コロコロ編集長に聞く“マンガを読めない子どもが増えている”の真偽 ―子どもを舐めてはいけない

ビジネス

2014/11/23

 10月初め、「最近の子どもはマンガを読めないのか?」という議論がネット上を賑やかした。きっかけは漫画家・たかのあつのり氏による下記のツイートだ。

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以前とある雑誌で漫画を描いた時、「今の子供は漫画を読めないので、ひとつのコマに2つ以上の行動を入れないで下さい」と言われた事がある。(例えば)ハッとなって、ふりむいて「なんだって!?」と叫ぶ。
↑1コマで済むけど、3つの行動をしているので3コマ必要になる。

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 たかの氏が指摘を受けたという“以前”がいつ頃のことかはわからないが、「今の子どもはマンガを読めない」説は出版不況の話題に絡んでときどき浮上してきた。(最近では2012年1月頃のネット上での議論がある。参考:「漫画を『読めない』子どもが増えてる。間を想像して話を読み進めることができない」)

 確かに、マンガには特有の表現、読むために知っておくべき“ルール”がある。たとえば吹き出しの形で台詞とモノローグを区別するし、背景に稲妻が走っても本当に天候が悪いわけではない。コマを右から左、上から下に読むという基本の作法さえ、ある程度訓練が必要だ。その訓練をしていない、もしくは訓練しても習得できない子どもが増えているというなら、ありそうな話ではある。

 でも、実際のところはどうなのか? この手の話題は“読めない”ことを裏付ける根拠が乏しいし、筆者は子どもと接点がないのでピンと来ない。ならばプロに聞いてみよう。小学生以下が読者対象のマンガ誌『コロコロコミック』(小学館)村上孝雄編集長に話を聞いた。昔と比べて、今の子どもは本当にマンガを読めなくなっていると思いますか?

マンガが牽引した『妖怪ウォッチ』人気と“ガラパゴス化”したコロコロの強み

「読めない子が増えているとは思いません。『コロコロ』1号あたりの発行部数は今年の年末号で130万部に達する見込みで、昨年の平均より約50万部の増加です。しかもより低学年の読者が増えている。小学生以下に関して言えば、“マンガ離れ”も感じませんね」(村上編集長)。

 この出版不況下、1号あたり50万部の伸びは相当すごい。全盛期の150万部(1997年)と比べても遜色ないと言っていい。ご存じの通り、背景には13年1月号から連載を開始した『妖怪ウォッチ』の功績があるが、コンテンツ自体の人気に引っ張られただけではないだろう。『妖怪ウォッチ』のゲームソフトが発売されたのは13年7月、アニメ版開始が今年1月。つまりゲームやアニメより、『コロコロ』のマンガ連載が先だったのだ。
「連載開始後にじわじわと人気を上げ、秋頃には全連載中で人気投票1位を獲得していました。マンガとしての作品の魅力を、子どもたちがきちんと見出していたのは明らかです。もちろんブーム以降、『妖怪ウォッチ』目当てに読み始めてくれた新規読者もいるとは思いますが、他の連載も頑張ってます。『デュエル・マスターズ』や『バディファイト』、『オレカバトル』『パズドラZ』など二番手以降にもしっかり読者が付いていることが、部数増を支えています」。

 なるほど、『コロコロ』読者の子どもたちは今現在、確かにマンガを読みこなしているようだ。でももしかすると、“読めない”読者にレベルを合わせて、作家や編集者が分かりやすい表現を模索しているからでは?

「読者のリテラシーを低く見積もって、“より分かりやすく”という方向で変えたことはないですね。マンガ表現の流行による変遷はもちろんあるけど、1977年の創刊当時から基本的な表現方法は変わりません。編集方針としてお願いするのは『子どもはマンガを読むのが遅いので、一コマずつ背景までしっかり描くこと』くらい。かつては編集長も要らないとさえ思っていて、『コロコロ』を読んでいた当時の俺が満足する本を作れているのか? という気持ちで挑んでいました。子どもを舐めてはいけませんよ」。

 しかし、すべてのマンガ誌が読者を確保できているわけではない。『コロコロ』だけがなぜ子どもたちを掴んでいられるのか。最大の理由は、ターゲットの明確さだという。
「他誌との違いは、読者を追いかけないことだと思うんです。中学生になった瞬間きっぱり卒業してもらう。既存読者の成長に合わせて雑誌を変えていくことはしません。だからいつの時代も、小学6年生以下の層を確実に掴んでいられる。いわば“ガラパゴス化”していることが強みです」。

小学生以下の層はスマホに侵食されていない“最後の聖域”

 村上編集長が子どもたちを「変わらない」と断言できるのは、実際に読者と触れ合っているためでもある。『コロコロ』では「次世代ワールドホビーフェア」のような、1会場5~6万人規模のイベントのほか、4000~5000人規模の読者イベントを年10回ほど開催。編集者自ら登壇してクイズ大会などを行っている。「定期的に同じ空気を吸って、読者を見誤らないようにしていますが、今も昔も小学生は変わらず“愛すべき、気持ちのいいバカ”ですよ(笑)」。

 イベント来場者や読者アンケートを見る限り、スマホを持っている読者は1割以下だそう。そしてニンテンドーDSなどのゲーム機は「メディアミックスで『コロコロ』マンガと共存しているから、敵ではありません。キャラクターの力は大きい。たとえばゲームやテレビをきっかけにあるキャラクターを好きになった子は、頑張ってマンガにも喰い付いてくる。そうしてマンガ読者が育っていくんです」。今の子どもはデジタルデバイスに囲まれているからマンガを見捨てたんじゃないかな、という筆者の想像は的外れだったようだ。

 ただしそれは、小学6年生までに限った話。中高生は事情が違う。「今は中学生からスマホ所持率が高まるので、『コロコロ』を卒業した読者が必ず上位誌(同じ小学館で言えば『週刊少年サンデー』などの少年マンガ誌)に流れるとは限りません。その層に関しては、これまでマンガに割いていた時間をスマホに奪われているというのが実情かもしれないです」。

 つまり小学生以下の層はマンガ誌にとって、まだスマホに侵食されていない“最後の聖域”と言える。そして重要なのは、子ども時代にマンガに触れた人はマンガの“作法”を学び、一度離れてもまたマンガを読むことができるということだ。もし今後『コロコロ』が売れなくなったとしたら、その時、日本のマンガ界は本当に終わりを迎えるのかもしれない。

取材・文=ハットリチサ