ひとりっ子はなぜ“わがまま”だと思われてしまうのか?

暮らし

公開日:2014/11/30

 「これだからひとりっ子は……」
 なんて、根拠のないセリフを言われたひとりっ子は多いのではないだろうか? そんな筆者もひとりっ子であり、きょうだい持ちの人々から地味にいじめられてきた。

 世間一般のひとりっ子のイメージは、わがまま、マイペース、空気読めない、など、ネガティブなものばかりである……でも、それって本当なのだろうか? その疑問に答えてくれるのが『ひとりっ子の頭ん中』(朝井麻由美/KADOKAWA 中経出版)だ。本書では、ひとりっ子の行動分析や、ひとりっ子ときょうだい持ちの比較を行い、ひとりっ子をさまざまな角度から分析している。

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 ひとりっ子はなぜ“わがまま”だと思われているのか? 著者の朝井麻由美さんにお話を伺ってみた。

ひとりっ子の頭ん中を書いたワケ

――ひとりっ子の頭ん中を書いたきっかけを聞かせて下さい。

朝井「編集さんと話していたとき、お互いひとりっ子ということが発覚しました。ひとりっ子あるあるを挙げていたら、たくさんあって、これは面白い! という話になったことがきっかけです。ひとりっ子は誰でも経験あると思うのですが、ひとりっ子というだけで迫害を受けることってないですか? ひとりっ子だからってやり玉に挙げられたり、“ほら、ひとりっ子だからそういうことする”って、言われたり。わがままレッテルを張られているけど、本当にわがままなのかな。確かに主張が強い部分もあるけれど、そこまで言うほどでもないという想いもあって、ひとりっ子の本音を世間に伝えようと書きました!」

ほんとうにわがまま? 世間が言う“ひとりっ子”のイメージ

――ひとりっ子のわがままイメージについて、朝井さんはどう思いますか?

朝井「ひとりっ子って、自己主張があるんです。みんなが遠慮して何も言わない場合でも、私はこれがいいって主張するんです。私はハンバーグを食べたいけど、みんなは何食べたい? という風に。その時、他の人がパスタを食べたいって言えば、じゃあ別々に食べよっか。という感覚であって、私はハンバーグを食べたいから、みんなもハンバーグを食べようというわけではないんです。主張しても、話を押し付けている人は、ほとんどいないと思います。 “わがまま”より、“マイペース”という言葉のほうが近いと思いますね」

――朝井さんが実際に経験した、ひとりっ子の迫害エピソードってありますか?

朝井「これ最新のエピソードですが、本を出しましたと言ったら“朝井さんは確かにひとりっ子の化身みたいな人だよね(笑)”と言われました。もう、これですよこれ! この言葉がまさに!“ひとりっ子だから~~”って言われることへのモヤモヤをこの本に書いたのに、書いたそばから(笑)」

ひとりっ子から見た、きょうだい持ちの衝撃

――きょうだい持ちとひとりっ子を比較した時の行動の違いってありますか?

朝井「面白かったのは『ひとりっ子の頭ん中』第6章で取り上げている座談会です。
座談会の中で、ひとりっ子って何人かで会話している時、自分の関係ない話題になると薄くなるよね? って、言われました。確かに、会話に興味を失った時に、ケータイを見はじめたり、ボーッと魂が抜けているようになるなって。でも、私は、自分が参加してなくても他の人が話をまわしてくれるので、良くないですか? って、反論したんですよ。すると、更に反論されて、そうじゃなくて会話はみんなで作り上げるものなんだよ。と、言われました。衝撃的でしたね。会話って、みんなで作る創作物だったんだ。って。自分のソロパートだけ弾けても、ダメなんだな。合奏だったんだなって。ひとりっ子って、自分のパートはここですよって言われたところを一生懸命弾いてる感じですよね。基本的に会話でハーモニーを奏でるという発想がないんです。」

――私もひとりっ子として、この座談会を楽しんで読みました。面白かったのは、親は「きょうだいとシェアしている共有物」っていう話ですね。親が共有物ということが、私にとって考えたこともない発想でした。

朝井「これも衝撃的でしたね。言われてみれば納得という感じです。ひとりっ子は、誰とも親をシェアする必要がないですもんね。それに関わる話だと思うんですけど、この本にある座談会の中できょうだい持ちは親に対して自分をアピールしないといけないという話がでてきます。確かに自分は親にアピールしたことないです。ひとりっ子はアピールしなくても、親が勝手に見てくるじゃないですか? 逆に、親がめっちゃ聞いてきてめんどくさいみたいな(笑)きょうだいはお母さんの注目を集めるために自分が面白い話をしなきゃいけないなんて、ほんとうに衝撃でした。」

