モノに溢れた親の家、どう片付ける?(後編)――親が亡くなったあとの遺品整理は、ワイワイと複数人で!

生活

更新日:2014/11/1

 数年前のブームが落ちつき、定番化した感のある「エンディングノート」。親がなくなったあとに、兄弟姉妹でもめごとが起こらないよう、財産分与や遺産相続について書く、いわゆる「遺書」を想像しがちだが、『親の家をどう片づける 本当に残すべきものと後悔しない整理法』(実業之日本社)の著者である生前整理アドバイザー・上東丙唆祥さんは、エンディングノートは、年齢に関係なく、未来の目標を明確にするために書くものだという。また、若いうちからエンディングノートを書くことは、現代社会で生きている私たちの周囲への心配りだとも。前編の生前整理に関するエピソードに続き、エンディングノートの書き方や親の死後の遺品整理、若者の突然死などについて聞いた。

前編>>生前整理の心構えは“物の整理の前に、まずは心の整理”

advertisement

未来の目標をつくるエンディングノートの書き方

 僕の推奨するエンディングノートの書き方は、本人の将来について書いてもらうやり方です。ポイントは、過去ではなく、未来に向けて書いてもらうこと。その方が80歳であろうと、90歳であろうと、自分がどうなりたいか、どうしたいかをまずは想像してもらいます。そこでたとえば世界一周旅行がしたい、という夢が出てきたら、次に世界一周旅行に必要なものを思い浮かべていただきます。靴、カメラ、バック、パスポート、家族との写真、人によっては英会話や、社交パーティに出るためのドレスと答える方もいるでしょう。すると、大量に買い貯めているトイレットペーパーは不要、と気づくことができるかもしれません。特にオイルショックを経験した世代は、モノのない時代を過ごしているので、モノをたくさん買い貯めては、なかなか捨てられないという傾向が強い。けれど、未来へ目を向けることで、そういった過去の執着から離れることが可能となります。

両親が亡くなったあとの遺品整理は、できる限り複数人でやる

 ご両親が亡くなったあとの遺品整理であれば、複数人でワイワイガヤガヤ片付けることをおすすめします。父親や母親が亡くなった直後は、葬式などでバタバタしますが、それが過ぎると空虚感を覚え、強い悲しみや怒りが押し寄せてきます。すると、片付けられるようになるまで時間がかかってしまうからです。

 泣いていいし、悲しんでいい。時に憎んだり、怒ったりしてもいいんです。人間なのですから、それは仕方のないこと。感情は、抑えようとすればするほどストレスになるので、それを解き放つ時間は必要です。片付けている途中で苦しくなったり、悲しくなった時に、吐き出せる人が近くにいてくれるのは、心強いことです。

 そんな時、聞く側は否定せず、とにかく黙って最後まで話を聞きます。正論を言いたくなる瞬間もあるかもしれません。けれど、正論は時に人を追い詰めてしまいます。

 気持ちが沈んで、殻に閉じこもっている人には、とにかく相手を肯定する言葉をかけて、悩みを吐露できる道筋をつくってあげることです。人間は誰かに存在価値を認められることによって、悩みを吐き出せる場所を見出すことができるのです。

将来に対する不安や恐怖心が若者の突然死を引き起こす

 意外に思うかもしれませんが、僕の仕事の3割4割は若者が突然死した時の片付けです。若者の突然死の一番の要因はストレス。将来に対する不安や恐怖心など、日常にあるマイナスの部分を常に意識していた人たちの突然死が多いのです。

 そういう突然死された方の家に入ると、大概モノ屋敷になっています。「もっと満たされなければ、もっと所有しなければ」という強迫観念が強いからです。

 その対象は、お金、ゲーム、CDとさまざまですが、不安や恐怖心が強い人ほどモノへの執着は強く、なかなか手放すことができません。モノの量は、その人の持っている不安や恐怖の量と比例していて、要するにエゴなんです。現代は消費のサイクルがすでに構築されてしまっており、企業にとっても消費させていくことが仕事ですから、なかなかそこから抜けきれずに苦しんでいる人が多いですね。そのサイクルにはまっていると気づきながら、テレビコマーシャルを観るか、それとも気づかないままでいるか。その違いは大きい。

 部屋の中でむごい状態で発見されるのも、実は若者の割合のほうが多いのです。お年寄りの場合、ゴミだしや新聞の溜め具合など、意外と周囲が見てくれていて、万が一のことがあっても2、3日で発見されますが、若者の場合、下手すると1カ月を過ぎても誰にも気づかれないケースが少なくありません。

 自分の若さや健康に過信せず、万が一のことを考え、若いからこそエンディングノートを書くことをおすすめします。自分が死んだあとのブログやSNSの閉鎖は誰にやってもらうか、臓器提供や延命治療をどうするかなどを考えることは、周囲で支えてくれている人の存在を再認識したり、自分の生き方を考えるよいきっかけにもなるのです。

悪徳業者だった自分を改心させてくれた一片の布きれ

 最後になりますが、僕はもともと、高い金額をふっかけては、とにかく作業を早く終わらせようとする悪徳業者でした。

 15年ほど前に、いわゆる便利屋と呼ばれる不用品回収の会社を友人とともに立ち上げたものの、起業当初は僕も彼もとても貧乏で、金を得ることが成功の象徴と信じていました。ところが会社を立ち上げて間もなく、友人に余命半年の肺がんが見つかりました。

 友人は病気になってからも仕事を続け、痛み止めを打ちながら作業をしては、ゼーゼーハーハーと苦しそうでした。数百万円の最先端治療はあるけれど、僕らは貧乏だから、そんな治療を受けることはできません。友人が亡くなった時、「家族や友人を救えるのは金だけ。金がないと、助けられるものも助けられない」と実感し、金への執着がより強くなりました。悪い方向へと向かってしまったんです。

 そんな僕が変わるきっかけとなったのが、今から7年前です。年配の女性から電話があり、「姉の家に引っ越すから片付けを手伝ってほしい」と依頼があり、高い金額をふっかけて一緒に家の片付けをすることにしたのですが、その次の年に、お姉さんから連絡があり、その方が亡くなられたことを告げられました。

 再び遺品整理の依頼を受けて、お姉さんのお宅に伺ったのですが、その時に「妹がずっとダンボールの中を引っ掻き回して、探していた青い布きれがあるのですが、ご存知ないでしょうか」と聞かれ、僕はハッとしたんです。

 一年前、もともと洋裁店を営んでいたという妹さんが所有していた大量の布きれを目にして、僕は「このままでは埒があかない」と、適当な量を彼女に渡したあとに残りの布のすべて無断で捨ててしまったのです。

 そして僕は、その妹さんがずっと探していたという青い布きれを自分が捨てたことをはっきりと覚えていました。僕にとってはただの布きれが、その方にとってはよほど大切なものだったのでしょう。

 その頃、商売もうまくいっておらず、廃業しようかどうしようかと悩んでいる時期でもあったので、ほとほと自分のしてしまったことが嫌になりました。「どうせやるなら、ちゃんと、良心的にやりたい」と思いました。

 あれから7年。今ではお客さまが心残りがないように、とにかくじっくりと話を聞き、よい思い出やよい記憶のみを持って、その時を迎えられるよう努めています。

前編を読む>>生前整理の心構えは“物の整理の前に、まずは心の整理”

取材・文=山葵夕子