無謀? 結婚ナシ、金ナシ、リミット目前での〈おひとりさま出産〉―アラフォーマンガ家の挑戦

社会

更新日:2014/11/28

   

 子どもがほしい。でも、作れない。女性にとってその理由はいくらでもある。まずは「パートナーがいない」。そして「経済的に不安がある」。そうこうしているうちに「できにくい年齢」になっている…。

 マンガ家の七尾ゆずさんも、そのひとりだった。独身、年収200万円以下、アラフォー。「いやいや、だからこそ子どもがほしいんだ!」と一念発起し、出産に向けて奮闘する一部始終を、コミック誌「officeYOU」で連載中。先ごろ、『おひとりさま出産』(七尾ゆず/集英社クリエイティブ)として単行本が発売された。みずから〈無謀な計画〉といいながら迷うことなく突き進んだ七尾さんに、ひとりで産むとはどういうことか、そこにはどんな喜び、または苦労があるのかをうかがった。

35歳、タイムリミットを意識し出す

―もともと「子どもがほしい」という思いは強かったのでしょうか?

七尾ゆずさん(以下、七)「当然いつかは産むものだと思っていました。でもマンガという夢を追いかけているうちに気づけばアラフォー…焦りましたねぇ。タイムリミットを意識しだしたのは、35歳を過ぎたあたりです。世間的にまだ〈卵子の老化〉が取りざたされる前でしたが、40歳までには産まなきゃと考えていたので、子どもができるまでの期間や妊娠期間を考えて逆算すると、もう時間がない! と。でも、タイムリミットがあってよかったとも思うんです。男性みたいにいつまでも子どもを作れるのだったら、思い切って踏み出すことなく、いまでも子どもがいない人生だったかもしれません」

―その踏み出すきっかけ、というのは何でしたか?

七「当時、不定期で描いていた雑誌から突然、切られちゃいまして…。マンガの道が閉ざされた、私には何もない! だったら、子どもだけでも手に入れたい!! といてもたってもいられなくなったんです。追い打ちをかけるように、3.11の東日本大震災に見舞われました。都内の自宅で被災したのですが、絶えまなく続く余震も、原発事故も怖くて怖くてしょうがなかった。放射能を防ぐため窓にガムテープで目貼りをして、節電のため真っ暗な部屋のなかで、ひとり布団をかぶって震えていました。そのとき、とてつもなく孤独を感じたんです」

金も認知もいらない、ひとりで産む!

―子どもがほしいという思いと、〈結婚〉という行事が七尾さんのなかで一度も結びついていないのがユニークだと感じました。

七「いえいえ、私のなかでも結婚と出産はセットでしたよ。子どもを産むには結婚しなければいけないと思い込んでいました。でも、私、結婚というものにマイナスイメージしか抱けなかったんです。男の人と暮らして幸せになるという絵がどうしても自分のなかで描けなかった。結婚に致命的に向いていないんですよね。お互いを生涯のパートナーとして認めることはいいんですが、一緒に生活するのがただ億劫としか感じられないんです。だから結婚はせずに子どもだけ産んじゃえ! となりました。これっていまの日本ではたしかに無謀だけど、私のなかでは特に異質なものではなかったんです」

―子どもの父親として妊活に協力してくれた彼氏さんは、いわゆるダメンズ…というと失礼ですが、輪をかけて貧乏で、どこで何をしているかわからない男性でした。

七「交際して4年ぐらいのころで、私も彼のことが好きでしたし、産むなら彼の子だな、と。タイムリミットを考えるとえり好みもしていられませんでしたし、“金も認知もいらない、ひとりで産むから協力しろー!”って迫ったんです(笑)」

―そうして妊活に入られるわけですが、当初、何がいちばん苦労すると予想されていましたか?