――ひとりっ子としては考えたことのないことばかりだったので、『ひとりっ子の頭ん中』を読んだ時はかなり驚きが多かったです。

朝井「きょうだい持ちは、いかに親から自分を見てもらえるか。きょうだいの中でいかに円満に会話を作り上げていくか。というようなことを意識する場面が子どものころからあるので、コミュニケーションを学べるんだと思います。ひとりっ子は不器用ですよね。本の中でも、大勢とのコミュニケーションが苦手、人との距離感が苦手ということを取り上げました。」

ひとりっ子がわがままだと思われないために

――わがままと思われがちなひとりっ子は、どういう心構えで生きればいいですか? 世間からの強い風当たりに対しての対処法ってありますか?

朝井「ひとりっ子は自分のペースで生きているんです。他の人のペースを乱すわけではないので、人畜無害だと思うんです。ジャイアンみたいに、お前のモノは俺のモノ、俺のものも俺のモノだと思っているわけじゃありません。なので、気を遣ってもらう必要はないです。普段、気を遣ってばっかりで大変な人、ストレスをためている人も、ひとりっ子に対しては別にそんなこと思わなくていいので、お互い自由な付き合い方ができると思います。」

末っ子とひとりっ子は似てる?

――ひとりっ子と末っ子って、どちらもわがままイメージがあって似てる気がするんですけど。どうでしょうか?

朝井「長男、長女の人で、末っ子がわがままだって言っている人いましたね。ひとりっ子と末っ子は近いかもしれません。ただ、末っ子はひとりっ子より器用だと思います。多分、同じことを思っていたとしても、末っ子の方が人に伝えるのがうまいと思います。逆にひとりっ子は、人に上手くモノを伝えるのが苦手ですね。」

 「例えば、183ページのマンガによくあらわれているんですけど、みんなで遊んでいても“疲れたから帰ろうよ”っていうのを、末っ子はうまく伝えて、人を巻きこんで一緒に帰れると思うんですよ。だけど、ひとりっ子はうまく伝えられず、“疲れたから帰ろうよ”って言っても自分が帰りたいだけだしな。だったら、みんなに言わないで、自分だけひとりで帰ってしまおう。みたいなところが、あるんだと思います。自己主張はできるけど、人を巻き込む力がないのかもしれません。結果的に、コミュニケーション下手に見られてしまうんです。」

――言われてみれば納得ですね。ひとりっ子として思い当たる部分があります。

朝井「末っ子との違いは、甘え下手な部分にもありますね。うまく頼ることが、できない気がします。末っ子の女友達を見ていると、彼氏に上手く甘えているな。私にはできないな。と、思うことはありますね」

ひとりっ子の頭ん中発売後の周りの変化は?

――不器用なマイペースさが、ひとりっ子をわがままに見せているんですね。最後に『ひとりっ子の頭ん中』出版後の反響を教えて下さい。

朝井「ひとりっ子の方からは、すごくあてはまるという声はよく聞きます。やはり、似たような本がないというのが大きいみたいです。これまで、ひとりっ子についてまとめたライトな本ってなかったみたいですね。そういった意味でも、ウケはいいです。あとは、ひとりっ子だけでなく、ひとりっ子のお父さんお母さんも興味を持っているみたいです。」

――ひとりっ子だけでなくいろいろな方に読んでもらいたい本ですよね。ひとりっ子が生きやすくなるためにも、ひとりっ子の生態を知ってもらいたい。

朝井「ひとりっ子として生きて、いろいろ思うところがある人に読んでもらいたいと思って書きました。ひとりっ子の人、ひとりっ子が周りにいる家族とか、友達とか、恋人に読んでほしいと思いますね」

――朝井さんありがとうございました!

 なぜだか、辛い思いをしてしまう、ひとりっ子。マイペースではあるけれど、決して人には押し付けない。人の嫌がることはしない。ちょっと不器用なだけ。そんな、ひとりっ子の生態を理解してもらえれば、わがままなんて言われなくなるのではないだろうか。

 ぜひ、本書を読んでひとりっ子の本音を理解してほしい。筆者は、世の中に多数いるひとりっ子の1人として切に願うのであった。

取材・文=舟崎泉美

イラスト/(C)小山健

ひとりっ子の頭ん中

ひとりっ子の頭ん中
(朝井麻由美/KADOKAWA 中経出版)

ひとりっ子ほど、わかりやすい人間はいない!?ひとりっ子への徹底した対面取材に、きょうだい持ちへのヒアリング、ひとりっ子に詳しい心理カウンセリング専門家への取材など、多角的にひとりっ子を見つめなおした本書で、ひとりっ子の取扱法がまるわかり。