ネカフェ難民が強盗を計画!? 大どんでん返しが待ち受ける社会派サスペンス登場

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

  「仲間求む。今の生活にもがき苦しんでいる人たち。一発逆転を狙って一緒に大きなことをやりませんか」。

派遣切りにより職を失ったネットカフェ難民・相沢仁は、再起をかけて、携帯電話の闇サイトを通じて仲間を募り、軽井沢の邸宅強盗を計画。しかし決行中、何者かに頭を殴られて気を失ってしまう。やがて目覚めた仁は、放火された屋敷の中から三人の死体が発見されたことを知る――。

 2005年に『天使のナイフ』でデビューした薬丸岳さんはこれまで少年法や性犯罪などをテーマに社会派の作品を次々と生み出してきた。しかし、本作『ハードラック』(徳間書店)は、よりエンターテイメント色の強い、謎が謎を呼ぶサスペンスミステリーに仕上がっている。

 「僕の作品を読んできた方は意外に思われるかもしれません。確かに、今までの僕の作品は社会派ミステリーとよく言われてきました。しかし、『ハードラック』では違うことをやりたかった。作中にも出てきますがサスペンス映画の『ユージュアル・サスペクツ』や『レザボア・ドッグス』のようなものを小説でやってみたかったんです。読者の皆さんに一気に面白く読んでいただきたいという思いで書きました」(薬丸さん)。

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 また本作では、ケータイ闇サイトを通じて集まった他人同士が犯行を計画するなど、「携帯電話」というツールがサスペンスを盛り上げるツールとして巧妙に利用されている。

 「実際に闇の掲示板で集まった男らがOLを殺害するという事件が起こっていますし、また、時期は違いますが派遣切りやネットカフェ難民が頻繁にニュースで流れていました。そういうことが頭の片隅に引っかかっていて、それらを絡めて、今の社会に何かを訴えかけられるようなサスペンスができないかと企画を練り始めたんです。そこで生まれたのがケータイの闇の掲示板を利用し利用されるというだまし合いのアイディア。作品づくりでは、時代性をできるだけ意識します。それがエンターテインメント小説の役割の一つですから」

 ケータイというツールを効果的に用いることで、仁や他の登場人物が動きやすくなり、また、そこには真犯人のヒントとともに読者をミスリードする巧妙な仕掛けが仕込まれている。それが複雑に絡み合い、終盤で二転三転するストーリーとラストの衝撃的な大どんでん返しとなる。社会派の視点とエンターテインメント性が生み出す極上のサスペンスをぜひ味わってほしい。

(ダ・ヴィンチ11月号 今月のブックマークより)