え、6年間も水飲んでない? 「不食」は本当に人を健康にするのか

暮らし

2014/11/26

   

 消費税が8パーセントに引き上げられてから8カ月が過ぎる。政府はほかの部分で帳尻を合わせているから10パーセントにしても全然平気! と目論んでいるようだが、貧民である我々は、スーパーやコンビニへ行くたびにジワジワと押し寄せてくる「消費税率引き上げ」の恐怖に布団をかぶって身悶えながら、「1食抜いたら食費浮くかな」と地味な節約に取り組むことくらいでしか太刀打ちできない。こんなに働いているのにお上から摂取されているようにしか感じられない日本の、何が『美しい国へ』だよ、と不満を口にしたところで、現状は変わらないのである。

 そこで、ふと思い立ったのが「不食」である。2011年に世界人口が70億人に達し、地球上の8割の国では食料が不足しているという今、家族連れが多いファミレスで、ジャージ姿の独女がひとり、仕事のストレスからヤケ食いに勤しんでいる場合ではないのだ。食への執着さえ断つことができれば、使える時間は倍増するし、食費も光熱費もまるまる浮く。「チーズバーガーが食べたい…」なんていう、しょうもない煩悩のせいで、仕事を中断してまで夜中1時にファストフードに駆け込むこともないのである。

 要するに食べないで済むのならいいのだ。でも、人一倍食べるのが好きな自分が、どうやって…?

 かつてテレビで水すら飲まずにいる人がインドにいると話題になったことがあったが、なんと、ここ日本でも不食を実践している人たちがいるという。『食べない人たち 「不食」が人を健康にする』(マキノ出版)は、6年間も水を飲んでいない弁護士と、18年間1日青汁1杯の鍼灸師、不食の人体実験に挑んだ思想家による不食の実態が描かれているドキュメンタリーだ。1日3食、少なくとも30品目は食べるように、と学んできた身にとっては、本当に理解できないことなのだが、ここに登場する人たちは、皆「不食」を実践するようになってから、今までで一番健康になり、不治の病が治ってピンピンし、食べないことが快感になったなどと朗らかに言っているのである。

 同書に登場する不食研究所代表の山田鷹夫氏によると、断食と不食は正反対の立場にあるという。その質的な違いは、実行している人の意識の違いだ。断食には「人は食べなければならない」「食べなければ生きられない」という考えが根本にあり、食べないことはたいへんなことで、それゆえに修行となりうる。一方、不食は「人は食べなくても生きられる」という考え方で行い、食べなくても生きられると考える人が食べないようにすることには、本質的に努力がいらないという。

 その証拠というべきか、同書に出てくる3人は、実に自然に「不食」になっている。彼らに多大な影響を与えているオーストラリア人のジャスムヒーン氏と、大阪・八尾で医院を開いていた故甲田光雄氏は、いずれも「無理せず、徐々に不食に」がモットーのようだ。最初は間食を抜き、次に3食食べていたのを2食、1食と減らしていき、すると、いつのまにか、むしろ食べてない時のほうが体調がよくなっていた、というのである。

 さらに、目に見えるものを何も口にしていないから何も食べていないわけではなく、プラーナ(大気中のエネルギー=「気」と呼ばれるもの)を食べている、と主張するのが弁護士で医学博士の秋山佳胤氏だ。もともと気功法から不食の世界に入っていった秋山氏は、プラーナをとって生きており、食物も水もまったくいらない体になっているのだそう。実際、同氏は山で遭難したことがあるのだが、その時、すでに不食を実践していたがために、むしろ森林の中で都会にいるときよりよいプラーナを食べて元気になったと主張する。

 狐につままれたような読後感は否めないが、その一方で、「飢えのおおもとは愛の欠乏感。食べ物への執着が薄れていくと、物事への執着も薄れていき、愛に気がつくようになる」「不食の実験をしているというと人は笑うか、今の日本は巨大な胃袋と化していて、そんな日本の現状のほうが私以上におかしいのではないか」など、鋭く真髄をつくメッセージが散りばめられているのも事実だ。

 西洋医学の医師や栄養士が読んだら、「とんでもない!」とさぞかし憤りを感じることだろう。少なからず、過激なダイエットに手を出してしまうようなティーンには安易に同書を手にすることはおすすめできない。しかしながら、世の中にはまだまだ科学では解明できないことがあるのだと、すこぶる驚かされた。

文=山葵夕子