消える職業のカゲには人工知能の進化があった!?

科学

公開日:2014/12/4

   

 先日、週刊誌で「あと10年で消える職業」が掲載され、「え、自分のこと?」と冷や汗をかいた方もいるかもしれない。“消える”というのは、世の中の機械化が進んでいった場合、機械に取って変わられるという意味だ。その一覧に挙げられた職業は、「銀行の融資担当者」「スポーツの審判」「レジ係」など。つまり、これまで人間にしかできないと思われていた“自分で状況を判断して動く”職業にまで、機械が侵出してくるというのだ。

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 機械が命令通りに動くだけでなく“自分で状況を判断して動く”のは、「人工知能」を持っているから。この人工知能に取り囲まれた社会で人間が就く仕事とは、いったいどのようなものなのか。『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』(松尾 豊、塩野 誠/KADOKAWA 中経出版)から、未来予想図を読み解いた。

人工知能が普及した世界で、人間がする仕事とは?

【未来予想図1】 “仕事をしている感”のための仕事
 人工知能を設計するための限られた少数以外、人間は働かなくてよい。政治を含め、あらゆる仕事は人工知能がやってくれるからだ。しかし、仕事という活動が完全に奪われると、生きがいを感じられない人が続出してしまう。そこで人間は、“仕事をしている感”のために働く、いわば充実感を得ることだけを目的に働くこととなる。

【未来予想図2】 人間系インターフェース職
 パターン化できることは人工知能に任せ、人間は“人に対応する仕事”、中でも“相手の話を分析して答えを返す仕事”をする。具体的には、先の週刊誌に挙げられたような職業が機械化し、医師やコンサルタントなどの対人職が人間の仕事になる。心理カウンセラーや学校の先生など、「安心させてくれる」「やる気にさせてくれる」といった感情に働きかける仕事も人間が担当する領域だ。

 本書の著者2人は、「いずれにしても、人工知能のしくみや特性をよく理解し、自らのスキルを磨くことは、あらゆる職業で大切だ」という。では、人工知能の特性とは?

人工知能は「多くの事例(データ)から1つを選び出す」

 人工知能は、人間と同じように「状況に応じて、自ら何をするか決める」ことができる。しかしどうやって行動を決めるかが、人間とは違う。例えば、人が自動車の運転をする際は、意識の上に“歩行者や他の車とぶつからないように”という認識が先にあって、“信号が赤だからブレーキを踏む”という行動に出る。

一方、人工知能を持った自動運転の車は、“信号が赤だったら” “人が飛び出してきたら”など、状況に合わせて多くの行動のサンプルを持っていて、人工知能がその時々で、その時の状況に最も近い行動を選び出している。つまり、人工知能は、思考をしているわけではなく、選択をしているのだ。

 では、もし自動運転のバスが走行中に、「乗客の1人が死ねば、代わりに他の全員は生き残る」という状況になったら、人工知能はどのような行動を選び出すのか。1人を犠牲にしても多数が助かる方を選択するだろうか。そうだとしたら、死ぬべき1人は「男か女か」「老人か子どもか」…。

 このように、人工知能の判断はシビアだ。我々人間も、これまで白黒をつけてこなかったことに、はっきりとした答えを用意しなければならない。現在常識とされている漠としたものを、1つ1つ点検していく作業が必要になってくる。

 人工知能を知ることで見えてくる、“人間”という生き物。人工知能という言葉に縁遠かった方も、先の週刊誌でどきりとした方も、人工知能への知識を通して“人間とは何か” “自分は何を選ぶのか”を考えた時に生まれ出る、新しい物の見方を楽しもうではないか。高いレベルの幸福が感じられる未来を信じよう。

文=奥みんす