校正・校閲の鷗来堂が書店「かもめブックス」をオープン! 「人と人が出会える書店にしたい」

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更新日:2014/11/22

 東京・神楽坂の校正・校閲を専門に行う鷗来堂が11月29日、同じく神楽坂に書店「かもめブックス」をオープンする。アマゾンなどのネット書店の台頭や、読書離れが進んだことでリアル書店数が減少し、出版業界全体も斜陽と言われる厳しい状況の中、書店経営にあえて乗り出す理由は?

 同社の取締役社長で、かもめブックスの店主となる栁下恭平氏に聞いた。

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「かもめブックスをオープンする場所は、神楽坂で長く営業してきた文鳥堂書店さんの跡地です。文鳥堂さんは僕の通勤途中にある店だったのですが、ある日ふと見ると開店しているはずの時間なのにシャッターが閉まっていて、『ご愛顧ありがとうございました』という閉店の貼り紙がありました。本当に突然のことで、単純にすごくショックだったんですよ。そして街の本屋さんがどんどんなくなっていくことで、『15年後に僕たちは同じように本を作る仕事ができるんだろうか』って素朴に思ってしまったんです。常にオンラインでつながっていて大量の情報にさらされている日常の中で、本を読むという習慣を取り戻していかないと、出版業界そのものがジリ貧になってしまうでしょう。そこで“日常に本を読む習慣を取り戻す”ことをコンセプトにして、アマゾンや大型書店とも違う、街の小さな本屋ならではのことをしたいと思って、書店をやることにしたんです」

 かもめブックスではカフェとギャラリーも併設。本屋の空きスペースを使った“おまけ”のサービスではなく、それぞれが独立したカフェ、ギャラリーとしても楽しめるものを提供していくという。

「カフェは京都の自家焙煎豆専門店ウィークエンダーズコーヒーさんのコーヒーを提供します。焙煎に特化して自分の求めるコーヒーをストイックに追求されている姿に惚れ込んで、ぜひにとご協力をお願いしました。本当に美味しいコーヒーを飲みながらゆっくり本が読める空間を作っていきます。ギャラリーは大阪のデザイン事務所でondoというギャラリーを運営されている、ジーグラフィックスさんと一緒に立ち上げます。僕たちは書店をリアルに人と人とをつなげる場にしたいと考えているのですが、ジーグラフィックスさんも“デザインで人をつなげる”ということをコンセプトにしていらして、とても共感するところが多かったんです。自分が素敵だと思う絵や写真を紹介して、それについて皆が語り合えるような場になればいいなと考えています。同じように書店も、自分がいいと思う本を人に届ける場所だと思うんです。そこにこだわった店作りはしていきたいですね」

 その言葉の通り、書店の商品となる書籍は実際に自分たちで読んで面白かったものを積極的にセレクトしていくという。

「いわゆる街の本屋さんと比べれば、本の数は少ないと感じられるぐらいの取り扱いかもしれません。だけど、例えば仕事帰りにふらっと15分くらい寄って本と出会える場としては、数が多ければいいというものでもありません。その本が置いてある理由を、その場にいる自分たちが、面白さと共にちゃんと紹介できるということが最優先です。鷗来堂は社員50人の会社ですが、それは『バックヤードに本が好きな人が50人いる』のと同じことなんです。それを選書に活かしていきたいですね。棚も単純にジャンルで分けるのではなく、毎月大小いくつかのテーマに沿った棚展開をしたり、いずれは編集者の方に開放して作り手側の情熱をそのまま棚に活かせるような企画も考えたいですね」

 街の小さな本屋が次々と消えていく中、ひとつのジャンルに特化したり、定期的にイベントを開催したりするなど、個性的な書店は増えてきている。かもめブックスもきっと訪れるだけでワクワクするような、多くの本好きが集まる本屋のひとつになることだろう。

「実際にやってみて書店は参入障壁が高いと感じましたが、それでも、もっと本屋がやりたいという人が増えてほしいと思うんです。例えばマンションの一室で個人でやるような店でもいいし。面白い新刊書店がどんどん街に増えていくことを願ってます」

取材・文=橋富政彦/写真=中 惠美子