英国で小説化も! 世界が認めた“高倉健史上最異端の名作”とは?

テレビ

公開日:2014/11/30

   

 先日、惜しくも世を去った俳優・高倉健。さまざまなメディアで特別番組や追悼記事が組まれたため、これまで健さんに興味がなかった世代も、その人柄や業績を再認識したに違いない…と、言いたいところだが。熱心な健さんファン及び日本映画愛好家の中には「何故、あの作品の話題が出てこないのかー!!」とヤキモキした人も多いはず。そう、

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> 新幹線大爆破 <
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 ですよ! 1975年に公開された和製オールスター・パニック映画の傑作。公開当時、日本国内では芳しい興行成績を上げることができなかったものの、フランスをはじめ世界各国でスマッシュヒットを記録。米バラエティ誌の追悼記事(Web版)では『ブラックレイン』や『ザ・ヤクザ』とともに代表作として紹介されているくらい、健さん史上重要な作品なのである。ちなみに、関根勤氏もこの映画の超ファン。ソロDVD『カマキリ伝説2』では、作品の全シーンをモノマネで再現(新幹線のマネまで!)していたものです。

 オイルショックの影響で倒産した町工場の社長(健さん)が、元・学生運動家(山本圭)、沖縄から集団就職で上京し夢破れた若者(織田あきら)とともに、社会への復讐を決意。時速80キロ以下になると爆発する爆弾を超特急ひかり109号にしかける…と、大まかな粗筋紹介だけでもワクワクが止まらないこの作品。加えて、ひかり号の運転士が千葉真一! 千葉ちゃんに指示を出す指令室長が宇津井健ってんだから!! なんて、ひとりで興奮してますが、まぁ面白いのでぜひ観ていただきたい。健さん追悼企画なのか、Huluでも配信が始まったようですし。

 でもってようやく本題に。先ほども紹介したように、この作品、海外でも人気が高かったため、なんと英国で小説化されていたりもするから凄い。英ミステリー界の鬼才・トレヴァー・ホイルが変名で書いた『BULLET TRAIN(邦題:新幹線大爆破)』(ジョセフ・ランス+加藤阿礼、駒月雅子・訳/論創社)がそれ。1980年の発表以来、幻の小説版として大爆破ファンに知られていたのだが、2010年にようやく翻訳版が登場した。映画のノベライズということで、ストーリーはもちろんシナリオに沿っているのだが、偶然ひかり109号に乗り合わせたローラ・ブレナンという外国人女性(映画には登場しない)を狂言回しとして、事件や日本人の特性を客観的に描くなど、小説オリジナルの要素が多数含まれている点が大きな魅力となっている。

 ローラは小さくうなずいた。規則を献身的なまでにしっかりと守ろうとするのは、日本のお国柄だろう。だがそれをほほえましく感じると同時に、一抹の不安をおぼえた。彼らは自分たちの築いたシステムに頼りきっている。先進技術を信奉するあまり、さまざまな場面で人間が機械のしもべになりつつある。それはさほど悪いことではないのかもしれない。機械が壊れたり…人間を乗っ取ったりしなければ。(P11より引用)

 といった視点は、昨今の「ホントはすごい日本」ブーム評にもつながるもの。映画本編でも、「新幹線」という技術大国・日本の象徴が揺らぐことで、上から下まで本性あらわにてんやわんやする様が描かれているが、小説版は客観的な視点を用いることで、映画よりもビビッドに日本およびニッポン人が抱える問題を突いている。

 いつの間にやら、古き良きニッポン人賛歌みたいな評価で固定されてしまった感のある「番外地」シリーズや、東映退社以降の「人情味」あふれる健さんの作品群に対し、持ち味である“不器用さ”が日本社会の基盤を脅かすという点で、『新幹線大爆破』は異端の健さん映画だろう。しかし、それだけに健さんをよく知らなかった世代にこそこの作品を観てほしいと思うのは、筆者のような健さんファンだけではないはず。小説版とあわせて鑑賞すれば、高倉健というアイコンに対する印象も変わるのではないだろうか?

文=丹波敏郎(特別筆演)