くと、「全部いる」とおっしゃるんですね。「全部いるんじゃ、(片付けにきた)僕がいらないですね」なんて、冗談を言うこともあるのですが、ここで大事なのは相手の話をきちんと聞くことです。というのも、お年寄りは大概、「使える/使えない」を軸に、「捨てる/捨てない」「いる/いらない」を判断してしまっているのです。そうなると、ほぼすべて使えるものばかりなので、「すべている」という判断になり、何も捨てられなくなるのです。

 けれど、それを「思い出か/思い出じゃないか」という判断基準に切り替えたらどうでしょう。よい思い出のあるものや思い出深いものは残して、そうではないものは捨てる。または、今はすべて思い出深いから取っておきたいけど、自分の死後に遺された人たちが困らないよう、エンディングノートをつけておこうと、少しずつ前進できるようになります。つまり、生前整理の第一歩は、物よりも先に、心の整理を行うことなのです。

親の家は“他国の陣地”と心得て、配慮することを忘れない

 若い人と、お年寄りの「捨てる」という行為は、根本的に大きく違います。

 若い人は「こうなったらいい、ああなったらいい」と理想を描きながら、山を登っている途中なので、必要なくなったものをどんどん捨てられるし、そうあるべきです。捨てたところで、ライフイベントに応じて違うモノを増やすことも可能です。

 一方、お年寄りは、山を下っているので、思い出を語るものがなくなってしまうと、自分の人生の栄光や誇り自体がなくなってしまうのです。登っている人たちは「早くあの景色を見たい」と未来を夢見ることができますが、下っている人たちは「あの景色よかったね」と過去を振り返ります。だからこそ、思い出を聞くという行為が、よりいっそう意味をなします。

 親の家を整理する際に、親子間で対立してしまうことはよくあることです。その場合、子どもが親の陣地にズカズカと土足で入り「なぜ言うことを聞かない」と無理強いしてしまっているケースが少なくありません。年老いた親というのは、行動も思考も子どもと同じようにはできないということが分かっていないのです。

 その緊張関係を少しでも緩和するためには、すでに家を出ている子どもが、年老いた親の家を片付ける際は、かつて自分たちが住んでいた家だったとしても、今は他者の持ち物であるという意識を持つことが大事です。一度家を出た子どもが親の家にあがる行為は、たとえるなら他国に入国するようなもの。多くの人がそれを理解せず、昔の感覚のままで自分たちの国のような気持ちで立ち居振る舞うから、親と対立するのです。僕らのような第三者が介入したほうがスムーズにいくケースが多いのも、もともと「他人の領土」という配慮があるから。配慮なしに家へあがれば、親からすると、わが子といえども不法侵入ですから、当然のごとく戦闘態勢に入ります。

 結局のところ、国も家も同じで、「何かをしてやろう」と思うのは、人間のエゴです。基本的に僕は本人とお話しして、片付けたくないというなら、片付けなくていいと伝えます。ただ、ご本人に何かあった場合、周りの人たちが大変になるので、心を整理するという意味でも、また将来に目を向けてもらうためにも、エンディングノートを書いていただきます。

>>後編は、未来の目標をつくるエンディングノートの書き方、両親が亡くなったあとの遺品整理の仕方、若者の突然死の理由などについて語っていただきます。

取材・文=山葵夕子