七「収入面ですね。妊娠したあとの生活がどうなるのか、まったく見通しが立っていなかったので。当時はマンガとバイトで生計を立てていましたが、活動範囲もすごく狭くなるだろうし、いままでみたいに稼げなくなるな、と。でも実際には働きとおせましたね! 幸いツワリは軽かったので、マンガのほか、飲食店とコールセンターで働きどおしで、3カ月間休みゼロっていう時期もありました。でも、赤ちゃんのことはさすがに心配で、病院で“私、寝ずにバリバリ働いているんですけど、お腹の子は大丈夫ですかね!?”って訊いたんです。何カ所かで訊いたんですけど、ドクターストップがかかることはなかった。丈夫にできていた自分と赤ちゃんの身体に感謝です」

―ひとりで産むということへのプレッシャーはなかったですか?

七「母をはじめ周りからはさんざん“ひとりで産むってそんなに簡単なことじゃないのよ”と脅されました。ひとり親家庭を対象とした相談窓口に電話をかけても、厳しい話しか出てこなくて、“あぁ、私にはそんな未来しかないんだ~“と悲観的になってぼろぼろ泣きました。でも、その方も悪気があってそう言っていたわけじゃないんですよね。現実がシビアであることはたしかだし、そう言いつつも支援の手をさしのべてくれますから」

妊娠を機に“私、貧乏です”と言いまくった

―出産に向けて、とにかく公的私的な支援を上手に利用されているという印象があります。

七「行政にいったら、とりあえず“不安です”って言いまくっていたんですよ。それまでも貧乏ではあったのですが、自分が情けなくなるので、それを認めるのがイヤでした。でも、妊娠を機に“私、貧乏です”って言えるようになりました。何が起こるかわからないので、“お金ないんです”“ひとりで産むんです”“不安です”と自分で言いふらしておいたんです。不安に感じたり自分が問題だと感じていたりすることを隠さずに、“助けて“と言いつづけたから、助けてもらえた。言いたいけど言えなくて、がまんして、ひとりで抱え込んでいたら…」

―ママと子どもにまつわる悲しい事件は、そうして母親が全部ひとりで背負いこみ、孤立した結果、起きるものが多いですね。

七「今年3月に起きた〈ベビーシッター事件〉などもそうですね。とても胸が痛いです。お母さんが出てきてまず何を言うかと思ったら、“世間にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした”と。自分が子どもを殺されているのに…。シングルマザーにかぎらず、子どもを育てているっていうことに対して厳しい風潮があるように感じています」

もう孤独じゃない。家の中に笑いがある

―いまはお子さんとふたりの生活ですが、出産後に自分がいちばん変わったと感じるのは、どういうところですか?

七「ひとりからふたりになったことで、人生に張りがもたらされましたね。もう孤独は感じなくなりました。そして、“社会に組み込まれた”と感じます。行政からの支援もそうですけど、貧乏なだけで健康なひとりの女性を助けてくれるものってほとんど何もないんですけど、子どもがいることで気にかけてもらえます。それに、子どもを抱いているだけで、お年寄りをはじめいろんな人から声をかけられるんですよ。笑顔でいる時間も増えました」

―出産以前はそうでもなかったんですか?

七「ひとりのときは、家でテレビを見て“ハハハ”と乾いた笑いが出るぐらいでした。でも、子どもがいると、起きた瞬間から笑いかけるようになりますから。意味もなく笑顔になっちゃうことも多いですね。もちろん育児にまつわるイライラは少なくないし、腹が立つこともしょっちゅうです。でも私、ひとりでいたときも同じぐらいイライラしていました。そのときは孤独にイラ立つだけで終わっていましたが、いまは家のなかに笑いがあります」

 そのことばどおり、七尾さんの笑顔は実に晴れやかで、かつては1日中、笑わない日があったというのが信じられないほど。

 当然、〈おひとりさま出産〉は誰もが気軽にできることではない。世間からの風当たりが決して弱くないのも事実である。しかし、子どもをほしいと願う女性たちが、結婚している・していないにかかわらず、〈無謀〉と感じることなく、安心して妊娠、出産、育児をできる社会は、誰にとってもマイナスにならないはずだ。そうした社会にシフトしていくのを願うと同時に、いつかは七尾ゆずさんの『おひとりさま育児』も読みたい! そのたくましい行動力を今後も見せていただきたいと願うばかりだ。

取材・文=三浦ゆえ